ナンバリング・11
「え? じゃ、これをどこに置けばいいわけ?」
紙袋を五つも持ったまま、高志は玲に尋ねた。
三日目にして初めて、これほど大量の資料を集められたことに満足して、隆宏にはひとつも持たせずに戻ってきたのに、部屋に運ぶことを止められて、急に重みが増した気がする。
彼らが帰ったとき、真っ先に声をかけたのは玲だった。
戻ってきた高志が、挨拶もそこそこに健の部屋に持っていこうとしたため、入室を禁じたのである。
「ここに置いておくしかないね」
玲がここにいる、ということは、実の具合が思ったより悪いのかもしれない。
だとしたら、入室禁止も当然だ。
隆宏は、あっさり高志に言うと、ソファに腰を下ろした。
「……だよなぁ。でも、後じゃケンが運んでしまいそうじゃないか」
「じゃ、ミノルの部屋に持っていけば? どうせ、そこしか空いていないんだから」
二人のやり取りを聞いていた玲は、
「だから、入室は……」
と、言いかけて首をかしげた。
「二人は一緒の部屋じゃないのかい?」
てっきり同室だとばかり思っていた。
まだ、健たちが仕事を始めて間もない頃、彼らの部屋割りは、大体がそうなっていると、剣崎司令がいっていたからだ。
その時によって、様々なところに行く彼らに、毎回ホテルをあてがうことはない。前もって、現場がわかっているため、普通の家を明け渡してもらうのだ。そのため、その家族は、本部の別館一階に、一時的に移り住む。
手配がつかないときは、一人に一部屋という形でホテルをリザーブすることがないわけではないが、普通の家を借りる限り、そうはいかない。
そのため、何人かで同じ部屋を使う。
玲の診察が必要になる場合を考え、司令は、誰と誰が一緒なのか、教えていたのである。
隆宏は、自分の口許に指を当てて言った。
「キャップにはまだ内緒だよ。言ったらきっと、心配するから」
「二人はケンカでもしたの?」
今朝の連絡では、そんな雰囲気はなかったし、実も健を心配していたからこそ、出ていこうとしていたのだが。
「違うよ。一人、増えたんだ。ミノルはその男と一緒なんだよ、今は。ケンとマモルの二人で、一部屋を使っているよ。彼のことはキャップも知っているんだけれどね。本当は、彼一人で部屋を使わせるように言われているんだ。もう、一ヶ月にもなるよ」
「あっ!」
二人の会話を聞きながら、二階に荷物を運ぼうとした高志が、階段の途中で叫んだ。
「どうした?」
「ミノルの部屋にも入れないじゃないか」
「……あ、そうか。……やっぱりここに置いておくしかないよ。ケンに任せないで、シノに頼めばいいさ」
そういえば、志乃がいたのだ、と、高志が引き返す。
玲は、身を乗り出して、隆宏に聞いた。
「どうもわからないね。どういうことなの? ミノルの部屋に入れないって?」
「理由はよく知らないんだ。でも、多分、ケンのためじゃないかな」
まだ、志乃が同行する前だから、去年のことだ。実は突然、自分の部屋には入るなと言った。それが、健の貧血という診断と同じ頃だから、原因はその辺りだろうと想像はつく。
とはいえ、ならば何故、志乃が同室なのかと聞かれると答えに詰まるのだが。
しかし、メンバーは、その約束を今まで守ってきたのである。
というより、今日のような時のため、液剤をはじめ、薬の類いをリビングにも常備するほど遠ざける実に逆らえなかったというのが現実だ。
「ケンは貧血だったっけ?」
「そうらしいんだ。結構重いって聞いているけれど」
「……ふうん……」
曖昧な返事をして、玲は肘をついた。
が、すぐにキッチンを振り返る。
「いい香りだなぁ」
絵里が、それを聞いて振り向いた。
「今日は炊き込みご飯よ。食べていくでしょう?」
「遠慮なく、お邪魔させてもらうよ」
「……車じゃないわよね? お酒も用意するから」
今日は日本酒だ。もちろん、人肌になっている。
高志もソファに落ち着いて、玲に注ぎ始めた。
「いいのかい? ケンがまだ戻ってないのに」
「相手次第だからなぁ。いつ戻るか、わからない」
「なるほどね。じゃ、遠慮なく」
玲も結構飲めるらしく、隆宏たちを相手に、旨そうだ。
そして、二人も、彼とこうして長く話す機会がなかったから、楽しめた。
