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TOGETHER  作者: SINO
~第一部 初めの時~ 一章 それぞれの器 それぞれの役割
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ヨコハマ 2

 入り口の脇にひっそりと立っていた人影に、先に入った健は思わず足を止めた。

 かろうじて最初に写真を見ていたからか、いや、だからこそその男が護だと確認するのに一瞬、遅れた。

 確かに、写真とは違う。

 乱雑に切ってあった髪は、すっきりと切り揃えられていた。

 元々、……恐らく、健の髪より柔らかいのだろう、多少短くなっている分、軽く見える。

 女性のような顔立ちも、今は僅かに首をかしげる程度だ。

 そして、なによりその瞳だ。

 一点を見据えていたその目が、足を止めた健に移り、ほんの少しだけ首を傾けた。

「ケン?」

 後ろから夕子が覗きあげる。

 健は、ハッとして彼女を振り返ると、護のいる側に体をずらし、そのまま手を差し伸べた。

「ソファのところにエリがいるよ。彼女の隣に行っておいで」

 健たちの姿に、すでに高志や絵里が手を振って呼んでいた。

 夕子は彼を見上げ、返事をするとソファに足を向けた。

 護が気になったものの、自分もあとに続く。

 絵里は、隆宏と高志の間に座っていたから、自然夕子も彼らの間に招かれ、まず、三人に会釈をした。

 少しだけ言葉が引っ掛かったものの、そんなことを気にするような者はいなかった。

 途端に話しかけてきたのは、やはり高志だ。

 かなりの話好きだと資料には記載されていたが、実際に聞いてみると、早口というわけでもなく、どちらかというとハッキリと発音するような感じだった。

 健は、夕子に対して矢継ぎ早に隆宏や絵里の紹介までしてしまった彼の隣に腰をかけて、ふと、護に顔を向けた。

 本当に、きれいな顔だ。まるで、人形のような白い肌をしている。

 しかし、健が気になったのはそれだけではなかった。

 グレイの長袖のシャツを着ていたのだ。

 冷房の効いている室内だが、北海道で暮らしていた健には少々暑苦しく見える。

 しかも、首元までしっかりボタンで留めていた。

“外に出たら暑いだろうに……”

「ケン、だよね?」

 突然、隣から声がかかった。

 護に呼び掛けようかと迷っていた健は、声を押し込んで振り返り、頷いた。

 高志が、なぜか護のほうを盗み見て、息をつく。

「よかった」

「? なにが?」

「マモルに声をかけなくてさ」

と、また、チラ、と目を向ける。

「迷っていたんだ。どっちかな? って。……オレたちが最初にここに来てさ、次があの……ミノル」

 実に対しては、意識的に視線を向けないようにしているようだ。

 当の実は、一番窓に近い端に座って、背もたれに腕をかけたまま外の景色を見ていた。

「タカヒロがね、……あ、エリの隣が彼だよ。なんか、ミノルに会っていたらしくてさ。それで……そういえば、自己紹介、まだだったよね」

「タカシ……さっき、自分でユウコに名乗っていなかった? 聞いていたつもりなんだけれど?」

「……そうだった、ゴメン。それでさ、見たら驚くよって、タカヒロが言っていたんだ。オレたち、ミノルのことを弱い奴なんだろうって話していたんだけれど……君はどう思う?」

 のっけから答えにくい質問をしてくれる。

 健は、苦笑交じりに高志に向き直った。

「マモルとオレのことで迷っていた理由を話していたんじゃなかった?」

 話好きというのは、話題がコロコロと変わることなのかと首をかしげたくなる。

 最初の話題を振られて高志は、直前の問いかけを忘れたかのように言った。

「それなんだけれど、マモルはさ、ミノルのすぐ後に入ってきたんだ。オレたちにちょっと頭を下げただけで、ずっとあそこにいるんだよ。見てわかると思うけれど、すごく落ち着いている……というか、大人びているだろう? 確か、年はオレとひと月も離れていないはずだから、エリが、彼は間違いなくケンだって……」

