年上の彼女
今までとは違うトキメキ。
キミに出会った時にオレは
キミに心を奪われた。
オレは城島拓哉。
年齢は14才、中学三年生。
オレのオヤジは、漫才師の浜崎勇次。
オレは、学業傍らタレント活動をやっている。
オレは、今までオヤジの出ているテレビで仕事はしていたけど、
今回の仕事は緊張している。
初めてオヤジなしで仕事をするのは当然のことだが、
ラジオの番組は初めての体験でもあった。
そう思うとなんだかワクワクしていた。
「おはようございます」
オレは、普段通りにラジオのスタジオに入っていった。
「拓哉くん、紹介するよ。キミと組むことになった三上寛さんだ」
「城島拓哉です。よろしくお願いします」
三上寛さんは、MKK放送で名前の知られているマルチタレントで、
児童劇団出身の人だ。
この人のラジオ番組は、リスナーの支持率もいい。
すっげぇー、オレこの人と一緒にやるんだ。
なんだか夢のような気持ちになっていた。
スタッフから紹介されて三上さんは、オレを見て言った。
「よろしくな!オレの場合は、ビシバシやるから覚悟しとけよ!」
「はいっ!」
こうして、お互いに挨拶を交わしていた頃に、スタジオの入り口に
可愛い女の子が缶コーヒーを抱えて立っていた。」
「おはようございます、寛先生」
「おう!裕美、入ってこい」
三上さんに促されて、女の子がスタジオに入ってきた。
「はい、失礼します」
あれっ…?
この子、誰だろう?
とてもおとなしくて、可愛らしい声でスタジオに入ってきた女の子。
それが朝霧裕美。
彼女は、三上さんが主宰する女子劇団「ドリームランド」の新人女優だ。
現在17才の高校三年生の彼女に、オレは一目惚れしてしまいました。
ロングヘアーにピンクのブラウス、黒のロングスカートでスタジオに入ってきた
彼女、朝霧裕美。
オレ、彼女より年下だけど彼女を見て可愛いなぁって思った。
そして三上さんが彼女にオレを紹介した。
「裕美、今日から一緒にやる城島拓哉くんだ」
「朝霧裕美です。よろしくお願いします」
「城島拓哉です。よろしく」
だけど、何だろう?
すっげぇー、ドキドキしている。
彼女の前で緊張して、自分の名前を言うのが精一杯だったオレ。
仕事の緊張とは違うこの気持ち、一体何なんだろう?
オレ、こんな不思議な気持ち初めてだよ。
「拓哉と裕美は年が近いし、仲良くやっていけると思うから、
二人で頑張ってオレをサポートしてくれよな」
「はいっ!」
裕美さんを見てドキドキしていたオレは、
三上さんに返事するだけで、精一杯になっていた。
だけど裕美さんの前でドキドキしているオレ。
顔が真っ赤になっている。
一体、どうしたんだろう?
今まで、こんなに女の子のことを意識したことなかったのに、
とても不思議な気持ちになっている。
オレ、すごくドキドキしているよ。
さて、オレがラジオを担当するのは、毎週水曜日だ。
「タイムトラベル」というラジオ番組で、
毎週午後10時からの3時間の深夜番組だ。
今日は第1回目というので、メンバーの顔見せも初めてだ。
これから、三上さんや裕美さんとやっていくことになるんだ。
これからどうなるかわからないけど、
楽しみが一つ増えて、オレは嬉しい気持ちになっていた。
「こんばんは」
入ってきたのは、アナウンサーの川添洋さんだ。
川添さんは、オレと三上さんを見て、
「拓哉くん、寛くん、もうみんな揃ったね」と言った。
そして三上さんも「三上です、よろしくお願いします」と挨拶していた。
そして川添さんも、
「ことらこそよろしく。僕も及ばずながら、サポートさせてもらいますよ」
と三上さんと挨拶を交わしていた。
「それではみなさん、本番に入りますのでスタンバイしてください」
番組スタッフから、スタンバイのかけ声がかかった。
今日は、第1回目のラジオだから、すっごくドキドキしているオレ。
これからどうなるか、ワクワクしながら、スタジオの自分の席に座った。
スタジオのオレの席の隣には、裕美さんが座っている。
なんだか、ドキドキしながら本番を待っていた。
「さぁっ、本番だ!拓哉、裕美、いくぞ!」
「はいっ!」
「レッツゴー!タイムトラベル!」
寛さんのかけ声で本番が始まった。
「みなさん、こんばんは。今日からタイムトラベル水曜日を
担当することになりました三上寛です。
みなさん、よろしくお願いします」
さすが寛さん、すぐにリスナーのみんなを魅了している。
オレも、いつかは寛さんみたいになれるかな?
