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第九話

「……元々、期待しては居なかったけどこれと言ったものはなかったな」


 伐は桜華学園でクリスに関係する情報を集めた伐だが有益な情報は見つからず、けだるそうに欠伸をしながら帰路を進む。

 彼自身、クリスに起きた事を考えると彼女の交友関係よりは彼女の実家のトラブルに巻き込まれたと考える方が自然だと思っているようである。


 クリスの実家であるウェストロード家は幅広い事業を行っている家であり、その発言は政界にも及ぶと言われている。

 それだけの力を持っている家の娘であるクリスは敵対する者達に襲われる可能性は充分に考えられるが、クリスの状況からウェストロード家の動きが鈍いように見える。


「……昨日の奴らを見ていると保護って感じではかったからな」


 昨晩、彼女を追いかけていた者達が彼女に好意的な者達には見えなかった事もあり、伐は昨晩の路地裏の様子を思い出して眉間にしわを寄せた。


「それにこの街で猫にケンカを売るって理由を知らないって言うのはおかしい。少なくとも今の当主は大和の事は知っていたはずだ。俺が舐められているか、方向転換か? ……それとも他の何かがあるか。後は真が持ってきた失踪事件との因果関係か?」


 伐はウェストロード家の内部を調べる必要があると方向を決めた時、彼の周囲が色を失って行く。

 街を歩いていた人達は動きを止め、伐だけが世界から隔離されたような感覚が伐を襲う。


「……こっち側の人間がいるって言うのは解っていたけどな。こんな時間から仕掛けてくるか?」


 しかし、周囲の異常に気が付きながらも伐は危機感を覚えた様子はなく、なれているのか呆れたようなため息を吐いた。

 彼のため息と同時に地面からは黒い靄が浮かび上がり、いくつもの人型を形成して行くと人型には目などはないが、伐を睨み付けるように見ているのがわかる。

 完成した人型は伐を敵だと認識すると彼に飛びかかるが、襲い掛かる攻撃を伐は欠伸をしながら交わして行く。


「……能力は下の下だな。これなら、昨日の男の方がマシじゃねえのか?」


 けだるそうな伐を捕らえられない事に黒い靄は数を増やして行くが数を増やそうともその攻撃が伐の身体に触れる事はない。

 ただ、数を増やす事しか考えられない相手だとやる気がしないようで伐はため息を吐いた後、視線を鋭くする。

 彼の瞳は金色こんじきの光を灯すと伐に攻撃を仕掛けた人型ははじけ飛ぶように消えて行く。


 伐が攻撃に転じた事に黒い人型はまるで何かを守るように彼との間に距離を取った。

 その様子に伐は昨晩、彼が特殊な力を持っていると気づきながらも向かってきた男性の顔を思いだしたようで小さなため息を吐く。


「……それで、何の用だ?」


 伐がため息を吐いた瞬間、彼の瞳は怪しく光り、それと同時に彼の視線の先にいた人型ははじけ飛ぶ。

 人型がはじけ飛んだ先には女性が立っており、伐は淡々とした声で聞く。

 彼の声には逆らう事など許さないと言う圧力があるが女性は彼の質問に答える気などないのか口元を小さく緩ませると伐の足元が歪む。

 彼の足元からは赤黒い手が現れ、伐の足に絡みつくと地面に引きずり込もうとしているようである。


「質問に答えろ」

「……あの娘をどこにやった?」


 伐は足に絡みつく手など気にする事はなく、女性に向かい歩き始めると簡単に彼の足をつかんで行く手はちぎれて消滅して行く。

 力量差を理解できない女性の様子に伐はつまらないと言いたいのかわざとらしいくらいの大きなため息を吐いた。

 女性は伐の力量を本当に理解できていないのか、それともまだ隠している力があるのか、自分の方が上だと思っているようで高圧的な様子で聞く。


「あの娘? 心当たりがありすぎて、どの娘かわからねえな。だいたい、それが人に物を聞く態度か?」

「そう? 答える気がないなら、殺してから、その身体から聞き出すわ」


 女性の言う娘とはクリスの事だとすぐにわかるが、伐は答える気もないため、欠伸をしながらとぼけた後、挑発するように口元を緩ませた。

 伐の態度に交渉は決裂したと言いたいのか女性はため息を吐くと彼女の足元から、黒い靄が浮かび上がり、彼女の身体を包んで行く。


「……巨大化? 雑魚も良いところだな」


 黒い靄を身にまとった女性の大きさは十メートルを超えており、巨大化した女性を見上げながら伐は呆れたようにため息を吐いた。

 その時、巨大化した女性の腕は伐に向かい振り下ろされる。

 しかし、その腕は伐に触れる事無く、動きを止めた。

 伐の前には目に見えない壁のようなものが張り巡らされているようでそれに気が付いた女性は壁を破壊しようと拳を何度も振り下ろすが壁を殴りつける度に巨大化した腕からは少しずつ黒い靄がはがれて行く。


「いつまで、この茶番に付き合えばいいんだ?」

「な、何?」


 何度も振り下ろされる拳をつまらなさそうに見上げた伐は懐からタバコを取り出してくわえるとオイルライターを取り出す。

 伐はオイルライターのふたを開けると大きな音が響き、その音に妨害されるように振り下ろされる拳が動きを止める。

 拳が止まったのは女性の意図する物ではなかったようで彼女の口からは驚きの声が漏れた。


「……で、お前はここが猫の住処だって知って仕掛けてきたわけか?」


 女性の様子など気にする事はなく、伐はけだるそうに言うとオイルライターでくわえていたタバコに火を点ける。

 オイルライターから上がる火は青白く光っており、その火に同調するように彼女が身体にまとっていた黒い靄は青白く光りを上げて行く。


「どうする? ここで答えるなら、泣かせないでやるぞ。俺は女を泣かせるのはベッドの上だけって決めてるしな」


 伐が口を開いた瞬間に黒い靄は燃え尽きてしまったようで伐の視線の先には女性が座り込んでいる。

 その女性に向かい、伐は力量の差を知れと言いたいようで見下ろして言うと女性は伐の顔を見上げ、それでも自分の負けを認めていないのか彼の顔を睨み付けたのだが、その瞬間に彼女の顔は歪み、胸を手で押さえると地面に倒れ込んだ。

 

「……口封じかよ? 他人の力を見極めようって腹か?」


 女性の心臓は動きを止めたようで伐はその様子に舌打ちをすると動きを止めている人混みの奥へと視線を向ける。

 その視線の先には一人の男性が立っており、伐と視線が交差すると挑発するように笑みを浮かべた後、彼に背を向けて歩き出した。

 伐は男性の様子に足元に転がっている女性がただのコマだと判断したようで彼女を見下ろすとすでに興味が無くなったようで歩き始めると懐から携帯電話を取り出す。

 その瞬間、周囲には色が戻り、地面に倒れ込んでいる女性を見つけた人々が騒ぎ始めるが伐が立ち止まる事はない。


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