「間違いなくとは言っていないわ」

 聞こえていたのか、夕子の肩越しから、絵里がピシャリと言った。

 そのあとで、健に笑いかける。

「多分、と言ったのよ。あたしはね」

「直接確かめればよかったのに。君たちは声もかけなかったの?」

 言葉を継いだのは隆宏だった。

 どちらかというと、絵里たちよりも実のほうに思うところがあるらしく、先程からチラチラと視線が彼のほうに動いていたが、こちらの話も同時進行で聞いていたのだ。

「タカシが声をかけたようだよ。こっちにきたら? って。でも……」

「ありがとうって、一言だけだった」

 すかさず、高志が口を挟む。

「そう……」

 健の呟きが、護のほうに向いた。

 実のように、他人を拒絶しているわけではなさそうだ。

 そういえば、健の姿を見たときも、会釈をしたようにも見えた。

「ちょっと、声をかけてみるよ」

 言いながら、席をたつ。

 ドアの横でひっそりと、彼は外を見ていた。

 窓に映る青い空を……と、思って、健がそちらに目を向けてみたが、どうも微妙に窓から外れている。

“……ミノル……?”

 自分の視線の先に、実がいた。

 健が動いたことも、護は気づいているはずだ。

 しかし、関心がないのか、それとも気づかないほど夢中になっているのか、視線が動かない。

「マモル、こっちに来ないか?」

 健は、わざと彼の視線の前に屈んだ。

 突然、視界に現れた健に一瞬驚いたということは、気づいていなかったらしい。

 護は、真正面に見えた彼を無言で見下ろし、それからゆっくりと一度、首を振った。

 話しかけた相手が誰なのか、尋ねる雰囲気もない。

 ただじっと健を見つめ、やがてフイ、と本棚のほうに顔を逸らした。

「オレたちのところは、嫌かな?」

「ここ……では邪魔、か?」

 囁くような声には、刺がなかった。包むような、丸く、甘い響きがある。

「そういう意味ではないんだ。ただ、一人でいるよりもいいんじゃないかと思ってね」

「……ありがとう」

 とはいえ、やはり動く気はなさそうだ。

 健も、それ以上の無理強いをしなかった。

 基本的に、無口だと記載があった。

 それも、わかる気がする。

 夕子も言っていたが、話下手にとっては、他人との会話に戸惑うのだという。

 ここで、隆宏たちの中に入れても、話さないのならば一人でいることと同じだ。

 実のように、全身でメンバーさえ拒否する雰囲気をさらけ出していない分、打ち解ければそれなりに対応できるかもしれない。

「ケン、来てください」

 夕子が笑っていた。

 人と話をしたいという思いがある限り、彼女ですらこうして、たった三日で屈託なく声をかけることができるのだ。

 隣の絵里も、手招きをしている。

 賑やかな一角に頷いたが、健はまた、護に向いた。

 もう一つ、聞きたいことがあったのだ。

「マモル、夕べ何があったのか、聞かせてくれないか?」

 剣崎司令は、健を立ち合わせなかった。

 それなら、直接尋ねればいい、程度の気持ちでしかなかったが、護は、相変わらず彼を見据えて、ほんの少し首をかしげただけだった。

「君の部屋にキャップが行ったときのことなんだけれど」

 少しの間があり、護は目を伏せて、首を振った。

「知らない」

「知らない? 夕べの……」

 あとが続かなかった。

 いきなりドアが開いたのだ。

 まず、ワゴンが見えた。

 二段になったそれは、ジュラルミンの箱を八個載せていて、まるで現金を運んでいるようにも見える。

 もっとも、箱自体はそれほど大きくはなかったし、運んできたのはアイボリーの作業服を着た男性だったが。

