タイムトラベル
進路指導は、毎回親と同伴でおこなわれる。
だけどオレは、いつもオヤジと同伴で進路指導に行く。
尚志や他の連中は、おふくろさんが同伴なのに…。
まったく、うんざりしています。
そして今日はオレの面談の日で、オレはオヤジと一緒に学校に行きました。
「あーぁ、うざってぇ。早く帰りたいぜ」
それを聞いていたオヤジは、
「やかましい!おまえがしっかり勉強しているかワシがちゃんと
見届けなあかんやろ!ラジオの仕事やってから、成績が下がったなんて
なったら親の監督不行き届きになるやろ!」
と怒鳴ったのだ。
するとオレも負けずに、オヤジに言った。
「なんで、オヤジがオレの学校に来たがるんだよ。心配しなくても、
それなりに勉強はやっているのに」
するとオヤジは、オレに言った。
「中学三年ってのはな、高校受験か専門学校か、ちゃんと上の学校に
行くのが当たり前や。とくにおまえは数学嫌いや。いつも寛治の息子の尚志に
ノートを借りて宿題ごまかしとるらしいやないか!」
なんでバレてるんだよ?まさか、漫才のネタにされたりしてないよな?
オレは、オヤジと他愛のない喧嘩をしながら自分の教室に着いた。
ちょうどその時、尚志がおふくろさんと一緒に教室から出てきたところだった。
「拓哉」
「おぅ、尚志。終わったか?」
「終わった。こってり絞られた」
尚志がシーラカンスババァに絞られたくらいなら、相当やられるなと
オレは思った。
「はい、次。城島くん、お入りなさい」
いよいよオレの番がきた。
オレは尚志に、
「行ってくるわ。シーラカンスババァの演説、やたらと長いからな」
と言った。
すると尚志も、
「幸運を祈っているよ」と言った。
そしてオレは、教室に入ってオヤジと一緒にシーラカンスババァの
話を聞くことになった。
「さて、城島くんの成績なんですが…」
『ヤバイ、演説が始まったよ』
とオレは、内心ビクビクしていた。
ところが、シーラカンスババァは説教どころか
逆にオレを褒めていたのだから驚いた。
「数学は、私が担当しているのですが、
最近、数学の成績が上がっているんですよ」
と言ったのだから…。
それを聞いたオヤジも驚いてしまって、
「先生、それホンマでっか?こいつ、数学は公式を覚えるのが嫌いで、
心配していたんですわ。しかし、成績が上がっているって、ホンマかいな」
とびっくりしていた。
するとシーラカンスババァは、
「三年になって、私が担当してから数学の成績は上がっています。
あと国語と英語も、平均点並みで頑張っていますよ。
二年生の担任の先生が、城島くんの進学を心配していましたからね。
あとは、城島くんが頑張って今の成績を維持していれば、私立ですが
高校進学の可能性もあります」
と言った。
高校進学、今まで考えてなかったことが現実になっている。
寛さんからの「高校だけは出ておけ」の言葉が強くオレの心に残っている。
その高校進学が現実的になってきたことに、オレは必ず高校に行こうと思った。
そして進路指導が終わって、オレはオヤジと学校を出た。
オヤジは、
「三上寛に、おまえを預けてよかった」
と言った。
そしてオレも、
「オヤジ、寛さんと何話したの?」
と言った。
するとオヤジは、
「それは、親として頼むわって話しただけや。おまえが心配することやない。
拓哉、高校受験も夢やないって言うとったやないか。しっかり頑張れよ」
と言った。
オレの今の頑張りは、オヤジの励ましと寛さんや裕美さんの励ましがあったから、頑張れたんだと自負した。
オレの数学の成績が上がったのは、裕美さんのおかげだ。
以前は、数学の公式見るだけで頭痛くなっていたオレは、
宿題が出るたびに尚志にノートを写してもらっていた。
それがある日、ラジオのオンエアの時のこと。
オレが数学の宿題で弱っていたのを見て、
裕美さんがオレの宿題を見てくれたのだ。
それから、数学が好きになり、自分で宿題をするようになった。
今日は、ラジオのオンエアの日。
最近のオレは、毎週勉強道具を持って、スタジオで勉強している。
「拓哉くん」
「洋さん、おはようございます」
「おはよう。勉強は、はかどっているかな?
