ナンバリング・12
夕子が持つ超能力は、普段はまったく使わない。
というより、自分の意思では使えない。コントロールできるように訓練していたのは、志乃に会う前までで、彼と一緒に留守番をするようになったここひと月は、何もできずにいたから、多分、元に戻ってしまっているだろう。
そのため、最初から勘、という形で発揮されているちからは、今も変わらない。
出掛けているメンバーがいつ帰ってくるか、それに合わせて食事の用意をする……それが、彼女らしい勘、といえた。
味噌汁を温め直し、炊き込みご飯をよそってテーブルに並べ終えたときに、健と志乃が戻ってきた。
「おかえり。アキラが来ているよ」
そう言ったのは高志だ。
隆宏は、その名を出すのも嫌なようで、黙ったままだった。
志乃が、かなり空腹だったのか、香りに誘われるようにそそくさと席に座る。
健は、護がここにいる理由と、今頃まで玲が残っていることに首を傾げたものの、それなら、と夕子に言った。
「先に食べていてくれるかな。ミノルの様子を見てくるから」
「はい。あの、彼とアキラさんの食事はどうしましょうか?」
「アキラさんはオレと一緒でいいよ。ミノルは……そうだなぁ……」
「お粥を作りましょうか?」
と、隆宏を気にしながら尋ねる。
当の隆宏は、やはり嫌いな言葉を聞いたというふうに顔をしかめた。
健が笑って、彼を覗き込む。
「オートミール……と言ったっけ? それも病人食じゃなかった?」
「意地悪だなぁ。そんなもの、買ってこなければないだろう?」
「駅前のスーパーはまだ、開いていたよ?」
つまり、誰かが買いにいけば済むことらしい。
確かに、お粥を作るより、オートミールのほうが栄養価は高い。クセはあるものの、アレンジも可能だから、今の実には、こちらのほうがいいのかもしれない。
仕方ない、と、隆宏が立ち上がった。
「わかったよ。行ってくる」
渋るような態度だったが、何も、買い物が面倒だったわけではない。
ただ、隆宏にとって、見るのも嫌な食材のひとつなのだ。
メンバーの誰かのためでなければ、腰を上げなかっただろう。
玄関へ続くドアを開けたとき、椅子を引く大きな音が聞こえた。
「俺も行く!」
何を思ったか、目の前の料理にてをつけようとしていた志乃が、さっさとついていってしまった。
どうやら、食事はお預けらしい。
せっかく温めたのだが、仕方がない。
夕子は、苦笑しながらお椀を下げ始めた。
「悪いね、ユウコ」
そう言いながらも、健が階段に足をかける。
そのあとをついてきたのは高志だ。
「ケン、あの荷物、どこに運んでいいのかわからなくて置いてあるんだけれど」
一緒に上がりながら言う高志に健は、
「あとで持っていくからいいよ」
と、言った。
「それで?」
「……それだけだけれど……。なあ、ミノルは会えないほど悪いわけ?」
「どうなんだろう? アキラさんからは聞かなかった?」
「彼が部屋に入るなと言ったんだよ。症状を聞く前に……タカヒロが怒ってしまったから……」
上がりきった健が、手すりに手をかけたまま、振り返った。
「怒った? 彼が?」
何があった?
目で問いかけた健に、高志が逆に俯く。
「オレにはわからないよ。試した、とか言っていたんだけれど。……アキラが何を試したのかも、タカヒロが怒った理由も、オレにはさっぱり。それより、ミノルは?」
「部屋に入らないように言っておいたのはオレなんだよ。マモルだけを傍につけるとね。それなら納得できるだろう?」
恐らく、主治医である玲から入室を禁じられたから不安だったのだろう。
それが証拠に、護のためとわかる健の配慮に、高志は明るい表情を向けた。
「それなら納得できるよ」
「わかったら、下で待っていてくれる?」
「それからさ、先に食べていてもいいかな? 体が鈍っているんだ。図書館近くにスポーツジムを見つけたから行ってきてもいい?」
「構わないよ」
今回の場合、健の仕事を高志に回したとしても、運動不足は解消できないだろう。
よく、三日も我慢したと感心する。
あと何日続くかはわからないが、高志はいつも、自分なりの楽しみ方を見つけるから、反対をする理由がない。
それに、彼が言い出したということは、すでに予約を取っているはずだ。
健の快い返事に、高志は時間が惜しいのか、階段を駆け降りていった。
残った健は、目の前のドアをノックして、部屋に入った。