 彼はそれを、部屋の中央よりで止めると、誰にともなく一礼をして出ていった。

 隆宏たちが話を止め、ワゴンに目を向ける。

 男性と入れ違いに、剣崎司令が入ってきた。

 入り口付近の二人に気がついて、

「マモル……君は……」

と、言いかけて、すぐに健に言った。

「君は席につきなさい」

 素直に従う。

 司令が、護を廊下に連れ出すのが見えた。

 ドアが閉まったのを確認して尚、司令が声を潜める。

「昨日、何時頃ミノルに会ったのだね?」

「? ……ご存じ、でしたか?」

「いや、これは鶴野君の推理なんだが。君の部屋の内線が私の電話に転送されたのだよ。夜中の一時頃だ」

「見かけたのは……夕方です」

 護が本部についたのは、六時を少し過ぎた頃だった。

 と、すると、六時半ころか。

 夜中まで、約七時間━━。

 それならば、あの部屋の現状も理解できる。

「意識的に連絡をしたわけではなかった、ということか……」

 聞き取れないほど小さな呟きを護は聞き流し、口を開いた。

「部屋が……変わっていましたが……」

 護が部屋を出たときに気がついたのは、一番エレベーターホールから離れた部屋にいたということだ。

 司令は、気まずそうに咳払いをして、彼を見上げた。

「それは……君の部屋に不備があっただけだよ。しかし……鶴野君の言う通りだったな。前もってミノルを見ていてよかったのかもしれない。今日は大丈夫だね?」

「……はい」

 躊躇いがちの小さな返事だった。

 大丈夫もなにも、護には、実を見かけたあとのことがわからないのだ。

一体どうなったのか、聞きたくても、いつも周囲は言葉をごまかしてしまう。

 誰もが気を使っている。

 状況を説明しないのは、恐らくそのことで、更に彼に負担をかけると思ってのことだろう。

 だから、護も強くは聞かない。

 彼を見守る思いこそ負担なのだと言いたくても、結局はそこ止まりなのだ。

 深く掘り下げるほどの気力すら、護にはない。

「さあ、部屋に戻ろうか」

 やはり司令も、護のことを何一つ、理解していないのだ。

 先に立つと、さっさと中に入ってしまった。

 健はすでに席について、高志の話を聞いている。

 隆宏は実が気になるようで、時おり彼のほうを盗み見ていた。

 当の実は隆宏の隣にいるものの、彼からは少し離れていて、相変わらず我関せず、というように外に目を向けたままだ。

 本当ならば護にも座ってほしかったが、司令はあえて、

「辛くなったら、私の席に座りなさい」

 そう言って、自分だけがワゴンの脇に立った。

「待たせたね」

という声で、健たちが彼を見上げる。

「私自身は君たちに会っているが、お互いは初対面だ。もう、紹介は済ませたね?」

 主に、それは高志に向けられた。

 彼ならば、一通り全員に話しかけていただろうと想像してのことだ。

 結果的には、実にだけは話しかけていなかったものの、とりあえず全員が顔を合わせたということで、高志は得意気に頷いた。

 それに頷きかえし、司令が話を続ける。

「これからは、君たちは一緒に行動することになるよ。実際に、今日から動いてもらうのだが、その前に、少し話を聞いてもらいたい」

 健が動いた。

 いつも持ち歩いている小さなポーチからタバコを出すのを見て、隣の高志がさりげなく灰皿を引き寄せる。

「二十五年前にセレクトコンピューターが法律になったのは知っているね。その回答は、あくまでも個人の才能を知るためのものだ。もちろん、もう社会に出ているものもいる。だが、それ以上の年齢の人たちは、以前の体制のままだというのが現実なのだよ」