いつも、健に付き合っている隆宏たちにすれば、玲と飲んだほうが落ち着くようだ。
大体、ペースが違いすぎるのだ。
健に合わせたら、彼らは確実に潰れる。最初にそれを実感した二人は、以来、それぞれの中で限度を決めて、途中でピタリとやめることにしていた。
健にはいつも、寂しい思いをさせているが、ついていけないのである。
「しかしさぁ、ケンも大変だねぇ。仕事の内容によっては、こうして遅くなるんだろう?」
「まあね。けれど、いつもじゃないんだよ。昨日は今ごろ戻っていたからね」
昨日までの二日間、戻るのが一番早かったのは、高志と実だった。
それはそうだろう。高志が隆宏に愚痴をこぼしたとおり、思うように資料集めができなかったのだ。
初日は、健と護が一番遅く、ほとんど真夜中だった。
昨日は今ごろの時間には全員そろって、食事をしている。
「ずいぶん不規則だね。やっぱり相手の都合なのかい?」
「そうだよ。相手が会社員じゃ、接待とかもあるだろうからさ」
この程度なら、玲に話しても差し障りはないと、高志が言った。
玲は驚いたものの、どこか納得しないのか、曖昧に口許を緩めた。
「彼がノーマルの接待なんて、するわけ?」
「違うよ。直接の接触はしていないんだ。ただ、その相手が、接待とかあるだろうから、ということだよ」
「なるほど。なら、わかるよ。……そういう人って、結構夜が不規則な人もいるからね。接待とか、付き合いとか、何事にも口実をつけて飲む人もいるし。……と、すると、ケンなら歓迎できる仕事なんじゃない? 酒、好きだもんね」
隆宏たちは笑って、しかし、それに対しては否定をした。
「いくら好きでも仕事中には飲まないよ。第一、マモルが相手じゃ、面白くないんじゃない?」
玲は、護をよく知っている。腕を組んで考えながら、
「確かに……面白くない、か」
と、同意した。
飲んで、暴れる人がいる。陽気になるひともいる。反対に、暗くなる人もいる。それは様々だが、護は、そのどれでもない。
自分の範囲をしっかり理解して、決して見失うことなく冷めた目で、相手に付き合うだけなのだ。
もっとも、冷めた目、とはいうが、普段から表情が現れることが少ないため、そういう印象すら、当てはまらないのだが、その上、ほとんど話をしない。
一緒に飲んでも、面白くない相手の典型だろう。一言でいえば、付き合いが悪い。
玲は、一口飲み干すと、二人に笑いかけた。
「まあ、それならいいか。外では飲まないんなら、心配することもないだろうし」
「どういうこと?」
「ん? ……これは、余計なことなんだけどね。彼、貧血なんだろ? っていうか、誰でもそうなんだけど、飲みすぎるのも体によくないんだよ。前から気にはなってたんだけど、よく考えたら、いつも傍にいるミノルが何も言わないからね。僕の杞憂なんだろうな」
猪口を片手に、高志の動きが止まった。
「それって、限度を知っていれば大丈夫なんだろう?」
「君たちはどれくらい飲むんだい?」
「オレはそんなに飲めないけれど、……タカヒロは……」
「君よりはいけるかな。けれど、到底ケンには追い付けない」
玲が笑った。
「ダメだよ、ケンを基準にしちゃ」
「わかっているけれど。……そうか……彼は、飲みすぎの部類に入るんだよね」
手に持った小さな猪口ひとつでも、注ぎ続ければ一升瓶くらい空けるのはたやすい。それを、健は繰り返し続けてきたのだ。
隆宏は、テーブルにそれを置いて、玲に向き直った。
「アキラさん、ミノルはアルコールを受け付けないんだけれど、酒飲みの気持ちがわからないからケンを止めない、ということはないんだろうか?」
「それはないだろう? ミノルも医師免許を持っているんだ。医学的に、体への影響を知っているはずだよ。僕は、正直、専門外だ。でも、もしケンが言うことを聞いてくれるなら、医者としての立場から、禁酒を勧めたいところだ。もちろん、禁煙もね。……なのに、彼にもっとも近くにいて、医学を知っているミノルが何も言わないということは、影響がないと考えているか、あるいは……」
思わせ振りにわざと、言葉を止めて玲は、小さく頭を振った。
「あるいは……なんですか?」
ふと、見えた、彼の諦めたような吐息に、隆宏の心の中で、何かが警告を発した。
これは……
……不安……か?
