第21話
「しまったな、街から出たは良いけど夜だったな。明かり持ってねーや……」
どうすっかなほんと、真っ暗で何にも見えねー
わ。今から街に戻るか? いや、でもな〜……。
引き返す訳にもいかずとりあえずといえ感じで歩いていた。
「ん? 何かあの場所明るいな」
燈雅の視線の先には僅かに小さな光が見える。その光は赤く、炎のように見えた。
「おっ! 人でもいるのかな。行ってみよ」
近づくにつれ光は大きくなり、それがしっかりと炎だと認識できる。その周りには人が三人ほどお
り、その内の一人が武具を身につけていた。
商人と護衛とかそんなところかな? とりあえず接触はしよう。あったまれればなお良しだ。
「すみません。一緒に暖をとっても構いません
か?」
「あっ? 誰だお前は。何でこんなところにいる」
武装した男がこちらへ近づいてくる。やはり護衛の人なのだろう。剣に手をかけ、警戒しているようだ。
「えっとぉ、リグトって街に行こうと思ったんですけど明かりを忘れて……。それで夜をどうしようかと思ってたんですけど……」
「なるほど、そこで俺たちを見つけたのか」
「はい、それで貴方達が移動するまで一緒に居させて貰えればと思いまして」
「分かった。……という訳だがあんた達は居させてやってもいいか?」
男は後ろに居る二人の男に話しかける。
「ああ、別にいいぞ。迷惑をかけなければな」
「Zzzz……」
「大丈夫だろう。見たところまだ子どものようだしな、何か裏があるようには思えない」
「そうかい、まあ何かあった時は対処してくれよ」
「だそうだ。という訳でいても構わないよ」
「ありがとうございます」
助かった、これで今晩は安心だな。……あいつは寝てていいのか? ここ外だぞ。
「自己紹介がまだだったな、俺はライアスだ。そこの二人は俺が護衛をしている商人でリチャードとマキナだ。よろしく」
「俺がリチャードだ。よろしく……ってお前も起きて挨拶ぐらいしろ!」
「ふわぁぁ………ん? 誰?」
「すまんな、こいつは何時もこんな感じなんだ」
「あははは……よろしく」
「ライアス、俺とマキナは中に入ってるから見張り頼むぞ」
「了解」
リチャードはマキナの襟首を掴み、強引に馬車へ引っ張っていく。引きずられていてもなお寝ているのは奇妙な光景だった。
「さて、ちょっと聞きたい事があるんだがリグトに行くって事はコロシアムに参加するのかい?」
「いえ、まだ決まった訳ではないんですが……、賞品次第ですかね」
「そうか……なら忠告しておこう、あんまり軽い気持ちで参加するのはやめろ」
「なぜです?」
「あの場所は勝つ条件が相手を戦闘不能にすることだが、大半の奴は相手を殺しにかかる。それゆえとても危険だ。自ら危ない所へ近づく必要もないだろう」
ライアスはとても悲痛な表情をしていた。おそらく昔何かあったのだろう。それが自分の事なのかどうかは分からないが。それよりコロシアムについて詳しそうだ。少し話を聞いておいても良いかもしれない。
「そうなんですか……。ちなみに毎回戦いは別なんですか?」
「いや、毎回同じだ。十人一度に戦い一人が上がるトーナメントだ」
「賞品は? やっぱりそれだけ良いものが出ます?」
「そうだな、それなりに良いものは出るが…………参加するのか? やめておいた方が」
「賞品次第ですよ。賞品次第」
「そうか……まあこれ以上は何も言わないよ。とにかく休んでいて構わないよ、ここら辺なら見張りは一人でも大丈夫だ」
「ありがとうございます。ではゆっくり休ませて貰いますよ」
よし、決まったな。参加は絶対だ。良い賞品というのがとても気になる。あわよくば防具の類がいいな。この世界に来て服は幾つか買ったが所詮はただの服だ。防御面に多大な心配がかかる。まあ、今は寝よう。なんだかんだで今日はとても疲れた。
「おい、起きろ。もう俺らは移動するぞ」
「ん……ふわぁあ、……分かりました………ありがとうございました」
「おおよ、リグトに着いてからは気をつけろよ」
「? はい、分かりました」
彼らは一言二言告げるとすぐにこの場から離れていった。向かった先は今まで燈雅がいた街だった。
あ〜、あいつらあの街に行くのか。
…………そういやあの街なんて名前なんだ?今までいながら知らなかったとか……割とショックを受けるな。
まあ、あんな街は気にしなくていいな。今はリグトに行くこと最優先に考えて行動しよう。真っ直ぐ進むだけだから街を見つけられないって事はないだろう。
〜〜 勇者召喚前 魔界 〜〜
「おいっ! もっと力を注げ! あと少しだ!」
魔界の中心部にはひときわ大きい城があった。ここには主に魔族の主力が集まっている。その城の地下では今、魔王復活の儀式が行われていた。
「あとっ……! 少しだっ!」
広い部屋の真ん中には、大きなクリスタルがあり、それを囲うように魔法陣が書かれ、その魔法陣に何百もの魔族が魔力を注いでいた。魔力を多く注がれているせいか、クリスタルは揺らめくように輝いていた。
「う、うあぁぁぁぁああぁ!」
何人もの魔族が急速に倒れていく時、クリスタルがひときわ強く輝く。
バリィィンン…………
クリスタルが光を放った後、そこには一人の男の魔族が立っていた。
「…………ここは何処だ?」
「ここは極夜城の地下でございます。魔王様」
魔族全員がひれ伏す中、一人が前に出て答えた。
「私はどのくらい眠っていた?」
「大体300年程です。魔王様、我々は戦力を高めておりました。いつでも進軍出来ます。どうか、ご指示をお願いします!」
「………いつでも進軍出来る……か。なるほど、分かった。では命令を下そう」
「進軍とか戦争とかはめんどくさい。よって魔族は人間、獣人への進軍はしない。以上!」
魔王の発言にその場にいた魔族はしばらく動けなかった。




