永遠のBLOODS
彰たちとの夏休みの旅行を楽しんだオレは、
次の日の夜行列車で尚志と一緒に帰ることにした。
尚志は、当初長崎に残る予定だったが、昨日の夜に尚志のマネージャーから
連絡が入り、急きょ仕事が入ったために大阪に帰らないといけなくなったのだ。
「まさか、仕事が入るなんて思わなかったよ。
大阪に帰ったら、花月旅館奮闘記に出演だって」
「花月旅館奮闘記だったら、オヤジさんがいる番組だからいいじゃないか。
オレのオヤジも出ているから胸を借りるつもりでやってみたら大丈夫だよ」
「そういうもんかな?」
「そういうもんだよ。それにオレもタイムトラベルの前に
花月旅館奮闘記に出ることになってんだよ。
オヤジが酒飲まないように見張らないといけないなと思うと頭が痛いぜ」
「それなら、オヤジさんのマネージャーがセーブするから大丈夫だよ。
だけど、オレたちが一緒に同じ番組に出るなんて久しぶりだよね。
明後日が楽しみだね」
「あぁ、そうだな。明後日の花月旅館奮闘記の後は、
東京でドラマの仕事が控えているな」
「あぁ、今度の月9でやる水色の雨だろう?人気アイドルの中野結衣ちゃんが、
ヒロイン役で出るからね。拓哉、大変だけど頑張ろうな」
「ドラマで大きな役をもらうとは、オレも思わなかったぜ。
ヒロインの中野結衣の恋人役になろうとは、夢にも思わなかったからな。
それに今回は、おまえと一緒に行くから心強いぜ」
「拓哉、このごろ仕事にも勉強にも前向きになっているね。
やっぱりひろみさんのおかげかな?だけど、浮気するなよな」
「わかっているよ、尚志。オレにとって好きな女は、たった一人でいい。
ひろみ以外の女はいらない。オレの愛する女は、ひろみだけでいい」
「結婚の約束を取り付けたんだから、早くひろみさんを迎えに行ってあげなきゃ、
ひろみさんも不安になってないかな?」
確かに、尚志が言うようにオレは、ひろみに自分の演技力がついたら
結婚しようと言った。それをひろみは、健気に待っていると言ってくれた。
愛している。ひろみに会いたい。
こんなに胸が張り裂ける思いは、片思い以来だった。
そして、オレと尚志は夜行列車で帰るため彰の家を出ることになった。
「お世話になりました」
「気をつけて帰ってくださいね。それから、これからも彰のことお願いしますね」
「今度来る時は、饅頭をたくさんつくって待っているからのう」
「おばあちゃんの饅頭、美味しかったですよ。また来ますからね」
「尚志は食い物に弱いんだから。本当に色気より食い気だもんね」
「よけいなお世話だよ。いいじゃないか、悪いことしてないんだから」
「拓哉、尚志、仕事頑張れよな。オレと和彦は、登校日までに帰ってくるよ。
それまでにオレも気持ちの整理をつけて戻ってくるよ」
「彰、無理に気持ちの整理をつけようと考えるなよ。
おまえにとって、真琴ちゃんは大事な人だったんだから」
「ありがとう、拓哉。オレ、もう大丈夫だから。
真琴のためにもオレは生きていく。
そして、真琴と目指していたミュージシャンに必ずなってみせるぜ」
彰の気持ちが元に戻ったとオレは彰の言葉で確信した。
彰、もう二度と死ぬなんて言うなよな。
おまえは、オレにとって負けたくないライバルなんだからな。
一学期の成績で学年主席を取った秀才のおまえに
オレは必ず近づいてみせるぜ。
それから夏休みが終わり、今日から二学期になりました。
「拓哉、水色の目がクランクインになったね、
これから仕事で学校を休むことになるから、
勉強が遅れないように頑張らなきゃね」
「そうだな。今は本読みを始めているが、いざ本番が始まると緊張するからな。
とにかく頑張らないといけないな」
「拓哉、オレ不安なことがあるんだよ。中野結衣ちゃんとの共演で、
ひろみさんとの仲が拗れたりしないかなって思って。
ひろみさんは、ドリームランドと日舞の世界しか見ていないから
オレたちのような世界を理解するか心配なんだよ」
確かに尚志の言うようにオレや尚志が活躍する世界を
理解してくれるか不安はある。
タイムトラベルやドリームランドの世界しか芸能界を知らないひろみが、
オレの今の仕事に不安になっているのは事実だ。
「嫉妬している自分が怖い」
そう言って、涙声でオレに打ち明けたひろみに、
オレは信じてくれとしか言えなかった。
ましてや、中野結衣の恋人役となると、ひろみが感情が高ぶって
体の爆弾が弾けるかもしれない。
ひろみ以外の女はいらない。
その気持ちが今揺らぎ始めている。
これは、オレに与えられた試練なのだろうか?