玲は何を考えているのだ? 何を、言おうとした?
その心中を知ってか知らずか、玲が小刻みに手を振る。
「何でもないよ。言ったじゃない。僕の杞憂だって。君たちはミノルを信じてるんだろう? 心療内科の医師のいうことなんて、気にしないで」
これは……間違いない。
「まさか……あなた……」
みるみる心の中に不安が広がっていく。
玲は、肩をすくめて、言った。
「心療内科の医者って、こういうこともできるんだよ。……気づくのが遅かったね」
「え? ……なに?」
訳のわからない会話に、高志が割って入った。
しかし、隆宏は、その言葉も耳にはいらなかったのか、玲を睨み付ける。
「何の目的でこんなことを……。ミノルの診察で来たわけではなかったのか? オレたちに……」
「誤解だよ。僕は別に、他意があって言った訳じゃない。ミノルのためには違いないんだし」
「疑うことがですかっ? それだけじゃない! 疑わせることが彼のためだというのか!」
精一杯の怒鳴り声に、キッチンにいた絵里も夕子も、思わず振り返った。
彼女たちに目を向けて、玲は何事もなかったかのように立ち上がる。
「そろそろミノルの様子を見てくるよ。じゃあね」
平然としている。
階段を上がっていった後ろ姿を睨み付けていた隆宏は、玲が視界から消えると、乱暴な仕草で頭を抱えた。
隣にいた高志が、心配そうに覗き込む。
「どうしたんだよ? なんだったんだ? 今の会話」
「……気がつかなかったのか? 彼は……試したんだ」
「試す?」
言葉に対して敏感に反応する高志が気づかなかったほど、玲の誘導は巧妙だったということか。
それとも、自分が、思った以上に何かを感じていた、ということか。
「タカシ……。気がつかなかったのなら、今のことは忘れてくれ」
「忘れてって……言われても……」
「頼むよ。もう、聞かないで」
それきり、隆宏は黙りこんでしまった。
この誘導が、どういう目的だったにしろ、玲に悪意があったとしか思えない。
実のため……そんなことが、あるものか。彼は、確実に、実の診断を疑っている。そして、それを隆宏たちに示唆していた。
一度疑ってしまえば、信じ直すことは容易ではない。
実際、隆宏は、彼の言葉に、実を疑う要素を見出だしてしまった。
『あるいは……もう、好きに生きてくれといっているのかもしれない』
そう、聞こえてしまった。
実の変化を見てきたから。
健に対する、異常な気遣いを目の当たりにしていた、から。
ノックをしてドアを開けたとき、実は半身を起こそうとしていた。
リクライニングの動きは、体に負担がかからないようにゆっくりとしていて、玲が入ってきたのは知っていたが、ちょうどいい角度になるまで、何も言わない。
「止めてくれ」
玲が、ベッドの縁に腰をかける。
護がスイッチから手を離すと、実は枕を取り上げて、抱え込んだ。
「ケンはまだ戻ってこないのか?」
「まだだね。……具合はどう?」
「いいわけがないだろう? 一日中ベッドに押し込められているんだぞ。いつまで閉じ込めればおまえの気がすむんだ?」
相変わらず、言葉に棘がある。最初の時ほどの鋭さはないものの、微妙に玲を、壁で遮っているのだ。
もちろん、こうでなければ実らしさがないのだから、玲が気に留めるはずもない。
「別に、僕は閉じ込めるつもりはないよ。ケンに判断を任せるつもりだから、文句は彼に言ってよ」
軽い冗談に、実が彼を見据えた。
玲が、それをあっさり受け流して、笑う。
「回復が遅れるよ。むやみに人の心を覗くのは感心しないな」
