ベルリンの壁
クラスの中の揉め事はいろんな形で起こる。
その問題は様々だが、教師からの嫌がらせは目に余るものがある。
そう、生活指導の吉村のこと。
かつては、ひろみの元担任で今はオレたちの生活指導で来たヤツだ。
とくにオレと彰は去年の学校停学から吉村に目をつけられていたのだ。
「まったく、吉村のヤツ毎回同じ説教ばっかりでいい迷惑だぜ」
「本当だな。嫌がらせも大概にしてもらいたいもんだぜ」
「吉村は気に入っている生徒には贔屓するからな。
まったく、なんとかならないもんかな?」
「拓哉、ひろみさんは吉村の元担任だったよな?」
「あぁ、3年の時の担任だったかな?大学受験の時、かなり抵抗していたからな」
「今のままではクラスがバラバラになる。今のうちに何か手を打たないとな」
「オレ、今日ひろみと会うから打開策考えてみるよ」
「そうだな、頼んだぜ」
「それじゃ、何かあったらメールするよ」
オレと彰は、クラス委員会が終わってから二人で打開策を考えていた。
生徒と生徒なら一対一で問題解決できるが、
生徒と教師だと問題解決するには並大抵なことではない。
だけど、売られた喧嘩には負けるわけにはいかない。
教師だからといって生徒への横暴は許してはいけないことだから。
それからオレは、ひろみのいる瑠璃子さんの実家の喫茶店に行った。
今日は、ひろみがドリームランドの舞台稽古だったので、
この店で待ち合わせしていたのだ。
「拓哉、待った?」
「オレも今来たところだよ」
「メールに困ったことができたって書いていたから心配していたのよ。
何かあったの?」
「吉村の横暴が今オレのクラスを脅かしているんだよ。
何とか打開策が見つからないかと思ったんだ」
「そうなんだ。あたしがいた時もあったよ。進路指導で宗教新聞配ったり、
政治新聞をとるように勧めたりしていたわ。だけど、あたしの家は断ったよ。
うちは藤村の先祖代々の仏壇があるんだから」
「政治新聞と宗教雑誌を配っていたのか?ひどい話だな」
ひろみから吉村の横暴を聞いて、オレは腹が立った。
こんな横暴なヤツが生活指導でやっているのかと思うとマジでムカついてきた。
「ひろみ、こうなったら吉村の授業ボイコットしなきゃ、
オレの腹の虫がおさまんねぇよ」
「拓哉、落ち着いて。今感情的になったら、先生の思うつぼよ。
何かにつけて拓哉を退学にしょうとするのが目に見えているわ」
「だけど、このまま黙っていたら腹の虫がおさまんねぇよ。
ひろみ、何か手立てないか?」
「そうね、どうせ授業をボイコットするなら、クラス全員でやったら?
吉村先生じゃなく、他の先生の授業もボイコットしちゃえばいいじゃないの?」
「おいっ、それって担任の小川の授業もボイコットするわけ?」
「そうよ。やるんだったら、とことんやったほうが後腐れないでしょ」
「なるほどな、クラス全員なら学校で大騒ぎになるな。やってみる価値あるな」
「ドリームランドの同期生に女子部の卒業生がいるから、
先生の今までのやっていたことを手紙に書いて出すことができるわ。
よかったら、こっちへメールで呼ぶけど、どうする?」
「心配してくれてありがとう。気持ちは嬉しいけど、
これはオレの学校のことだから、おまえを巻き込みたくないんだ。
それに騒ぎが大きくなれば、今度は事務所も咎めなしじゃすまないからな」
「わかったわ。拓哉、前みたいに学校停学にならないかしら?
あたし、不安なの」
「心配するなって。今度はクラス全員で行動を起こすんだ。
絶対に負けないぜ」
そう、賽は投げられたんだから絶対に負けない。
必ず勝ってクラスの団結力を強くしてやろうと思った。
そして翌日からオレたちクラスは、全員授業のボイコットをした。
さすがにクラス全員が来ていないとなると学校は大騒ぎになった。
そして、小川先生から連絡が入り、オレと彰が学生寮に呼ばれた。
「おまえら全員が学校に来なくなってから学校が大騒ぎになっているぞ。
おまえらが出てこないのは何か理由があるのか?」
すると、彰が冷静になって先生に言った。
「生活指導の吉村先生の態度には目に余るものがあります。
気に入った生徒を贔屓し、そうでない生徒には嫌がらせと言える行為を
受けています。今のままではオレたちのクラスがバラバラになると思い、
クラス全員でのボイコットに踏み切りました」
「それなら、どうして事前に話さなかったんだ。オレは、おまえらの担任だぞ!
おまえらが辛い思いをしているなら、オレが戦ってやるくらいの覚悟がある。
それなのにオレに一言も言えないくらいに悩んでいて話せなかったのかと思うと
情けないじゃないか!しかし、もう起きたことだから今更どうこう言わない。
飛島、おまえが見計らってクラス全員に集合をかけろ。
今の話は、学年主任の岸本先生に報告しておく」
「はいっ」
オレたちの戦いは始まったばかりだ。
だけど、この戦いに負けるわけにはいかない。
必ず勝って、クラス全員の団結力を見せてやろうとそう思った。
「拓哉、この戦い必ず勝とうぜ」
「あぁ、必ず勝ってオレたちの強さ見せてやろうぜ」
彰と二人で必ず勝ってやろうと誓った。
そしてどんなことあっても負けない強い力をつけてやるとオレは思った。




