第24話
「はぁ…はぁ…はぁ…」
いったい……この世界に……来てから……どんだけ……走ったんだよ……。
全く、厄介ごとしかないな。しかし……困った
な。依頼が受けられないとなるとなぁ。収入が無くなるなぁ。死活問題じゃん……。
ひとまず宿探しだ。一に宿、二に宿、三に宿だ。寝る場所は大事だからな。身に染みて分かってる。
ーー 一軒目 ーー
「すまないねぇ、もう全部埋まってるんだ」
………しょうがないな。大会があるんだし、人が集まっているんだろう。さて、次だ。
ーー 二軒目 ーー
「おう、悪いな。全部屋埋まってんだ」
二軒目も駄目か。しょ、しょうがないな。こんな事もあるだろう。じ、人生何があるかわからないしな。うん。よし! 次だ!
ーー 三軒目 ーー
「あんた……、ギルドで問題起こした奴だね? 帰った帰った。あんたみたいのが止まる宿なんかない
よ!」
「………………………………」
うあぁぁぁぁあぁああぁっ!
確かに騒いだけどさ、俺が悪いの?! 全て俺が悪いの?! 絶対あっちの職員が悪いだろ!
宿 に 泊 ま れ な い!!!
ど〜しよ〜、宿がないよ〜。どうする? いっそのことまた端っこの方で気絶でもしとくか? いやい
や、流石に危ないか。確か危険なんちゃらってのに指定されてたんだっけ。寝てる間にグサッと刺されたとか洒落にならんしな。
あ〜、結局歩いてたら街のはずれだな、ここ。なんだろうな、なんか頭の中が空っぽになった気分
だ。ふらふら歩いてるだけなのに妙に心地いい。
「……あっ、こんなとこに宿あったのか。入ってみよう。……期待はしないどこ、駄目元だ。駄目元」
「ほっほっほ、客とは珍しいのぉ。お主はどうしてこんな街の端にいたのじゃ? それに宿を求めてなんて」
? どういう事だ? 何か違和感を感じるな。宿を求めてなんて、泊まるなんて言ってないし、宿に入るのは確かに泊まるためだか……。いや、そういうことじゃないんだよな〜。
「ほっほ、そう難しく考えんでいいよ。ようは泊まりたいんじゃろ? 空いてるからいくらでも泊まっていってくれ」
「あ、ああ。それはありがたい……。代金は……」
「金は要らんよ。あっても意味ないしの。部屋は好きなとこを使ってくれ」
「分かった。一つ聞きたいんだが……、この宿は最初からここにあったか?」
「ほっほ、あると言えばある、ないと言ったらない ってところかのぅ。ほら、早く部屋で休んで来なさい」
不思議な爺さんだな。それにしても宿代無しか。大丈夫か? 経営としては間違ってるだろ。 おっ、ここの部屋にしよ。
「広っ! いや、えぇ?! 広っ! どうなってん
の?!」
おかしい。明らかにおかしいぞこれは。扉の間隔と部屋の大きさが全くあっていない。他の部屋も確認だ!
「はぁ?!ちょ……はぁ?! ほんとどうなってん
の?!!」
広い。こっちも同じくらい広い。明らかに部屋が重なってるはずなのに……。おかしいぞ、どうす
る。宿を出るか? いや、おかしいってだけで出るのは〜……。
あー!! もういいわ! 気にしない!泊まれればいいわ!
勢いよく扉を開け、すぐに中に入る。
「うお お お お……。あり得ない事に気持ちがついていかない」
くそっ! 部屋は最高なのに! なんでこんな違和感が……。物理的におかしいだろっ!
………ん? 物理的……魔法がある時点でそんなのは気にしなくて良いのでは……。
「そうか! 魔法か!こういう魔法があるんだな!」
なんだ〜、こんなのがありなら使うのは当たり前だな。驚いてた俺、馬鹿みたいじゃないか。
「ふぅ……このソファーふっかふかだな」
やっぱ気にしなく良かったな。この部屋は最高
だ。こう、何処にいても落ち着くような。
「あっ、賞品確認してなかったな」
どれどれ〜……。なんだよ、優勝者の賞品が魔導具って。もっと具体的に教えてくれませんかね。せめて何の〜〜ぐらいは欲しかった。俺はこんな得体の知れない物の為に命を賭けるのか……。気が重くなってきた。
はあ、外も大分暗くなってんな。結構眠くなってきた。明日は特にやること無いし、たまにはぐっすり寝よう。
………………
…………
……
…
.
「う〜ん……、良く寝た〜」
結構寝てたな。もう日が真上近くまで昇ってい
る。まあ、いっか。どーせギルドの依頼も出来ないんだし。
「朝ご飯でも食うか。こんだけ寝てたら腹も減って………ないな。どうしてだ? 体質でも変化したか? ……いやいや、無理があるだろ」
おかしい。ここに来てから何かがおかしい。どちらかというとこの宿が変だ。そもそも近くに行くまで気付かない建物のなんておかしい。おかしいことだらけだな?! ここは!
爺さんだ。絶対何か知ってる。聞かなくては!
……え? こんなに必死になる理由? 暇だからで
す。他にやる事ないし。
「お〜い、爺さん〜。いるんだろ〜」
妙だな。人の気配すらしないぞ。昨日いた、このロビーにいると思ったんだけどな。
「ほっほっほ、何かようかの?」
「っ…!」
いつからだ。どのタイミングで後ろに……。やばいな、この爺さんも得体が知れない。
「身構えんでも大丈夫じゃよ。私には戦う力は無いんでのぅ。それより、何か聞きたいんじゃないか?」
これか。俺が最初に感じた違和感はこれか。考えてることがばれているかの様に聞いてくるとこだ。最初の一回はともかく、今ので確信した。
「おい爺さん……あんたは人の考えてる事が読めるんだな?」
「………面白い事を言うやつじゃのう。そんな事を言ったのは君で二人目じゃよ。ちなみに考えてる事なんて読めんよ。せいぜい今考えてるのがなんとなく分かる程度じゃよ」
「それでも十分だろ……。まあ、それはいい。今聞きたいのはこの宿に着いてだ。ここは唯の宿じゃないな?」
「やっぱり気づいたかの……。まあこの宿に入った時点でいつかは気付くとは思っていたがの」
「この宿は深淵の宿、深淵の園に建てられた宿
じゃ」