実の体質を実感している玲には、自分なりに感情を遮断する術を身に付けていた。
しかし、自分を隠そうともせずに言った彼に、実のほうがフイ、と横を向いた。
確かに、些細なことで他人の感情を引き入れるには、疲れがたまりすぎていた。
「タカヒロたちと話がしたかったから下にいたんじゃないのか?」
「そのつもりだったんだけれどね。警戒されちゃって。……この分じゃ、嫌われたかもね」
「余計なことでもいったんだろう?」
「まあね。言いたくもなるよ。……ま、いいけどね。君にも話があったし。悪いけど、マモル、席をはずしてくれない?」
小さく頷いて、護が部屋を出るのを見届けると、彼は自分が持ってきた鞄からまた、聴診器を取り出して、実を診始めた。
「今度は形だけね。……さっきも気になったんだけど、少し不整脈があるんだ。気がついてた?」
「ああ」
「自律神経が弱っているよ。寝てないんだろう?」
今度は、本当に形だけだ。すぐに聴診器をはずすと、鞄に納めてしまった。
「話はね、ケンの許可が出るまで安静だということ。薬の処方をしたいんだけど、ここじゃできないから、一度戻って、また来るしかないんだ」
と、言ったものの、詳しい診察をしたわけではない。
そして、それくらいなら実も理解している。
「そんな簡単な話でマモルを追い出したのか?」
「もっと重要なことならよかったのかい?」
まるで、互いに探りあっているようだ。
もっとも、玲には目的があったらしく、悪びれることもなく言った。
「言いたいことは山ほどあるけどね。やめておくよ。ただ……ちょっと僕なりのいたずらはさせてもらったよ。君が治ったときに、どうタカヒロたちを言いくるめるのか楽しみだ」
「何を……した?」
「いずれわかるんじゃない? ……ねえ、ケンのことを剣崎さんは知ってるの? それとも、彼にも貧血だってごまかしてる?」
はっきりと、実の目の色が変わった。殺気を含む、きつい瞳だ。
彼には、他人の心の言葉を読み取ることはできない。わかるのは感情のほうだ。
だが、それを補うように、他人を推理する能力が発達している。
「警戒された……と言ったな。タカヒロたちに何を言ったんだ?」
一年前は、この瞳に怯えたものだ。
しかし、今は軽く流せる。
玲は、真正面からその視線を受け止めてなお、はっきりと言った。
いや、逆に、いつもの、人好きのする笑顔ではなく、医者として見据えながら。
「その様子だと、やっぱり彼らにはごまかしていたわけだ。君らしくないじゃないか。彼らを信じていないのかい? それとも、自分の腕を過小評価しているの? 治せないわけじゃ、ないだろう?」
「バカな……! ことをしてくれたな! 治せるのなら、嘘などつくものか! あいつはノーセレクトなんだぞ! ノーマルの白血病なら、隠す必要はなかったんだ!」
掴みかかろうと身を乗り出したが、玲の動きのほうが早かった。
あるいは、予想していたか。
それとも、体が弱っている実の反応が鈍っていたのか。
いずれにしても、実は、思いきりベッドに押さえ込まれた。
上から体重を押し付けて、玲が弱々しく呟いた。
「そう、だったのか……」
「離せ! 何を今さら……」
「とにかく、力を抜いてくれ。落ち着いて……聞いて。……悪かったね」
諭すような口調に、実の力が抜けた。
いや、抑えられた玲の腕から、彼の感情が流れ込んできたから、というのが理由だ。
実が動かなくなったのを確かめて、それでも深くため息をついてから、玲は、離れると椅子に座った。
彼が口を開いたのは、更にあとだった。
自分を落ち着かせてから、ようやく、実に謝った。
