文化祭
今日は待ちに待った文化祭。
オレは昨夜、彰や和彦、尚志と一緒に合宿用の寮に泊まっていた。
「オッス、彰。目が覚めるの早いな」
「なんか、目が覚めるのが早くてな。さてと顔洗ったら、今日の分の
カレーのご飯を仕込んでおかないと昼前に間に合わないからな。
拓哉、手伝ってくれ」
「オッケー、小川も30キロの米を二袋持ってきたんだからな。
今日の30キロの米を洗うのは至難の技だぜ」
「その至難の技を食堂のおばちゃんたちは、毎日やっているんだぜ」
「そうだよな」
「米の分量と水加減は、寮の食堂のおばちゃんが教えてくれた。
あとは半分ずつ米を洗っていけばいいだろ」
それからオレは、彰と二人でカレー用の米を洗っていた。
米を洗いながら彰は言う。
「昨日のフルーツとオレンジジュースで何をつくるんだ?」
「まだ内緒。カレーができるころに合わせて作るから楽しみにしてくれよ」
「おまえのことだから何か打開策があるんだろうな」
「まぁ、見ていてくれよ。必ずオレたちの模擬店が一番になるようにするからよ」
オレは彰にそう言って二人で米を仕込んでいた。
「おはよう、二人とも早いね」
「おはよう、和彦。寝起きで悪いが、尚志と一緒に残り半分の米を洗ってくれ。
オレと拓哉で15キロを洗っているから、残り15キロは二人でやっていける」
「オッケー」
それから尚志と和彦が加わって4人でカレー用の米を洗っていった。
あとは、いつでも炊けるようにすれば完了だ。
「おはよう、委員長」
「おはよう中島」
「カレーの肉、集めて持ってきたぜ」
「ありがとう。あとはカレー用の野菜を用意して、カレールーがあれば
準備完了だ。それに今日はカレーをつくるから通学生は全員朝の9時までに
来いと言ったからな」
「その時間を見計らってご飯を炊く。こっちの準備は万端だ」
それから朝の9時になり、クラス全員が集合してカレー作りが始まった。
ビーフカレー、ポークカレー、チキンカレー、シーフードカレーと
各自分担してつくっていった。
カレーをつくったのを見計らって別の鍋でご飯を炊いていった。
15ずつ2つ炊くことになったが、
早めに用意しておけば、昼前に間に合うだろう。
「拓哉」
「ひろみ、来てくれたのか?」
「これは拓哉から頼まれたもの。ヨーグルトは差し入れ。
これで何か役に立つかしら?」
「これがあれば十分だぜ。ひろみ、ありがとう」
これで、オレのアイデアが形になる。
オレはフルーツの缶詰を缶切りで切っていた。
そして果物を細かく切り、オレンジジュースを注ぐ。
ただし、これだけでは終わらない。
カップにヨーグルトを入れて、今のフルーツソースをかけると、
フルーツヨーグルトの完成だ。
これをカレーと一緒につける。
これでうまくいくといいのだが…。
「おいっ、拓哉。何だよ、それ?」
「これが夕べオレがひらめいたものさ。こいつをヨーグルトにかければ
簡単なデザートになるわけさ」
「なるほどな。それが朝話していた打開策か」
「試食してみてくれ、彰。うまくいけば、これをカレーにつけて出すつもりだ」
「うん、結構いける。これをカレーと出せばちょうどいいぜ」
「決まりだな、彰」
「あぁっ、今日1日これで頑張ろうぜ」
それぞれのカレーも出来上がり、ご飯も長けて準備は万端整った。
いよいよお昼になり、各組の模擬店がそれぞれお客さんでいっぱいになった。
オレのクラスのカレーも好評で、カレーにつけたフルーツヨーグルトは
大好評だった。
お客さんのなかには
「このデザート、美味しい。ホントに男の子がつくったとは思えない」
と言われりもしたが、かなりの好評で売れ行きもよかった。
しばらくして客が引いたので、オレは彰と尚志そして和彦、小川先生と
つくったカレーを一緒に昼食をとった。
食事をとりながら先生はオレに言う。
「城島、このデザートのアイデアはよかったぞ。カレーも多くつくってよかった。
この調子だと明日もかなり客が来るだろう」
「なぁ、拓哉。カレーを4種類にして正解だったな」
「そうだな。最初は大丈夫かなって心配だったが、うまくいってよかったな」
オレたちの会話を聞いて先生は言った。
「飛島と城島がクラス委員になってから、うちのクラスがまとまって
他のクラスより団結力が強いと先生方が褒めていたぞ」
すると彰は、こう言った。
「そうですか。オレも城島もクラスで当然のことをしただけですよ」
そう言って話をしているうちに、ひろみが友達の久美子さん、美由紀さん、
律子さんと一緒に来てくれた。
オレは、ひろみに
「ひろみ、女子部の模擬店に行かなくていいのか?」
と言った。
ひろみは、
「もう卒業したから別に義理立てすることないわよ」
と笑ってオレに言った。
「そうよ。前から一度男子部の校舎を見たかったから、
みんなで行ってみようってことになったの」
と久美子さんが言った。
「石川、渡部、但馬それに児島、おまえら揃ってきてくれたのか?」
「はいっ、先生お久しぶりです」
「渡部、元気そうでよかった。転校と言う形で送り出したが、
おまえの活躍はずっと見てきている。これからも頑張れよ」
「はいっ、ありがとうございます」
なんとオレの担任の小川先生は、ひろみの2年の時の担任だったのだ。
「おまえら、昼飯まだなんだろう?好きなの食っていけ。オレのおごりだ」
「ラッキー、来てよかったね」
「先生、ホントにいいんですか?」
「いいんだよ、ひろみ。小川がおごるなんて滅多なことないんだから
遠慮すんなって」
「お言葉に甘えさせていただきます」
そう言ってひろみたちはそれぞれ好きなカレーを食べていた。
しかし卒業しても来ることができる環境があるのは、
本当にいいなとオレは思った。
「委員長」
「どうした、中島」
「オレの彼女が来たんだ。今彼女と女子部の模擬店や展示会場をまわってきて、
もう腹ペコになったよ。カレー、まだ残っている?」
「なんだ。それならそうと早く言えよ。まだまだたくさんあるから
好きなの食えよ」
中島の嬉しそうな顔を見てオレはなぜか嬉しかった。
入学した時は、クラスに迷惑かけて先生から呼び出されて説教されていたヤツが
今ではクラスのために役に立とうと頑張っている。
先生も、そんな中島をよく頑張っているなと褒めていた。
似た者同士、親近感を感じているオレは、
いつか中島と親友になるのではないかと感じていた。
カレーを食っている中島は、
「うん、美味い。ヨーグルトも最高だぜ。誰がつくったんだ?」
と言った。
その問いにオレは、「オレだよ」と答えていた。
すると中島は驚いて、
「えっ?サブ委員長がつくったんですか?信じられないな。
だけど、美味いですよ。ヨーグルトにオレンジのフルーツソースが絡まって
美味いですよ」と言った。
中島の彼女もフルーツヨーグルトに喜んでくれたようだ。
二人仲良くカレーを食べているのを見てオレは、
ひろみと二人で暮らせたらいいなと思うようになっていた。