「なかなか難しくて大変ですよ。早く終わってスッキリしたい気分ですよ」
「なるほどね。僕も受験やってきているから、拓哉くんの気持ちわかるよ。
あと一息だから、頑張って」
「はいっ、ありがとうございます」
洋さんの何げない言葉でも、今のオレには励みになる。
頑張って尚志と同じ学校に行きたい。
今は、そんな気持ちになっていた。
オレの高校受験は、来年の2月。
裕美さんの大学受験は今月の初めだったから、合格通知が来たかな?
裕美さん、今日はまだ来てない。
どうしたのかな?
「おはよう」
寛さんだった。裕美さん、まだ来ない。どうしたのかな?
「おいっ、拓哉。おまえ、何ふてくされているんだ?」
と寛さんがオレに聞いてきた。
オレは、
「なんでもないですよ。早く試験が終わってスッキリしたいですよ」
と言った。
すると寛さんは、
「そりゃ、そうだよな。しかし、人間こういう試練を乗り越えてこそ、
芸に深みが出る。まだまだ人生、先は長いんだぜ。頑張れ、拓哉」
と言った。
寛さんが言わんとしていることはわかるよ。
だけど、今日は裕美さんがまだ来てないのが心配なんだよ。
「おはようございます」
裕美さんがやっと来た。
裕美さんは走ってきたのか息をハァハァいって
「遅くなってごめんなさい。大学の合格通知が、今日届いたから。
ほらっ、見て。拓哉くん、あたし大学合格したの」と言ったのだ。
オレは驚いたけど、
「えっ?ほんと?裕美さん、おめでとう」
と裕美さんに労いの言葉をかけていた。
裕美さんも嬉しそうに、
「ありがとう。拓哉くんも頑張ってね」
と言った。
裕美さんが大学合格。今日のラジオは、楽しくなりそうだ。
その喜びに浸っていた時寛さんが、
「喜ぶのは後だ!早く裕美もスタンバイしろ!本番入るぞ!」
と言った。
「はいっ」
寛さんに言われて、オレも裕美さんもスタジオの席に座った直後に
本番が始まった。
「こんばんは、タイムトラベル水曜日。担当の三上寛です」
「城島拓哉です」
「朝霧裕美です」
「川添洋です」
メンバーの名前を言ってラジオのオープニングが始まった。
寛さんは、ラジオのオープニングで、
「今日は、本番前にハプニングが起こりまして裕美が遅刻をしました」
とリスナーに言った。
すると裕美さんも、
「遅刻常習犯の寛さんに言われたくないです」
と負けずに返していた。
オレも負けずに、
「そうだよな。いつもスタジオを最後に入るのは寛さんだもんな」
と言った。
「こらっ、拓哉。なんで、おまえが絡んでくるんだよ」
と寛さんは、オレに絡んできたのだ。
オレも負けずに、
「だって、寛さんの遅刻って理由なしじゃん」
と言ってやった。
「偉そうに言うなよ。おまえも遅刻をするくせに」
と寛さんが絡んできて、収集がつかなくなっていた。
そんな時に、
「まぁまぁ、二人とも落ち着いて。ところで裕美ちゃん、今日は何があったの?」
と洋さんが助け船を出してくれた。
洋さんの助け船で話題が変わって裕美さんは、
「実は今日は、大学の合格発表だったんです。それで見事大学に合格しました」
と言った。
洋さんは、
「大学に合格したんだね。裕美ちゃん、よかったね。おめでとう」
と言った。
裕美さんは、笑顔で
「はいっ、ありがとうございます」
と言った。
今日のラジオのオープニングは、裕美さんの大学合格で盛り上がっていた。
しかし洋さんは、寛さんとオレのフォローを、上手くやってのける。
アナウンサーだから、上手くリスナーの心を掴んでいる。
寛さんにはない持ち味を洋さんは持っている。
オレも、いつかは寛さんや洋さんみたいになりたいとそう思った。
オレ、早く裕美さんとの距離を縮めたい。
気持ちが焦るばかりで、今はどうしていいかわからない。
決めた!
受験が終わったら、裕美さんに告白しよう。
それまで頑張って勉強する。
あの時、裕美さんから頑張ろうって言葉をしっかり刻んでオレは頑張る。
だけど、その反面何かきっかけがほしいなぁと考えてしまうオレだった。