ウエディングベル
水平塾でのミュージカルの稽古も落ち着いたある日、
オレとひろみの結婚式が決まった。
結婚式は、オレが水平塾でのミュージカルが終わってからという
所属事務所からの意向で11月に挙げることになった。
ひろみは、ドリームランドを健康上の理由で9月に退団する。
これは、寛さんの配慮で子供のことを伏せたほうが、
ファンに影響を与えないと判断してのことだった。
今日は、オレとひろみの婚約会見の日。
マスコミが大騒ぎのなかで、オレとひろみは記者会見に臨んだ。
「本日は、皆様お忙しいところ僕たちのためにお集まりくださり
ありがとうございます。
このたび、私城島拓哉は隣にいます朝霧裕美さんとの婚約が整い、
11月に結婚いたします。
まだこの世界で未熟な私ですが、彼女と共に幸せな家庭を築いて
いきたいと思っております。今後ともよろしくお願いします」
「城島さん、お二人が出会ったきっかけは、なんですか?」
「4年前になるんですがラジオ番組タイムトラベルで
彼女と初めて出会いました」
「その時の朝霧さんの印象はどうでしたか?」
「初めて彼女に会った時は、可愛い人だなって思いました。
タイムトラベルの第1回の放送で三上寛さんから彼女を紹介されて
挨拶した時は、すごくドキドキしました」
「ドキドキしたということは、朝霧さんは城島さんの初恋の女性
だったんですか?」
「はいっ」
「朝霧さんに伺います。城島さんは、朝霧さんが初恋の女性だと
おっしゃっていますが、朝霧さんは城島さんのどんなところに
魅力を感じられたんですか?」
ひろみは、オレを見てニッコリ微笑んでから、記者からの質問に答えた。
「男らしくて何があっても守ってくれる包容力のある彼に、
とても魅力を感じております」
「ドリームランドの退団については、どう思われていますか?」
「舞台には未練はないので悔いはありません」
「これからは城島さんを支えていくことになりますが、
城島さんに何か要望はありますか?」
「私からはございません。彼がしっかり芸の世界で
仕事ができるように努めるのが私の役目と考えております」
ひろみの落ち着きはらった答えに記者からも感心していた。
「最後になりますが、城島さんには先の話ですが
お子様は何人いたらいいですか?」
「それは、まだ先にと思っています。僕たちは学生なんで、
学校を卒業してからということで…ご勘弁ください」
「それでは、これで会見を終了させていただきます。
皆さま、ありがとうございました」
会見が無事に終わり、ホッとしたオレたち。
オレたちは、会見をしたホテルの控え室にいた。
「拓哉、ひろみさん」
控え室にいたのは、尚志、和彦、そして彰だった。
「拓哉、ひろみさん、おめでとう」
「ありがとう、みんな。会場まで来てくれて嬉しいよ」
「11月の結婚式には、クラス全員で来ることになったからな。
小川も今日の記者会見を見て喜んでいたぜ」
「そうか、嬉しいよ」
「拓哉、今さスペシャルゲストが来ているんだ。
今、ホテルのロビーにいるから行ってみなよ」
「スペシャルゲスト?誰だよ、いったい?」
「いいから行ってみなよ。拓哉が婚約したことを
一番に喜んでくれたんだから」
和彦が、あまりにも言うのでオレはホテルのロビーに行ってみた。
するとホテルのロビーにいたのは、なんと佐野静だったのだ。
「静、来てくれたのか」
「拓哉、婚約したんだってな。和彦から聞いてんだ。
おめでとう、よかったな」
「ありがとう、静。オレの婚約者に会ってくれないか」
「もちろんだよ。そのつもりで東京からはるばる来たんだぜ」
静かとは水平塾でのミュージカルの舞台で
互いに競い合う好敵手になっていった。
あのライバル宣言からずっと二人で大立ち回りを演じていくうちに