 司令の話によると、コンピューターで出た長所を生かして働いている少数の人の中には、旧体制の人たちのやっかみで邪魔をされていることが皆無ではないらしい。

 特に、専門職といわれる場所では、何の苦労もなくこなす技術を持った若者に対して見られるという。 

 全てがそういうわけではないが、あとなん十年かの時間をかけなければ、落ち着いた制度にはならないだろうと言った。

 そして、それは健たちにも当てはまるのである。

 彼らは、一つの才能どころか、本気になれば何事も努力なく身に付けられるのである。

 管理をする立場から言えば、だからこそ、彼らを使い捨てのように扱うことしかできなかったといえる。

 ただ、これは先日、健だけは聞いていた。

 今も、司令は一般論としてしか口にしていない。

 彼らを育てたレイラーたちですら、教育の段階で彼らに言い聞かせていたのは、世の中のためになることだという信念だったのである。

 使い捨てのような存在、そして人工的ノーセレクトを生み出せるまでの布石だ、などと言えるわけがない。

「私が言いたいのは、君たちには今後、自分の道を見いだしてほしい、ということだよ。今は、入ってくる仕事をこなしてほしい。それがどれほどつまらないものでも、嫌なことでもね。だが、いずれはそれが本当に自分に合っているかを考えるようにしてもらいたい」

「何……それ……」

 途中まで神妙に話を聞いていた高志が笑いだした。

 もちろん、隆宏たちも、納得がいかないのか、呆気にとられていたのだ。

 実でさえ、司令に目を向けたくらいだった。

「それって、まるでオレたちが自分の考えを持っていないみたいじゃないか」

「違うのかね?」

 キッパリと聞かれ、彼は口をあけたまま、夕子や絵里に首をかしげた。

 特に、司令がレイラーだった夕子には、話を聞いていたか? と目で問いかけたが、彼女も初耳だったらしく目を丸くしている。

 ただ、健だけは事前に事情を聞いていたため、思いは違っていた。

 軽く体をずらして、メンバーに向き直る。

「セレクトされた能力が個人の考えに沿っているかはそれぞれだと思うんだよ。能力がないが、やりたいことがあるという人もいるんじゃない? オレたちは、その選択が広がっていたにも関わらず、同じことをしなくてはいけないんだ。そのための訓練や教育もあったよね。でも、正直な話……オレは科学者になりたかったんだよ。それが、自分のやりたかった道だ。君には……そういうものはなかった?」

 高志は、しばらく考えていたが、恥ずかしげに笑った。

「そういう夢なら、人の看護……かな。ボランティアにも興味はあったよ」

「あたしはそういう夢はすべて捨てるように言われていたわ」

 絵里が、首をすくめた。

「ノーセレクトには目的があるからってね。でも、夢を見ること自体は自由だった。弁護士に憧れたものよ」

と、言いながら、クスッと笑う。

「友人からは、教師に向いているとも言われたわね。……キャップ、あんたが言いたいのはそういうことね?」

「私は、ユウコのレイラーだったが、親元から引き離した上に、自分の夢を制限するやり方には反対なのだよ。それでも彼女を育てたのは、君たちがいたからだ。それは、君たちのレイラーも同じだ。一人では無理なことでも、君たち、と言い変えれば不可能ではないはずだ。束縛する権利は、誰にもないのだからね」