いや、やっぱり寛さんのようになりたいなと思った。
そして番組では、寛さんからオレや裕美さんの紹介に入っていた。
「それでは、番組で僕をサポートしてくれるメンバーを紹介したいと思います。
まずは城島拓哉くん」
「こんばんは、城島拓哉です。よろしくお願いします」
「おいっ、拓哉。おまえが一番若いからしっかりやれよ」
「今日は、すっごく緊張しているんですよ。でも、一生懸命頑張ります」
「そして紅一点、朝霧裕美ちゃん」
「こんばんは、朝霧裕美です。みなさん、よろしくお願いします」
「あれっ?裕美ちゃん元気ないなぁ。一体どうしたの?」
「今日は、周りの雰囲気にのまれちゃって、びっくりしています」
「そうだよな。でも段々この雰囲気に慣れてくるから頑張れよ」
「はいっ、頑張ります」
「そして最後は、川添洋アナウンサー」
「こんばんは、川添洋です。寛くん、拓哉くんに負けないように頑張りますので、
みなさん応援してください」
そしてオレの初めてのラジオ番組は、3時間あっという間に過ぎていった。
オレに、新しい仕事の楽しさと初めてのトキメキを残して…。
「それではみなさん、また来週」
ラジオのエンディングが流れて、第1回目の番組が終わった。
そして番組スタッフから「お疲れ様でした」と声がかかった。
そして寛さんから、
「みんな、お疲れ。拓哉、また来週会おうな」
と言われた。
「はいっ、お疲れ様でした。裕美さん、お疲れ様。またね」
「うん、拓哉くんもお疲れ様」
お互いに挨拶を交わすのがやっとだけど、いつかは…。
あれっ?
オレ、何を考えているんだろう?
オレ、どうしちゃったのかな?
ヤバイよ、オレ。
裕美さんのこと、マジで恋をしちゃったみたいだよ。
どうしよう、オレ。これからどうなるの?
このドキドキとまんないよ。どうしたらいいの?
タレント活動しているとはいえオレはまだ中学生。
高校受験か専門学校に行くかという進路の話は、
中学3年になるとやたらとうるさい。
オレ自身は勉強が嫌いで、高校への進学なんてまったく考えていなかった。
「あーぁ、退屈だな」
「拓哉」
「おう!尚志」
こいつ西崎尚志、オレの腐れ縁の親友。
オヤジ同士が漫才やっている縁でチビの頃からつるんでいる。
「宿題やってきたか?」
「えっ、宿題?何かあったか?」
「やっぱり忘れてきたな。次の時間の数学の宿題」
「ヤバイ、忘れた」
自慢じゃないけど、オレ数学大嫌い。
方程式の計算問題なんて面倒くさいし、頭が痛くなる。
「ほらっ、早くノート貸せよ。答えを書いてやるから」
「サンキュ、助かったぜ」
オレは、尚志に数学のノートを投げた。
そして尚志が、オレのノートに宿題の答えを写しながら言う。
「しかし、おまえって変わったヤツだよな」
「何が?」
「数学が嫌いってこと」
「あんな面倒くさい公式頭が痛くて覚えてられるかよ」
「担任の授業なんだからマジメにやれよ。内申書にひびくぞ」
「シーラカンスババァだぜ。冗談じゃねぇよ」
「シーラカンスババァ?でも当たっている」
「だろう?行かず後家でヒステリックババァ。
まともに聞いていたらキリがないからな」
「ほらっ、テキトーにごまかしといた」
そう言って尚志は、オレにノートを投げた。
「いつも悪いな」
「長年の腐れ縁だからな」
こうして話せるのも、親友だからかもしれない。
こうして、タレントの仕事を離れても話ができるのも尚志だけだろう。
「ところでさ」
尚志がオレに聞いてきた。
「朝霧裕美さんって、美人なんだってな」
「うん、そうだな」
「ドリームランドの女優さんって、みんな美人ばかりだからなぁ。
拓哉が羨ましいぜ」
尚志は、これはチャンスだと思ったのか、
オレにとんでもない頼み事をしてきたのだ。
「拓哉、オレの妹が裕美さんのファンなんだよ。
おまえ、裕美さんのサインもらってきてくれよ」
オレも突然だったので、
「えっ?裕美さんのサインをオレが?」
と驚いて聞き返していた。
すると尚志は、オレの返事を待たずに、
「頼むよ、拓哉。今日の宿題の借りに」
と言ってきたのだ。
そう言われると、オレも根負けして、
「わかったよ。裕美さんに会ったら頼んでやるよ、それで今日の宿題はチャラで」
と尚志に言った。
そしたら尚志は、
「ありがとう、恩に切るぜ」
と喜んでいた。
あーぁ、こいつちゃっかりしているぜ。
オレの気持ちも知らないで、いい気なもんだぜ。
しかし、こんなふうに学校生活送るのは、いつまでなんだろう、
なんてのんびり考えていたオレだった。
尚志は、ドリームランドのファンで舞台があると毎回必ず見ている。
だからドリームランドの新人女優のお茶会は、
尚志のオヤジさんと一緒に行っている。
だから、今年の新人女優の情報も早くから知っていたんだろうな、きっと。