互いに友情を深めていき、遠く離れても駆けつけてくれる友となっていった。
「静、水平塾でのミュージカルもうすぐだな」
「そうだな、千秋楽までお互いに頑張ろうな」
お互いに話をしながら控え室に戻ったオレは、
静にひろみを紹介した。
「オレの婚約者のひろみだよ、静」
「ひろみさん、あなたの話は拓哉からいつも聞いていました。
拓哉は、あなたの笑顔を見ると安心すると言って、
いつもあなたの写真を肌身離さず持って舞台稽古に挑んでいました。
拓哉、婚約おめでとう。ひろみさんと幸せになれよな」
「ありがとう、静。初日に会おうな」
10月に入り、水平塾のミュージカルが始まった。
2週間と短い期間だが毎日客席は満員で、
立ち見が出るくらいの好評だった。
そして千秋楽が終わり、演じていた仲間とも別れる時が来た。
「拓哉、またいつか共演したいな」
「そうだな。また会おうな、静」
「それから11月の大安吉日になったある日のこと。
オレとひろみは小さな八幡宮で結婚式を挙げることになった。
着物の着付けが終わって紋付き袴のオレの姿を見たオヤジは
亡くなった生みのおふくろにも見せたかったと言って涙を流していた。
「お父さん、拓哉の門出の日ですよ。
涙を流したら天国にいる妹に笑われますよ」
「今日だけは泣かせてくれや、母さん。
ワシも明美が生きとったら今の拓哉の姿を見せてやりたかったわ。
こいつが自分で生まれてくる子供を守るって言うたんやさかいな。
拓哉、ひろみちゃんと子供を守らなあかんで。
おまえも親になるんや。しっかり家族を守らなあかんで、わかったな」
「オヤジ」
そして結婚式の仲人は、尚志の両親が引き受けることになったので
尚志も控え室にいた。
「拓哉、ひろみさん泣かしたりするなよな」
「わかっているよ」
「花嫁さんのお支度が整いましたよ。
拓哉くん、見てあげて。ひろみちゃん、とても綺麗よ」
そしてオレは、隣にあるひろみの控え室に行った。
そして白無垢の花嫁姿のひろみを見たオレは、
息が止まるかと思うくらいのトキメキを感じていた。
「拓哉さん」
「ひろみ、綺麗だよ。初めておまえに会った時のこと思い出したよ。
今日からオレたちは夫婦になる。そして間もなく家族が増える。
ひろみ、これからオレたちはずっと一緒だ」
「拓哉さん、私とても幸せです。赤ちゃん、産むことを許してくれて
私、幸せです」
「子供ができたことでオレとおまえの繋がりが変わったんだ。
そして今度は、その繋がりが形になる。
ひろみ、心配しないでオレの子供を産んでくれ。
そして二人で生まれてくる子供を守っていこう」
「はいっ」
オレとひろみは、神様が祭られている神殿にいた。
オレタチの結婚式の会場には、マスコミが
カメラを持って大勢集まっていた。
神殿で三々九度の杯を交わした
オレとひろみは結婚指輪を交換していた。
ひろみは感激していたのか嬉し涙を流していた。
それはオレにとっても待ちに待った日でもあったから嬉しかった。
神殿でオヤジたちが親子の杯を交わして、オレとひろみは
神殿で誓いの言葉を読み上げていた。
「この神殿において私たちは夫婦として
生涯を共にすることをここに誓います。
平成17年11月3日城島拓哉」
「妻ひろみ」
これで、オレたちは夫婦になった。
そして晴れてひろみが、オレの妻になった瞬間でもあった。
この後オレたちは、記者会見で結婚を報告した後に、
結婚式の記念写真を撮っていた。
いつか二人で結婚の写真を見る時、どんな気持ちでいるだろう。
ひろみ、おまえはオレが初めて恋をして憧れていた人だった。
それがやがて恋人になり、今は妻になってオレのそばにいる。
この繋がりがずっと続いていく幸せを、今オレは実感していた。