「拓哉、どうしたんだよ。ぼんやりして、夏休みボケしたの?」
「あっ、悪い。尚志、なんだっけ?」
「和彦からメールが来たんだよ。夏休み話していた
彰のオリジナル曲ができたから帰りに学生寮に来いって」
「彰のオリジナル曲ができたのか?どんな曲か楽しみだな」
「とりあえず、学校で彰に聞いてみようよ。どんな曲か楽しみだね」
尚志と学校の校門をくぐったオレは、まっすぐ教室に向かった。
「おはよう。和彦、彰」
「あっ、おはよう。拓哉、尚志」
「オッス、毎日暑くてたまんないぜ。ドラマのロケで夏休みの後半は、
スケジュールは真っ黒。こっちに帰るのはタイムトラベルだけだったんだからな」
「なるほどな。その調子だと夏休みの宿題は完成してないみたいだな」
「そんなことねぇよ。毎日時間が空いた時にやっていたよ」
「拓哉、さっき小川が来て次の授業でやるプリントを運んでくれって
言われたんだよ。悪いが手伝ってくれよ」
「なんだよ、冗談じゃないぜ。小川も人使い荒いんだからな。いい迷惑だぜ」
「いいから、行くぞ。早く来いよ」
「わかったよ、行けばいいんだろ。まったく、冗談じゃないぜ。
おまえのほうが人使い荒いんじゃないのか?」
「うだうだ言ってねぇで早く来いよ!
授業に間に合わなかったらどうするんだよ!」
何なんだよ?まったく、冗談じゃないぜ。
彰、おまえいったい何キレているんだよ?
あまりにもムカついてきたオレは、とうとう彰に怒りをぶつけていた。
「おいっ、さっきから何キレてんだよ!
黙って聞いていたらマジムカついてきたぜ」
「自分の周りに気づいてないヤツに人の気持ちがわかると言えるのかよ?
調子に乗るんじゃねよ!」
「何を言わんとしているんだよ?秀才だか何だか知らねぇが、
てめぇだって何でも知っているような優等生ヅラするなよ」
もうここまで来たら、次のカードで喧嘩の始まりまで来てしまっていた。
彰、おまえに何がわかるんだよ?
オレの苦しい気持ちをどうしろって言うんだよ?
とうとうオレと彰は、喧嘩になった。
当然ながら、尚志と和彦と彰を止めに入ることができなかった。
そんな時だった。
中島裕紀と森村武志が、オレと彰の様子を見て止めに入ったのだ。
「はい、ストップ。喧嘩はよそうぜ。委員長、サブ委員長」
「そうだよ。何があったかわかんねぇけど、二人とも冷静になれよな」
二人のおかげで助かった。
この二人は、尚志と和彦が手におえないとわかると、
すぐに助け舟を出す頼もしい存在だ。
「拓哉、行こうぜ。小川のカミナリ落ちる前にいかねぇとヤバいぜ」
「そうだな、行こうか」
こうして話すと、さっきまで喧嘩していたのが嘘みたいだ。
彰は今のオレの気持ちにブレーキをかけようとしたのだろうか?
もし、そうだとしたら感謝するよ。
苦しい気持ちを吐き出して、もう一度ひろみと向き合っていくよ。
彰、ありがとう。
おまえは、技とオレを怒らせて、もう一度原点に戻れと言おうとしたんだな。
もうオレは迷わない。これで木本が揺らぐことはなくなった。
今なら、ひろみとやり直せる。
オレは、ひろみ以外の女はいらない。
もう自分の気持ちが揺らぐことはない。
ひろみ、必ず迎えに行くまで待っていてくれ。
オレを信じて待っていてくれ。
オレのたった一人の愛しい女は、おまえだけだから。




