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黄昏のリベレーション  作者: ミノ
ザ・ファースト・牛・トゥ・カム
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01’ プロローグ

 その日は日曜日で、オレたちはいつものメンバーで、いつもと変わらない顔ぶれで、飽きもせず馬鹿みたいに遊んでいた。


 いつもどおりの、それが当たり前の、ずっと続けばいいなっていう、そんなつながりの中で、ただ脳天気で幸せな時間が過ぎていった。


 ――あのとき何を話してたんだっけ?


 オレはそれを思い出そうとして、何度も何度も記憶を掘り返してる。もうずっと、数えきれないほど。


 だけど思い出すことはできない。


 でも、誰と喋ったのか、何を喋ったのか、誰がそれを聞いて、何を笑っていたのか。


 ダメなんだ、全然。思い出せない。どうしても。


 ともかくその日も平和に日が暮れて、オレ達はそれからどこに行こうか相談していたように思う。


 ファミレスにでも寄ってもうちょっと喋って過ごすか、それともいったんお開きにするか。そんな話をした。したはずだ。たぶん。


 空は思ったより暗くなっていて、妙にざわついた雰囲気が駅前にあって、急に強い風が吹いてきた。


 ――流れ星?


 誰かが薄暗い空を指さして言った。誰だったっけ? オレ達の誰かか、それとも近くにいた通行人かも知れない。


 オレ達はつられてみんなで空を見た。


 確かに流れ星がふっていた。降り続けていた。ガラスに傷をつけるようにまっすぐの線が空に光の軌跡を残しては消えていく。


 すごかった。見えたと思ったそばから次の星が、次の次の星が現れ、流れ、消えていく。


 流星群ってやつだ。


 でも、不思議だった。そんなことが起きるなんてニュースでも言っていなかった。こんな見たこともない規模だったら何十年に一度の天体ショーとか、そんな話が出てきて当然のはずだ。


 天体観測の精度なんてオレにはよくわからないけど、前触れ無くこんなすごいことが起こるなんてちょっと考えられない。


 ただ、そんな時ならぬ流星群なんて滅多に見られるものじゃない――いや、もしかしたらもう一生見られないんじゃないかと思ったら、じっとしていられなくなった。


 街中で、周りの人達は一斉に携帯端末を取り出してカメラで撮りまくっていた。


 オレ達もそれに混じってもよかったんだけど、どうせそんな画像なんて後からいくらでもネットで見られるって思ったら、やっぱりそれは違うんじゃないかって、そう思った。


 自分の目で見て、肉眼で直に見て、その時の空気とか、匂いとか、そういうのがないと違うんじゃないかって。


 だからオレ達は、駅前から離れた高台の――丘の上にある公園に向かった。


 その時のオレの決断が間違っていたんだろうか?


 間違っていたんだろうな、やっぱり。正しかったとは思えない。実際、取り返しの付かないことになってしまったんだから。


 でも――いや、これ以上は考えてもしかたのないことだ。


 とにかくオレ達はみんなで公園の階段を登った。急に始まった天体ショーなのに、そこにはもう何人か先客がいた。


 穴場だと思っていたからちょっとあてが外れたけど、まあ考えることはみんな同じようなもんだろう。


 フットワークの軽い天文マニアが、でっかくて高そうなカメラをもって夜空を見上げている。聞いてもいないのに周りの人にあれこれ解説していたが内容は覚えていない。


 ま、覚えていたとしても何を言ってるのかわからなかっただろうけど。


 いくつも、いくつも星は流れ、夜も更けて真っ暗になってもまだ降り続けていた。


 ――いつまで続くんだ?


 綺麗なことは確かなんだけど、少し気味が悪くなった。いつまでたっても終わりが来ない。


 そのとき周りからあっと声が上がって、オレ達は振り返った。天文マニアの人が、長い望遠レンズを覗きこんだまま、何か専門的なことを言っていたように思う。やっぱり内容は覚えていない。


 ――こんなことは見たことない。


 興奮気味に誰かが声を上げた。


 ――これじゃまるでUFOだ。


 UFO? オレ達はつられてその人が指差す方向を見た。みんなが驚きの声を上げ、そのまま息を呑んで固まった。オレも同じだった。


 これはもう確かめようのないことだけど、これから公園で何が起こるか最初に気づいたのは、たぶんオレだったと思う。


 みんなが見上げていた夜空には、それまでの流星群とは明らかに違う強い光がチカチカ点滅して見えた。


 しかも不規則に蛇行して、さまよっているようだった。


 どう考えたって、それが流れ星だなんて思えない。遠近感のおかしくなったホタル、墜落寸前のヘリコプター、それとも本当にUFO?


 どれも違う。オレはそう思った。


 問題なのは、その揺れる光は間違いなくオレ達のいるこの公園に墜ちてくるってことだ。


 ――逃げよう!


 オレははっきりと確信があった。虫の知らせってやつか? とにかくもうすぐその光が墜ちてくるって、説明できないけどそれは間違いない。


 そう思ったから、一刻も早くここから逃げよう、って叫んだ。


 みんなは戸惑っていた――ように思う。


 この辺りから、オレの記憶はますますぼんやりしてきて、どうしても思い出せなくなってしまう。


 実際のところ、その時、その瞬間に何が起こったのかはよくわからない。忘れてしまったのか、本当に覚えていないのか、それとも……?


 とにかくそれはあっという間の出来事で、避けるとか、逃げるとか、そういうことは全然無理だった。誰かを庇ったり、身代わりになるようなことも。


 爆発が起きた。


 信じられないかもしれないけど、公園がいきなり爆発したんだ。

 

 あのよくわからない光が引き起こしたのは間違いない。それが隕石だったのかUFOだったのかはどうでもいい。どっちにしろ、宇宙から地球に墜ちてくるモノってのはとんでもなく速いんだ。オレが逃げようって言った時にはもう遅かった。


 光が墜ちてきて、爆発が起こった。規模は――規模はよくわからない。その時のオレは、爆風でふっ飛ばされて、何がなんだか分からなくて、目もほとんど見えなくなっていたからだ。


 たぶんほかのみんなも同じような状態だったと思う。そう思いたくはないが、そうだったんだと思う。きっと。


『また』か――オレはそんなことを考えて、意識を失った。


 最後に見たのは…………




 ……なあ、お前誰だっけ?






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