 チラリと、目だけを実に向ける。

 彼は何かを言おうとしていた。

 今の言葉で、反感でも構わない、せめて微かな感情でもぶつけてくれればと思ったのだが、結局彼は司令の視線に気がついて、また窓の外に顔を逸らしてしまった。

 ━━二日前に、突然司令室のドアが開いて、入ってきた実は真っ直ぐデスクの前に立った。

「部屋は……どこだ?」

 その一言にすら、何の感情も含まれていなかった。

 子供の頃は、会うたびに瞳を輝かせ、オーバーアクション気味に頭を下げた面影はかけらもない。

 一応、本部の説明をすると言った司令に対して、断る様子もなく反面、返事もなかったのである。

 まるで、一枚の絵に話しかけるように一通りの説明をした司令に、やはり何も言わずに部屋を出ていった。

 その日の夕方にエレベーターの薬の件と、夕食のことで内線があったものの、それきり彼の声を聞いていない司令にすれば、これから先のことを心配するのは当然だったろう。

 誰かの言うことを、賛成しなければ、反対もない。

 レイラー・千春のために医師免許をとった頃の気迫がないのだ。

 司令の言葉は、ある意味、実にこそ考えてほしかった。

「……さあ、本題に入ろうか」

 結局、望んだ態度が期待できないとわかり、司令は健たちに向き直った。

「今からこれの……」

と、手元のケースに手を添える。

「説明をするよ」

 メンバーに対して、八つの箱の意味は、配られてからわかった。

 箱の持ち手部分にそれぞれ名前が入っていて、彼ら専用のもののようだ。

 最後の箱は、中身を説明するための予備だったようで、健たちが見ているなか、司令はそれを開けた。

 このケースは、裏表の両面が開くようになっていて、どちらが表というわけではない。

 とりあえず上になった部分から取り出したのは、スリムだが、やや大きな銃だった。

 武骨なイメージはない。弾装の類いがないからだろう。

 グリップの根本に小さなダイヤルがついているだけだ。

 司令がそれを回すと、歯車が噛み合うような音がした。

「これは、レーザーの威力が分かれるダイヤルだ。君たちが練習で使っていたものにはついていなかったね。五段階で、一番弱いものが練習用の威力になっている。一番強いものは殺傷能力があるが、あくまでも護身用だということを覚えていてほしい」

 決して楽しい話ではないのだろう。

 どちらかというと、嫌々説明しているように聞こえる。

 ケースの中から小さな箱を取り出して、予備のバッテリーだと言いながらグリップの底の、突起を弾いて中のものと入れ換える動作も、覚えてきた説明を伝えるだけという感じだ。

 だが、それも当然だった。

 いくらレイラーだったとはいえ、彼自身は武器を持ったことも使ったこともない。

 まして、所持使用の許可すら持っていない。

 他のレイラーたちも同じだった。

 彼らの訓練は、武器の持ち方から構えかた、使い方までマニュアルがあり、それを元に付き添っていただけなのだから。

 マニュアル自体が映像で、細かいところまでも映し出されていれば、持たなくとも教えることはできる。

 わからないところがあれば、その都度、詳細を送ってもらうことが可能だった。

 今、重そうに銃を持っている司令が、構えの基本すら知らずに無造作に扱っている様子にも頷ける。

 その代わり、ソファの片隅で、実がケースを開けて銃を取り出すとダイヤルを興味深げに回して、何気に構えた。

 こちらはさすがに堂にいっている。

 彼の癖なのか、銃自体が斜めに傾いていたが。

 正面にいるわけではないが、L字になったソファの反対端にいた健には、その理由がすぐに理解できた。

 実の利き目が左なのだ。右利きの手に銃を持つと、そういう癖がついてしまうのかもしれない。

 司令は銃をワゴンに置くと、今度は反対側のケースの蓋を開けた。

 取り出したのは、合計三本のスティックだった。

 違いは、片端についている飾りだ。

 トランプでいう、クローバー、ハート、そして、ダイヤの形になっている。

 銃と同様、本体が黒く、飾りは赤い。

「ここを叩くと……」

 飾り部分がスイッチになっていた。

 左手で叩くと、反対側が二つに分かれて、光が刃の形になった。

「こうして刃が出てくるが、気を付けなければならないのは、これのエネルギーパックは小さいから、長時間は使えないということだ。一時間が限度だろう。これがフェンサー、ハート型のものがナイフ、クローバーが細身の錐の形になるよ」

 もう一度叩くと、割れていた先の部分が、刃が消えると同時に閉じた。

「これらには君たちの指紋が記録されているから、メンバー以外の人間がスイッチを押しても作動はしない。注意してほしいのは、刃が出ている状態で他人の手に渡さないということだ」

 言いながら、持っていたものをケースに納めると、剣崎司令はしばらくそれに目を落としていたが、やがて、やりきれないという具合に息をついた。

「本当は、このようなものを使ってほしくはないが……。身を守るためには必要になってくるからね。上手く使い分けなさい。それから、ケースの中にはもう一つ、このようなバンドが入っているよ」

