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第34話

「うわぁあああああっ!!」


ギィン、ギギィンッ!


 燈雅から幾度となく振り下ろされる刀は辺りの壁や床にいくつもの傷を作っていた。今回の召喚で更に力をつけた燈雅だったが、感情に任せて振るわれるその刀はとても単純であり、ルクセスにとどく事は無かった。そして長々と避けているうちにルクセスの魔力も少しずつ回復し、この状況をどうするか考えていた。


「くそっ! なんだこいつはっ! なんで召喚された奴がいきなり斬りかかってくるんだ!」


 おかしい、これは魔人の召喚術だ。召喚された者は魔神の加護を受けるから召喚者の魔族には逆らえない筈だ。

 なのにこいつは斬りかかってくる。まさか人神から加護を受けている? いや、それこそありえねぇ。だったら人に敵対なんてしないだろ。

 ちくしょう、何がどうなってるかさっぱり分からねえ、 一体どうなってやがるっ!


「とりあえず、今はおとなしくしてろっ!」


バチバチッ!


 ルクセスが腕を振るうと障壁が現れ、燈雅の刀を止めた。障壁は正面だけでなく燈雅全体囲むように張られていく。


 通常の障壁なら今の燈雅なら簡単に突破出来るのだが、この障壁には大分多く魔力が込められていたために破る事が出来なかった。


「ふう、ひとまずはこれでいいか。……それにしてもどうするか。あまりにも予想外な事が起き過ぎている。」


 この召喚された者をどうするか、そもそもこの者はこちら側の戦力として使えるのかなどを考えるルクセスだったが、そんな暇はなく次々と事態は起こっていた。


「大変です!ルクセス様……これはっ!? 一体何が……」


 部屋に飛び込んできた配下が部屋の惨状を見て、あまりの荒れ具合に言葉を詰まらせる。


「大丈夫だ、私に問題はない。そんなことより何かあったのか? 大分慌てていたが」

「はっ! た、たった今入った情報ですが、獣人族が英霊の儀を成功させました!」

「なっ!? 英霊の儀だと! 不味いな、これはかなりの戦力増強になる……」


 よりにもよって獣人族か。人族ならまだ強くなっても楽に相手できるが……、獣人族となるとそうもいかない。これは近いうちに戦争になるかもしれないな。


「あの、ところでルクセス様……」

「ん?どうした?」

「その、後ろにいる者は一体? それが今回ので召喚された者ですか?」


 後ろを指差され振り向くと、そこには障壁から抜け床に座り込んでいる燈雅がいた。


「何故抜け出している? そんなやわなものじゃなかった筈だが…、まあいい。今は動けるようにも見えないしな。そう、こいつが今回召喚した奴だ」


 思いっきり睨みつける燈雅だが、配下の方が少し怯む程度でルクセスは全く気にしていなかった。


「さて、聞けることを聞いておこうか。おい、お前はもう戻っていい。暫く偵察部隊に獣人を見張らせるよう伝えとけ」

「はっ! かしこまりました」


 返事をし、深々と頭を下げた後、急いで部屋から出て行った。


「先ずは何から聞いていこうか。……そうだな、お前の名前、ステータス、元は何者だったのかなど答えて貰おうか」

「…………」


 ……ちっ、やっぱり何も答えねぇか。本来なら魔神の加護の影響で俺には絶対服従のはずなんだがな。全く、ただでさえ資料の少ない召喚使ったってのにイレギュラーとか勘弁してくよ。


「……お前が」

「………?」

「お前が何者か、あとここは何処なのかとか教えてくれたらよ、俺も答えてやるよ」


 ……はっ、こいつは何にも分かってねぇ。今の自分の立場ってもんが全くな。


「いいか、よく聞け。今のお前と俺じゃ立場が全然違ぇんだ。そんな状態で交渉とか出来ると思ってんのか?」

「ああ、思ってる」

「なんだと?」

「……これは何かの召喚のはずだ。召喚するってことは大抵戦力増強なんだろ? さっきの話を聞く限りじゃあ獣人族とやらとの戦争にも備えなきゃいけない。それに俺を召喚した直後の疲れ具合からそう何度も使えるような召喚じゃない。となると、お前は嫌でも俺を味方につけなきゃいけないと思うんだが?」


 …全く、本当にやっかいな奴を召喚しちまった。こうゆう無駄に頭の回る奴は嫌いだってのに。


「チッ、しょうがねぇ。答えてやるよ。俺はルクセスで、魔王だ。そしてここは魔王城、まあ名前の通りの城だよ」

「俺を召喚した目的は?」

「おい、流石にフェアじゃねぇ。こっちの質問にも答えてからだ。お前の名前、あとステータスだ」

「………名前は岩上塔矢、レベルは10で特に使えるスキルは無い」

「魔神の加護ってのが称号のところにないのか?」

「ああ、ないな」


 ……なんだよ、本当にハズレだったな。イレギュラーだとは思ったが加護も無ければスキルも雑魚とか……。召喚ももっとマシな奴選んでくれよ。


「お前を召喚したのは言われた通り戦力の強化だ。だが、正直がっかりだわ。もっとマシな奴が出てくれば良かったんだがな」

「……ははっ、よし分かった。もう大丈夫そうだ」


 急に高まりだす魔力に警戒する。すぐに対応出来るよう、ルクセスも魔力を高めていた。


「一体何をする気だ? 何をしてもお前に勝ち目はないだろう?」

「勝手に召喚されて、八つ当たりとはいえ攻撃しても障壁で止められ、それにお前の態度といいけっこーイライラしてんだ。一矢報いさせろ!」

「それも八つ当たりだろっ!」


 腕を振りかぶり攻撃するそぶりを見せたのでとっさにまた障壁を張り巡らせる。


「お前馬鹿だよな」

「なに?」

「俺に聞くのは名前やステータスにするんじゃなくて、どうやって障壁から抜けたかにするべきだったって事だ」

「っ!!、しまっ……」

「じゃあな、奇運転移!」


バシュン!


「くそっ、逃した! ほんと馬鹿か俺は!?」


 一拍遅れて消えた障壁の中には、もう燈雅の姿は無くなっていた。

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