さて、今日はラジオのオンエアの日でもありました。
今日の裕美さんは、何か悩んでいるみたいです。
「おはよう、裕美さん」
「あっ、拓哉くん。おはよう」
「何かあったの?」
とオレは裕美さんに聞いていた。
すると裕美さんは、
「たいしたことじゃないの。進学のことだから」と言った。
裕美さんは、確か今高校三年生だ。進学ということは、まさか…。
そう思ったオレは、裕美さんに思わず聞いていた。
「ねぇ、裕美さん。進学ってもしかして…」
「うん、大学進学。うちの担任は、短大進学を薦めているから悩んでいるんだ」
ひぇー、大学進学!?オレなんて高校の進学さえやばいと言われているのに…。
だけど、ここは冷静になろう。
裕美さんが悩んでいるんだからな。
気持ちが落ち着いたオレは、
「なんだよ、それ。ずいぶん理不尽じゃん」と裕美さんに言った。
すると裕美さんは、
「そう思うでしょう?メガネババァ、最低」とオレに言った。
「ねぇ、メガネババァって誰?」
とオレは、裕美さんに聞いていた。
すると裕美さんは、
「うちの担任のあだ名よ。付け加えたら、チビだし行かず後家よ」
と言った。
それを聞いたオレは裕美さんに、
「オレの担任も行かず後家のシーラカンスババァだぜ」
と言った。
なんだか、裕美さんと話す話題が知らない間に
自分たちの担任の悪口大会になっていた。
だけど、裕美さんと二人で話せてオレは、嬉しい気持ちになっていた。
裕美さんも、オレと話したのがよかったのか、少しずつ笑顔が戻っていた。
「なんだなんだ。二人ともずいぶん盛り上がっているな」
寛さんが、スタジオに入ってきた。
「担任の悪口大会ですよ。ねっ、拓哉くん」
「うん」
「悪口大会は聞き捨てならないなぁ。裕美、おまえの担任が大学の進学を反対しているのは聞いているが、もう少し冷静に考えないとダメじゃないのか?」
「冷静に聞けたら私悩みませんよ。うちの担任って、
女が大学に行くなんてとんでもないって頭固いんですから」
寛さんと裕美さんの会話を聞いていたオレは、
裕美さんの担任がオレの担任といい勝負しているなと思った。
そして寛さんが、オレに聞いてきた。
「ところで、拓哉。おまえは、これからどうするんだ?」
オレは突然だったので「何がですか?」と聞いていた。
すると寛さんは、
「おまえの進学問題のことだ!おまえ、数学は方程式の計算問題を見ただけで、
頭痛がするほど大嫌いな科目だというじゃないか!」
といきなり怒鳴ったのだ。
何で知っているんだよ?
寛さん、裕美さんの前でオレの苦手なこと言わなくていいじゃないか。
そして寛さんは、オレに言った。
「オレだって、長年ラジオの仕事をやっているんじゃないんだぜ。
番組をサポートするメンバーのことは、一人一人の性格を把握していって
仕事していくもんなんだよ。とくに拓哉、おまえの場合は…」
「僕の場合はって、寛さん…」
すると寛さんは間髪入れずにオレに言った。
「おまえのオヤジ、勇次師匠から一人前のタレントに育ててくれと
頼まれているんだよ!だからオレは、おまえを育てていく義務があるんだよ!」
オヤジが寛さんと?
いつの間にそんな話をしたんだろう?
寛さんの言葉は、続いた。
「拓哉、高校だけは出ておいたほうがいいぞ。中学とは違う体験があるし、
今の時代は高校卒業から社会に出るほうが、芸の幅が変わってくる。
今からでも遅くはない。高校進学を考えて頑張ってやってみろ!」
高校に行く?
オレが?
今まで考えたことなかった。
だけど、寛さんに励まされると、なぜか頑張ってみようと思ってしまう。
寛さんって、本当に不思議な人だ。
「僕、頑張ってみます。多分私立専願になるかな?成績悪いから」
「今のおまえができるところから始めたらいい。
今からの頑張りが必ずプラスになる。それを忘れるな」
「はいっ!」
やっぱり寛さんはすごいや。
オレはそう思った。
そして裕美さんが、オレに言った。
「拓哉くん、一緒に頑張ろう。拓哉くんは高校、あたしは大学受験。
二人で一緒に頑張ろう」
裕美さんの言葉に嬉しい気分になったオレ。
それを聞いた寛さんは、
「どうやら裕美は、大学を受ける意志が固いみたいだな」
と言った。
すると裕美さんは、
「大丈夫です。自分の力信じていますから」
と言った。
裕美さんの言葉に寛さんは、
「それなら、やるだけのことをやって悔いのないようにやれよ」
と言った。
そしてオレも、
「裕美さん、頑張ってね。オレも頑張るから」
と言った。
やっぱり裕美さんの笑顔、可愛いなぁ。
彼女の笑顔で気持ちが温かくなってくるオレ。
いつかは付き合えたらいいなぁなんて…。
えっ?どうしょう。
オレ、何を考えているんだろう?
オレ、オレ、
気持ちの整理ついてないよ。
裕美さんのこと、ますます好きになっているよ。