 それは、腕時計の形をしていた。

 しかし、もちろん機能はなく、ただ、バンドに薄いプレートがついているといった類いのものだ。

 プレートの横に、やはり小さなスイッチがついている。

「手首に巻いてスイッチを押す。そして……こう……」

 司令は軽く手を振り上げた。

 上がった手の先へと、一直線に何かが伸びた。

「ワイヤーは、強度がある代わりに、細いから手を切らないように気を付けなさい。スイッチをもう一度押せば、自然に巻き付くようになっているから」

 下に落ちたワイヤー━━というより、テグスに近いそれは、言葉通り、スイッチひとつで少しずつバンドに収まっていった。

 その途中で手首からはずし、ワゴンに置く。

「最後に渡すものはこれだ。……ケン」

 ワゴンの二段目には、紫色の小さなプラスチックケースが置いてあった。

 その中からカードを取り出すと、名前を確認して一枚、健に手渡しながら言った。

「みんなに言っておくが、ケンが君たちのリーダーになる。彼を中心に行動をしてもらいたい。次のカードはミノル、君のものだ」

 気に入ったのか、銃を手に持ったままの実はカードを、軽く手を差し出しただけで受け取った。

 一瞥して、すぐにテーブルに放る。

「君は、サブリーダーとして、ケンを補助するように」

 そこまでは聞いていなかったため、驚いて顔を向けた健と、実の目が合った。

 健のほうを凝視している。

 その間、司令は隆宏たちにもカードを配っていたが、実はフイに視線を逸らすと、

「キャップ」

 ここに来て初めて口を開くと同時に、銃口を司令に向けた。

「自立しろというのならば、今でも構わないな?」

 今度の構えは本気だ。

 周囲がそう思ったときには、実は引き金を引いていた。

 細い光が離れると同時に、隣の隆宏が反応できたのは奇跡に近いスピードだったろう。

 実に倒れかかった彼と、全員が腰を浮かせたとき、だが、遅かった。

 光の先に━━

 司令を突き飛ばした護の右腕があった。

 手首よりも肘に近い部分から、細い煙が一筋上がった。

 撃たれた痛みで声を洩らしながら護を見て、実が右手を抑える。

 銃が落ちた。

「マモル!」

 一番近くにいた健が、咄嗟に近寄ろうとしたが、

「ケン! 座りなさい!」

 司令の声に、動きを止めた。

 ゆっくり立ち上がった司令が、護に向く。

「医務室に行きなさい。私も行くから」

「……はい」

 相当痛むのか、護の返事は小さく、腕を抑えたまま司令と共に部屋を出ていった。

 上にのし掛かっていた隆宏が、申し訳なさそうに離れたが、実は右腕を抑えたまま動かない。

「ゴメン、ミノル。咄嗟のことだったから……。腕、捻ったかな?」

 二日前の仕打ちは、今の隆宏の頭にはなかった。

 本当なら、司令に銃を向けたことも腹のたつ行為だったのだが、踞って腕を抑えている彼を前にすると、やはり心配の方が先にたってしまう。

 実は、痛みを我慢しながら首を振って、ようやく体を起こした。

「おまえの……せいじゃない。気にするな」

「だって……その腕……」

 健が、テーブルを回り込んできた。

 実の隣に座ると同時に、腕を引き寄せる。

 痛みで声が上がったが、見ても傷らしきものはなかった。

「どうしたんだ? ミノル」

 そう聞き直したのは、健の位置からではどう見ても、隆宏が原因で痛めたとは見えなかったからだ。

 実は、健に腕をとられたまま顔を逸らした。

「すぐに治る……。オレに触るな」

「本当に捻ったのか?」

「ちがう」

「……なら……」

「うるさいんだよ! 手を離せ!」

 自分から振りほどこうとしない実は、怒鳴り声に驚いて、思わず健が手を離した途端、立ち上がって彼を押し退けた。

 ドアを開けて、出ていく直前に振り返る。

「リーダーなんだろう! おまえの仕事はそいつらの面倒を見ることじゃないか。オレに構うんじゃない!」

 確かに、実どころではなかった。

 夕子がすっかり怯えて震えていたのだ。

 健が、実の指差したほうにいた彼女を見たときには、すでに彼は廊下に出てしまっていた。

 


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