似た者同士
オレのクラスが、真面目な連中と不良グループと二分していた。
そのためにクラス委員長の彰は、何とかクラスの連中を
一つに束ねたいと躍起になっていた。
「まったく、中島たちの行動は目に余るぜ」
「気持ちはわかるが、焦ってもしょうがないぜ。気長にいこう」
彰が焦る気持ちは、オレもわかる。だけど焦ると答えが見えてこない。
それは、普段の彰ならわかるはずだ。
そこまで、クラスの大掃除に必死になっている彰に、
オレは何をしてやればいいんだろう?
そんな焦りから彰は、珍しく冷静な判断がとれない。
オレは、ただそんなヤツを見ているしかなかった。
そして事件が起こった。
普段は、不良グループのリーダー格の中島が、珍しく顔を青ざめている。
彼に何かあったのだろうか?
「委員長、カンパ頼む」
「カンパって何のカンパだ?」
「オレのダチが、夏休みに彼女と失敗して大変なんだよ」
オレは、中島が何を言おうとしているか想像ついていた。
おそらく、夏休みに彼女と深い仲になったんだろう。
中島は、自分の友達だと言うが、この失敗は中島自身だと、
オレと彰は見抜いていた。
「そういうことは、本人同士がちゃんと話し合えばいいだろ?
クラスの連中にカンパなんか回したら、オレが承知しねぇからな。
わかったか!」
いつも冷静沈着な彰が、こんなに面と向かって怒ることは珍しいことだった。
彰の言動に逆ギレした中島は、
「わかったよ。もう頼まねぇよ」
と言って、そのまま教室を飛び出してしまった。
「おいっ、中島待てよ」
オレは、すぐに中島の後を追った。
オレが、中島を追いかけている時に、尚志と和彦が彰に文句を言っていた。
「彰、今のは言い過ぎだよ」
「そうだよ。あまりにも厳しすぎるよ」
「いいんだよ。あいつには、あれくらい言ってちょうどいいんだよ」
いくら彰でも、中島への態度は言い過ぎだとオレも思った。
その気持ちが中島を探していたのだ。
やっと中島を見つけたオレを見て、中島はふてくされた態度をとっていた。
「なんだ、城島か。なんか用か?」
「中島、もしかして彼女のことで悩んでいたのか?」
「あぁっ、そうだよ。笑いたければ笑うがいいさ。でもな、飛島は委員長だか
知らないが、一体何様のつもりだよ」
「彰、いや飛島はクラス全員をまとめるのに必死なんだよ。クラスの中で
一つ問題があれば、そんなに小さいことでも見逃さないんだよ。
中島、さっき話したのは彰もオレも、おまえ自身の問題だって
気がついているんだよ」
「おまえにもわかるって言うのか?オレの気持ちが…」
「わかるよ。オレにも好きな女がいるから。オレは彼女に恋をしてから
付き合うようになってから、彼女とずっと繋がっていたいと思うように
なったんだ。おまえも彼女と繋がっていたいと思ったんだろう?」
「あぁっ、そうだな。しかし、おまえって不思議なヤツだな。
おまえといると、なんでも話せる。オレたちって似た者同士かな?」
「そうかもな。勉強嫌いで高校行くなんてとんでもないっておもっていたオレが、
しっかり高校生やってクラス委員になっているんだから不思議だよな。
でもな中島、彼女のことはちゃんと話し合えよ。一つ小さな穴が開いたら、
その穴がでっかくなって修正がつかなくなるからな。
それと彰のこと、許してやってくれないか」
「わかったよ。おまえがそこまで言うなら今日のところは、おまえに免じて
飛島のこと許してやるよ。だけど、どうしてオレの失敗ってわかったんだ?」
「言っただろ。オレにも、ずっと繋がっていたい女がいるって」
「朝霧裕美のことか?そうでなきゃ、飛島と一緒に喧嘩しなかっただろう?」
「おまえ、どうしてそれを…」
「オレも寮生で、飛島と岬と同じ寮にいるんだよ。
藤原たちの行動は、目に余るものがあったからオレも決着つけようと
思っていたんだよ。そしたら、先におまえと飛島が藤原たちをやっつけて
寮から追放して退学になった時は、スッとしたぜ。マスコミに知られたら
困るんだろう?だから、今日の借りにおまえの秘密を守ってやるよ。
それで今日の借りはチャラだぜ」
「中島、おまえ…」
「オレ、彼女とちゃんと話し合ってみるよ。それで答えをどうするか
二人で考えてみるよ」
「あっ、帰ってきた」
「校門の前で見つけて捕まえたよ。中島、サボタージュは二度とすんなよな」
「わかったよ、サブ委員長。もう少しで外に逃げられたと思ったのに…」
中島は、そう言って自分の席に戻った。
オレが席に戻った時に、彰はオレに声をかけてきた。
「おいっ、拓哉。あいつをどうやって手懐けたんだよ?」
「マタタビを少々使っただけ」
「なるほど、マタタビか。あいつにはちょうどいい薬だぜ」
そう言って、彰が笑い出した。
それを見て和彦と尚志は茫然としていた。
「今日の彰、変だよ。喜怒哀楽が激しいんじゃないの?」
「たまにはいいんじゃないか?自分の気持ち吐き出したって」
中島と奇妙な友情が芽生えたオレ。
中島が彼女と話し合うと言ってくれて本当に良かった。
彼女と二人出会いの結晶を守るか、必ず答えを出してから
決めてほしいと願っていた。
そして二人が、オレとひろみのようにずっと繋がってほしいと願っていた。
それは、オレもひろみと繋がっていたいという気持ちでもあった。
夏休みにオレとひろみは中島と同じように深い仲になった。
そのことは、後悔していない。
ひろみと繋がって離れられなくなるほど愛し合うことを知ったのだから。
だから中島にもその思いを忘れないでほしいとひたすら祈っていた。
そして放課後になり、オレは尚志たちと学校を出て、
校門の外にあるお好み焼き屋に入った。
「おばちゃん、たこ焼き4つね」
と彰が注文してテーブルに座った。
ところが、ちょうどそこに担任の小川先生がお好み焼きを食べていた。
ヤバイと思ったら、先生に見つかってしまい
「おまえら、買い食いはするなと言っただろ」
と言われた。
しかし先生は、オレたちを叱ることはしなかった。
それどころか、
「ここのお好み焼き屋は、おまえらのおかげで繁盛しているからな。
今のたこ焼き4つ分は、こっちの会計に入れてください」
と店のおばちゃんに言ったのだから。
彰は驚いて、
「先生、オレたち大丈夫ですから」
と心配していた。
すると先生は、
「飛島、今日はオレのおごりだ。遠慮せず食え。
普段のおまえは、真面目すぎるから時には気分転換しろ」
「はいっ、ありがとうございます」
「藤原たちと喧嘩した時は驚いたぞ。城島と二人で『殴り合いの喧嘩した』と
聞いた時は信じられなかったぞ」
「オレは、藤原の横柄な態度が許せなかっただけですよ。
ただそれだけのことです」
「どんな理由があれ、喧嘩したのは事実だ。しかし、停学も1週間だけで
すんでよかったと思っている。これからは城島と二人でクラスをまとめてくれれば
それで十分だ」
「はいっ、ありがとうございます」
彰が先生と話している時に、オレたちのたこ焼きが焼けた。
オレたち4人は、出来立てのたこ焼きを頬張っていた。
たこ焼きを頬張っているのを静かに見守る先生のまなざしの温かさに
オレは小川先生のクラスでよかったと思った。