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初恋少女  作者: 真矢裕美
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今日はゆっくり話そう

長崎に来た夜のこと、和彦は絵梨ちゃんがドリームランドのテストに

落ちていたことを話した。

今年の一月にドリームランドのテストがあったのだが、

一次試験には受かったものの、二次試験で落ちたのだそうだ。

「そうだったのか。絵梨ちゃん、残念だったな」

「うん、やっぱり落ちたがの悔しかったんだね。名古屋にいる姉貴のマンションに

一人で行って、しばらく学校に戻らなかったんだ。

そしたらオヤジとおふくろが来て、絵梨のヤツ、オヤジに怒鳴られたよ。

自分の夢を叶えたいなら最後までやれって言って。

受験の年齢制限崖っぷちまで受けて、ダメならそこで他の道を決めたら

いいじゃないかって言ったんだ」

「そうだったのか。今はどうなんだ?」

「今年も受験するって頑張っているよ。

今は夏休み中返上でレッスンに通っているよ」

「そうか、来年は無事に合格するといいな」

「ありがとう、拓哉」

絵梨ちゃんは、ドリームランドの受験に向けてスタートを切った。

だけど絵梨ちゃんは、真琴ちゃんの法事を知っているのだろうか?

絵梨ちゃんと真琴ちゃんは親友だったはずなのに、絵梨ちゃんは

真琴ちゃんに会うのが辛いのだろうか?

「絵梨はね、本当は真琴ちゃんに会いたいんだよ。

だけど、ドリームランドの女優になるまで実家に帰らないって宣言しただけに、

絶対に合格するまで帰らないって言っていたんだ」

「真琴ちゃんは絵梨ちゃんの親友なんだろう?

墓参りだけでもしてやれないのか?」

「拓哉、絵梨のこと誤解しないで。実は、ドリームランドに入りたいという夢は

もともと真琴ちゃんの夢だったんだよ。真琴ちゃんが亡くなった時に

必ず自分が真琴ちゃんの代わりにドリームランドに入ると決めたんだよ」

「真琴ちゃんの夢?」

「うん、真琴ちゃんはドリームランドに入ってミュージカルスターになるんだって

言っていたんだよ。そして彰と一緒に歌を歌いたいって話していたよ」

真琴ちゃんは、彰と一緒に歌いたいと思っていたんだ。

彰の想いは、真琴ちゃんに通じていたんだ。

よかったな、彰。

「これ、絵梨から預かってきたんだけどすごいだろう?

これ、全部真琴ちゃんが書いたんだよ。

いつか元気になったら彰のギターで歌いたいって言っていたんだよ」

和彦がそう言うと、絵梨ちゃんから預かってきた数冊のノートを見せてくれた。

ノートのページには、一つずつ日記帳のように純粋な詩が書かれていた。

「和彦、オレこの詩に曲をつけたい。真琴の生きた証しとして、

この詩に命を吹き込んでオレが歌いたい。このノート、しばらく借りていいか?」

「借りるなんて言わなくていいよ。このノートは絵梨が彰に渡してくれって

頼まれた物だから彰が持っていていいんだよ」

「ありがとう、和彦。これは、オレにとって最高の贈り物だぜ」

彰は、和彦からの思いがけない贈り物に感激したのか涙が溢れていた。

「彰、よかったな。今度の文化祭のバンド演奏で聞かせてくれよな」

「もちろんだよ。みんなが喜ぶ曲に仕上げてみせるぜ」

真琴ちゃんの詩が、彰のギターで命が吹き込まれようとしている。

彰にとって、ミュージシャンの夢を取り戻した瞬間だった。

そして翌日、オレたちは真琴ちゃんの法事に出かけた。

真琴ちゃんの仏間に線香をあげたオレたちに、

真琴ちゃんのお母さんは「ありがとう」と言ってくれた。

真琴ちゃんも、これだけ多くの人に集まってもらって喜んでいるだろう。

彰も心残りが消えて、新たに自分の夢に向かって頑張るだろう。

そして、その夢が叶うことを信じて歩いてほしいとオレは願ってやまなかった。

「彰くん、これ真琴の思い出にもらってくれないかしら」

そう言って、真琴ちゃんのお母さんがみせてくれたのは、

真琴ちゃんっが生前愛用していたシンセサイザーだった。

真琴ちゃんは、小さいころからピアノを習っていて

中学の時にピアノの演奏コンクールで優勝したほどの腕前だったのだ。

そんな彼女が元気になったら、彰と一緒に演奏したかったんだろうか。

「ありがとう、おばさん。これ、ずっと大切にするよ。

真琴の形見に大事にします」

彰のミュージシャンになりたい気持ちは、真琴ちゃんにも伝わっていたんだ。

そう思うとオレは、二人のミュージシャンになりたいという夢が

魂を通じて伝わったことに感動していた。

このシンセサイザーは、後に活躍する彰のバンドグループ『FLASH』の

キーボード窪島貴大に受け継がれていった。

同じミュージシャンを目指す仲間に使ってもらえるなら、

天国の真琴ちゃんも喜んでくれるだろうと信じてやまなかった。

そして真琴ちゃんの家を出たオレたちは、真琴ちゃんの墓に行った。

そして墓前に花と線香を手向け、天国にいる真琴ちゃんの冥福を

ひたすら祈っていた。




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