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初恋少女  作者: 真矢裕美
33/50

フラワー(向日葵の咲く場所で)

真琴ちゃんの法事が終わった翌日、オレたちは彰の案内で

来年の春に廃線になる島原鉄道の南線に乗ることにした。

島原鉄道の南線は、南島原駅から加津佐駅を走るローカル線だそうだ。

オレたちは、彰の家から程近い堂崎駅から加津佐駅まで乗ることにした。

「さすがに夏休みだけあって人が多いな。

本当に廃線になるなんて信じられないな」

「そうだろう?寂れた土地では列車に乗る人間も少ないし、

今では車が足代わりになっているから、列車に乗るのも疎らだからな」

「なるほどな。こんなに海が見えて景色もいいのに、もったいないな」

列車から見た海の景色は本当に綺麗だった。

列車の窓から見るコバルトブルーの青い海を

ひろみに見せたいとオレは思った。

おれは、携帯を取り出して車窓から見る海の景色を写真に撮った。

そして、ひろみにメールと一緒に海の写真を添付して送った。

ひろみは、ドリームランドの舞台稽古の真っ最中だったので、

今年は一緒に旅に出られなかった。

だから、どうしても海の景色を見せてやりたくなったのだ。

「ひろみさんにメールしていたの?」

「あぁ、この海の景色をひろみに見せたくなったんだ」

「そうなんだ。ひろみさん、メール見て喜んでくれるといいね」

「あぁ、そうだな」

尚志と他愛のない話をしながら、列車で海の景色を見ていたオレは、

チビの頃の懐かしい思い出を重ね合せていた。

「拓哉、次の駅で降りるぞ。次の駅の口之津に

向日葵がいっぱい咲いている場所があるんだよ」

向日葵がいっぱい咲いている場所がある?

もし、それが本当なら、ひろみがどんなに喜ぶだろう。

向日葵は、ひろみが好きな夏の花だ。

その向日葵が咲いている場所があるなら行ってみたいと思った。

そして口之津駅で降りたオレたちは、向日葵の咲いている場所に行ってみた。

そこは、まるで黄色いじゅうたんのようだった。

この向日葵の景色も、ひろみにメールで送った。

こんなに向日葵が咲いている場所を知ったら、ひろみは喜んでいただろうな。

ひろみに会いたい。会って話がしたい。

そう思ったオレは、ひろみにメールをしていた。

「愛している。今度は二人だけで旅がしたい。

向日葵の咲く場所で、おまえと一緒に歩きたい」

と書いていた。

しばらくして、ひろみからメールの返事が来た。

「拓哉、私も拓哉に会えないのがとても淋しいです。

だけど、拓哉の優しさと純粋な思いが今のメールで伝わってきます。

拓哉、愛しています」

愛している。こんなに離れていても、お互いに心が通じているのがわかる。

オレは、今までこんなに恋しく愛しい女に巡り合えた幸せはないと思っていた。

だけど、彰は恋しくて愛しい女と悲しい別れをした。

そして、自分の想いを打ち明けられないまま逝ってしまった

悲しみを自分の心を開いた時に解放していった。

愛する気持ちは、たとえ離れても心の中に生き続ける。

今度の旅で彰と真琴ちゃんの愛し合う思いでそれを教えられた。

真琴ちゃんと過ごした思い出の場所で、彰も心残りなく

前を向いて歩いて行けるだろう。

「どうだ?すごいだろう?この向日葵の畑は、真琴が大好きな場所だったんだよ。

真琴が元気だった時は、この向日葵の咲く頃になると

毎年二人で出かけていたんだ」

彰が言うように、この向日葵は黄金色のじゅうたんのようだった。

ひろみと二人で向日葵の咲く場所を歩きたい。

二人でコバルトブルーの青い海に出かけて浜辺を歩きたい。

来年の夏は、必ず二人で一緒に旅をして向日葵の咲く場所に行きたいと思った。

そして、二人の旅の思い出をたくさんアルバムに綴ってみたいと思いはじめた。

それからしばらくたってから、オレたちは口之津駅からバスに乗り

小浜にまで行った。

小浜は、温泉も有名だが土産物を買うのには、ちょうどいい場所だった。

「みんな、温泉に行こうぜ」

彰が案内した小さな旅館で、オレたちは温泉に入ることにした。

温泉に入ったオレたちはのんびりした気分で気持ち良かった。

「いい湯だね、拓哉」

「あぁ、のんびりして気持ちいいな」

「海水浴もいいけど、野郎だけじゃ張り合いないからな。

だから温泉にしたんだよ」

「オレは、あんまり賑やかすぎるの好きじゃないから

ちょうどいいよ。オレは、もともと紫外線にあたると貧血起こすから」

そう言った和彦に尚志は言った。

「でも体育の授業の水泳は出ているけど大丈夫なの?」

「うん、水泳の授業の時は、学校に行く前に日焼け止めを塗っているから、

プールに入っても平気なんだ。だけど、海水浴の紫外線は特別に強いから

日焼け止めが効かないんだよ」

「知らなかったよ、和彦。オレ、おまえが健康体だと思っていたから」

「まだオレの場合は軽いほうだよ。ひどい症状だと、紫外線をあてないように

全身を防備しないと外に出られないからね。

そう思ったらオレは、まだ普通に生活できるんだからね」

「よかったな、和彦。体育の授業も普通に受けられるようになって」

「うん、今は健康なのが本当に嬉しいと思っているよ。

健康だけは、お金で買えないからね」

「この旅行も明日で終わりだな。明後日のタイムトラベルがなけりゃ

登校日までずっと過ごせたのにな」

「拓哉、正直に言えよ。本当は早く帰りたいんだろう?

愛しいひろみさんのところに。おまえの顔に書いているぜ」

「おいっ、彰」

「どうやら図星だな」

彰の言った言葉に、オレは言葉を失った。

もしかして、彰はオレの気持ちに気づいていたんだろうか?

「拓哉、ひろみさんに何か記念になるもの買ってやれよ。

ひろみさん、きっと喜ぶぜ」

「そうだな。またいつか4人で旅行したいな」

「今年は修学旅行とスキー合宿があるから楽しみはまだあるぜ」

「そうか、修学旅行とスキー合宿があったな。どうなるか楽しみだな」

そう、高校2年生の今年は、修学旅行とスキー合宿があるのだ。

夏の旅行も楽しかったが修学旅行とスキー合宿という楽しみが増えた。

今年の夏の旅の思い出はオレにとって忘れられない思い出になった。

愛する気持ちは、たとえ離れていても心の中で繋がっていれば、

心が通い合うことがわかったのだから。

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