「ごめんね、ミノル。病人に言うことじゃないのはわかってたんだけど。……安心して。彼らには何もいってないから。誘導はしたよ。でもね。彼らが貧血だって思い込んでるのに、僕に病名がわかるわけないじゃない。……僕はね、君の口から聞きたかったんだよ」
「何のために……」
「あのね。僕のすることと言ったら治療しかないだろう? 君を治すためには、ケンたちの協力は必要じゃないか。そのためには、最低限、君を知らなきゃ。……今の君は、肉体的な疲労じゃないんだ。わかっているだろう?」
玲は、りくらいにんぐのを、少し寝かせた。
「落ち着いて、話を聞いてほしい。……僕は、君たちの役には立てないかもしれないよ。でもね、少なくとも、剣崎さんや他の人よりは君たちを知ってるつもりだ。……君は、彼らに秘密を持つには繊細すぎるんだ。でも、ケンのことだけではこうはならなかったんじゃない? 他にも何か、隠しているね?」
「……」
「黙っているということは、図星か。……安心して。そこまで聞くつもりはないから。ただ、秘密を増やしたのなら、せめて、話せることを僕に打ち明けてくれないか? 溜まったものを吐き出すのも、必要なんだよ」
これが、玲のやり方なのだ。心をフラットにして、患者の気持ちに入らず、それでいて、柔らかく誘導する。相手が心を閉ざしているのなら無理に聞き出さず、時間をかけて気持ちを溶かすところから始める。
しかし、実に対しては、時間がなかった。
臨機応変に、というには強引すぎたが、僅かでも話してくれる可能性を信じたのである。
実の場合、自分の悩みの置き所がなかったと言ってもいい。
メンバーにすら話せないことがあるかぎり、ストレスは溜まるだけだ。いつかは破裂する。
実の精神力は、メンバーの中では最低なのだから。
「いいづらいなら、こっちから聞くから。ケンの、そのことだけでも……」
「アキラ」
諦めたのか、ふ、と目を逸らし、彼の言葉を遮った。
「なぜ、……隠し事がひとつじゃないと思ったんだ?」
「……君とこの間あったのは、本部の医務室だったよね。あの時はケンに呼ばれたんだけど、君を診るためじゃなかったんだ。だから、何かあったことは想像ができたけど、事情がわかったのは剣崎さんから聞いたときだ。あの人も、ケンは貧血だと言ってた。それから、今日呼び出されるまで、日数が経っているから、彼のことは、君なりに整理がついていると思っていたんだよ。だから、見当をつけたわけ。メンバーに彼のことを隠していても、とりあえず平穏でいた君が、今日になって具合が悪くなったというのなら……」
彼は、実に触れることなく、ベッドの縁に両手をついて、続けた。
「メンバーに、じゃない。ケンに、言えないことがあるんだって、思った。それ以外に、考えられないよ。だからね。僕はそれまで聞くつもりはないんだ。ただ、言わせてもらうと、例えどうにもならないことでも、話して楽になることも、あるんだよ。君から聞いたことは、僕は絶対に他言しない。少しでもいい。楽になろうよ。ね?」
優しく諭す彼の、その感情が、実にため息をつかせたと言える。
信じていいのか、まだ迷いはある。
隆宏たちに、いたずらと称して誘導した彼に、打ち明けていいものか……。
本当ならば、隠していいはずがないメンバーよりも、主治医というだけの彼を、信用できる、……わけもない。
だが、彼を呼んだのが健だ、ということを思い出したとき、ようやく実は頷いた。
「……わかった。あいつらに言えないことを話すだけだ。何があっても、口外しないでくれ」




