第25話
はっ? 深淵の園に深淵の宿? 質問したら分からない事が増えたよ……。
「分からない って顔をしておるの。それも仕方ない事じゃ。ここを知っている者は限りなくゼロに近いしの。まあ、まずは深淵の園について説明しようかの。深淵の園とはの、一種の魔力溜まりみたいなものじゃ」
「魔力溜まり?」
「むっ……、そこからかの。魔力溜まりとはな、人の近くに出来るものなのじゃ。人が魔力を流す、魔法を使うなどしているとその人の周りに魔力の流れが出来る。その流れによって偶然にも多く集まった魔力はその場に留まるのじゃ。大体出来る大きさは拳大ってところかのぅ」
「まて、拳大? 明らかに規模が違うだろう。拳大と宿の大きさじゃ」
「そうじゃの。だがここは人一人で出来た訳ではない。この街に住む人々全体によって作られたのじゃ。多くの人が住むこの街には、街自体に魔力の流れが出来た。そして魔力が集まったのがこの場所じゃ」
「なるほど、そこまでは理解出来た。じゃあこの宿はなんだ?」
「ほっほ、それこそ本当に偶然じゃよ。魔力溜まりの所に宿が建っていた。それだけじゃよ。そのせいで宿は変質し、特殊な能力を持っているんじゃ。
もっとも、そのせいでこの宿は見えないんじゃがのぅ」
へぇ、本当に唯の偶然って事か。珍しい事もあるもんだな。? ちょっと待てよ……
「なあ爺さん。俺にはこの宿みえたんだが」
「それも能力じゃ。なにも誰にも見えない訳じゃない。その人の持っている魔力がここの濃度より高かったり、宿に対して何かしらの思いがある人には見えるんじゃよ。
まあ、ここより高い魔力を持つ者はいないじゃろうがな」
宿に対して何かしらの思い……ねぇ、泊まれない悔しさと残念さの塊だろうか?
「ありがとな、教えてくれて感謝するよ」
「ほっほっほ、礼には及ばんよ。久々に人と話せたからの。あっ、そうじゃの。何かあったらこの宿に逃げ込みなさい。大抵の奴らの目は誤魔化せるからの」
「分かった、色々とありがとな」
こうして燈雅は話を済ませ、街へと歩いていった。
燈雅は街中の大通りを歩いていた。そこには武器、防具、食べ物といった様々な店が並んでいた。燈雅からしたらこういう通りは嫌いじゃない、むしろ好きな方と言えるだろう。だがその顔には僅かながら嫌悪感が含まれていた。
それも仕方がない事だろう。なぜなら街ゆく人々に不快感の篭った目を向けられていたからだ。恐らく昨日の件が大々的に街に知らされたのだろう。それだけならまだ良かった。人からは避けられ、店は入れない、更には食べ物も買えないという状況だ。
「はぁ……、しょうがない。今日一日は宿で大人しくしとくか……」
そうボソッと呟き、振り返った時だった。その時に人とぶつかる。
「あっ、すいません」
ぶつかった相手に謝りつつ、軽く会釈をする。そのまま宿まで行こうと思ったが肩を掴まれ引き止められる。
「貴様はこの私にぶつかっておいて謝るだけなのか? この私にだぞ? 立場をわきまえろ。賠償金を要求する。有り金全部だ」
まさかの予想外の言葉の連発。こいつ頭おかしいんじゃねえの? と、一瞬本気で考えてしまった。
それにその後ろにいた二人が腰の剣に手を当てている。こいつは身形がいいから、この二人はおそらく護衛ってとこだろう。こんなとこで戦闘はしたくないな。穏便に済ませよう。
「はい……分かりました」
そう言ってポケットに手を突っ込む。そして引っ張りだした金をそいつに渡す。これで終わったとばかりに宿に戻ろうとするがまた肩を掴まれる。
「なんですか? 言われた通り金は渡したでしょう?」
「おい、貴様なめてるのか? 私は有り金全部と言ったんだ! こんな端金は求めていない!」
あちゃー、やっぱり2000zは少なかったみたい。でもしょうがないですよ? これしか持っていないんですから。
「いや、でもこれしか持ってないんで」
「ふざけたことを言うな! それでもないと言うならその剣を置いていけ!」
聞き分け悪いし、頭おかしいし、うるさいし三拍子揃って馬鹿だな。
「なんだとぉおおおおおっ!!」
あら? どうやら声が漏れていたみたい。気をつけなければ。
後ろにいた護衛らしき人は剣を抜き、こちらに迫ってくる。ふっ、こうゆう時の為に力を磨いてきたんだ! 見せてやる、必殺技ーーー
「全力逃走っ!!」
二人を振り切るように走り、一直線に宿を目指した。
「随分と早く戻ってきたのぉ。何かあったかの?」
「なあに、ちょっと人に絡まれただけさ」
燈雅は自分の部屋に戻り、明日の準備をしながらこの日を過ごした。
〜〜 大会当日 〜〜
「はぁ……とうとう今日だな、大会」
もう登録しちまったんだからしょうがない。現にもうコロシアムの前まで来ちまったんだ。せめて元を取れるくらいには勝たなくては。確か一回勝てば10000zだったな。楽勝!…………だと思いたい。とりあえずは中に入って受け付けだな。
「燈雅だ。このカードを渡せば良いんだっけ?」
「ちっ…………はい、分かりました。試合は三試合目です。それまであちらで待機していてください」
う〜ん、俺も耳が悪くなったのかな。今、舌打ちが聞こえたような……。まあ、気のせいでしょう! あんな美人が言う訳がない!……………と思いたい。
ここが例の待機場所かな? 第一試合の様子が水晶から投影されている。中々の盛り上がりようだ。だが待機している連中も奮起するのはどうなのだろう。悪いとは思わないが体力の無駄使いだ。俺はしません、絶対に。
「ん? こいつどっかで……」
コロシアムの中でどんどん人が倒れていき、最後の一人となり勝ちになった時顔がアップで映し出された。
「あっ! 分かった! こいつは……」
「昨日会った三拍子馬鹿じゃん!」
この瞬間、この大会が必ず面倒な事になると燈雅は確信した。




