幸せの日々のなかで
この日、オレは書斎で新しいエッセイを書いていた。
そんな時だった。
ひろみから嬉しい知らせをくれたのは…。
「あなた、あたし赤ちゃんができたの」
そうオレとひろみに子供が授かったのだ。
それも、なんと麻衣と明日香が生まれて初めてのクリスマスだったから
オレにとって嬉しかった。
「ホントか?ひろみ、嬉しいよ」
オレがひろみと結婚して一年たって、初めて夫婦で迎えるクリスマスに
サンタクロースが嬉しい贈り物をオレたちに贈ってくれたのだろうか。
ひろみ、オレは幸せだよ。おまえがオレを支えてくれるから、
芸の世界で仕事ができるんだからな。
おまえにはホントに感謝しているよ。
そして翌日、オレは家族を連れて実家に行き、
オヤジたちに子供ができたことを報告した。
「よかったやないか。また孫が増えてワシも嬉しいわ。
ひろみ、体だけは大事にせなあかんで。
これから子育てで忙しくなってくるさかい無理したらあかんで」
「ひろみさん、予定月はいつなの?」
「来年の8月です」
「8月かいな?えらい暑い時に大変やな」
「お父さん、女は母になれば強くなりますよ。
明美のお産の時もそうだったじゃないですか」
「せやな。どんなことあっても母は強なるもんやからな。
拓哉、おまえが生まれた時はホンマに嬉しかったわ。
おまえが生まれたのは、6月の紫陽花が咲いていた日やった。
せやから今でも紫陽花を見ると、明美が亡くなった日を思い出すんや。
明美はワシに自分の代わりにおまえを大事に守ってくれと言って
亡くなったんやさかいな」
オヤジは、そう言うと涙を流していた。
明美母さんは、オヤジの初恋の女性でもあった。
そして明美母さんとの悲しい別れを知っている。
オレとひろみが幸せになるのが一番だと言ってくれたオヤジ。
結婚式の日、明美母さんにも結婚するオレの姿を見てほしかったと
誰よりも喜んでくれたオヤジ。
オレとひろみが三々九度の杯を交わした時も涙を流して喜んでくれたオヤジ。
今では孫が増えたことがなによりの幸せになったようだ。
今年のクリスマスは、オレたちにとって幸せな1日になりそうだ。
「お父さん、外を見てくださいな。雪が降っていますよ」
おふくろがそう言うと、オヤジも外の雪を見て
感激したのか喜んでオレに言った。
「ホンマや、雪や。ホワイトクリスマスや。拓哉、これは明美からの
孫らへの贈り物や。空から孫らを大事にせえって言うとるわ」
とはしゃいでいた。
窓の外から見ると空から雪が降っていた。
今夜はクリスマスイブ、ホワイトクリスマスになった。
オヤジの言うように空から降る雪は、
明美母さんからの子供たちへの最高のクリスマスプレゼントになったようだ。
オレタチの双子の娘、麻衣と明日香は生まれて10カ月になった。
今では、つかまり立ちをしょうとして、ひろみをハラハラさせている。
オヤジは、麻衣と明日香に窓の外に降る雪を見せていた。
「麻衣、明日香、見てみ。おばあちゃんが空から
クリスマスプレゼントくれたんやで。よかったな」
「お父さん、麻衣と明日香が風邪をひきますよ」
「少しくらい寒くってもええがな。なにしろ雪が降るなんて
滅多にないんやさかいな」
「母さん、心配しなくても大丈夫だよ。オヤジは麻衣と明日香に
もう一人おばあちゃんがいるんだって話がしたいんだよ」
オヤジは、明美母さんに成長した麻衣と明日香を見せたいのだろう。
おやじにとって初めての孫が双子だったから喜びも大きかった。
ひろみが麻衣と明日香を産んだ日、オヤジは孫が二人いっぺんに
できて嬉しいと喜んでくれた。
あれから10か月、麻衣と明日香もすくすく成長した。
ひろみは降ら理が検診の月になると
双子のベビーカーを押して検診に出かけていく。
2人が1才になる前の検診も終わって一段落したようだ。
「来年の2月になったら麻衣と明日香が1才の誕生日、
8月には新しい孫が生まれる。もうすぐ今年も終わりやな」
「そうですね。今年は拓哉の高校卒業、その前に麻衣と明日香が産まれて
私たちにとって本当に充実した年でしたね」
「ホンマやな。ワシらにとって、孫が生まれて嬉しい年やったわ」
「ひろみも無事に卒業論文が仕上がったし、あと8来年の1月に出して
先生からの口頭試問でOKが出たら、3月には卒業だな。
麻衣と明日香の子育てと両立しながらよく頑張ったよな」
「そんなことないわ。あなたが手助けしてくださったから、
卒業まで漕ぎ着けたんですもの」
「ホンマによう頑張ったな、ひろみ。おまえが拓哉をしっかり支えてくれて、
ワシも安心して見てられるわ。学業と子育ての両立は大変だっただろうに、
お互いに夫婦で助け合うようになったんやからな。
拓哉、おまえは幸せ者やで。ひろみを大事にせんと罰が当たるで」
「そんなことわかっているよ」
そうオレは、ひろみがそばにいてくれるだけでいい。
今のままで幸せなのだ。
オヤジの言うようにオレは幸せだよ。
ひろみがオレを支ええくれて幸せだよ。
「お父さん、そろそろ麻衣と明日香を中に入れてくださいな」
「せやな、ホンマに風邪ひかせたら大変やからな。
しかし、ここまで元気に育ってホンマに良かったわ。
拓哉とひろみが、しっかり子供を守るんやって決めて一緒になって
麻衣と明日香が産まれて夫婦でよく頑張ったわ」
「そうですね。結婚が決まるまで拓哉は学校を辞める覚悟でいたんですからね」
そうオレは、結婚する代わりに学校を辞める覚悟をしていた。
学校にしては、校則違反と退学処分は免れないことだったから。
だけど、担任の小川先生はオレに子供を大事にしろと言ってくれた。
オレが無事に高校を卒業したのも小川先生のおかげだ。
いつか大人になって高校のことを思い出すだろう。
今ひろみに授かっている3人目の子供と幸せに暮らしていると
先生に手紙を書いてみようかとオレは、そう思うようになっていた。
彰や和彦もそれぞれ芸能界で活動を始めた。
二人も必ず芸能界で成功するだろう。
その日を楽しみにオレは二人の成功を祈っていた。




