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第八話

「……だりい」


 伐は桜華学園に遅い登校をするが、所属クラスや職員室に行く事なく、本来、立ち入り禁止になっている屋上のドアを開く。

 屋上に到着するなり、ネクタイを緩めるとタバコを取り出して口にくわえて火を点けると肺一杯に煙を吸い込んだ。


「……早く来すぎたか?」


 伐が登校したのはクリスの情報収集であり、つまらない授業には興味などなく、時間計算を間違えたと考えたようで眉間にしわを寄せると屋上に寝転がり、空を見上げた。

 空をしばらく見上げているが特に何もする事はないため、もう少し寝ようと考えた時、屋上のドアが開くとガタイの良い男性が屋上に現れ、伐を見つけるなり、険しい表情をして歩いてくる。


「……黒須、珍しく登校していたと思ったら、お前は何をやっているんだ? お前は俺の話を聞いているのか!!」

「この暑いなか大声を上げていると血管が切れるぞ」

「大声を上げさせているのは誰だ!!」


 伐を見下ろした男性は眉間にしわを寄せたまま、彼の行動を責めるが伐は気にする事無く、欠伸をしており、その態度が男性に怒りに火を点けたようでその場には男性の怒声が響く。

 しかし、伐はタイミングを読んでいたようで両耳を両手で塞いでいるが、その彼の行動は男性の怒りをさらに買う事になるが伐が気にする事はない。


「これでも吸って落ち着くか?」

「……教師にタバコを勧める生徒がどこにいる?」

「少なくともここに居るな」


 伐は男性の怒りを収める気はないようで制服からタバコの箱を取り出すと男性へと向ける。

 彼の行動に怒りを通り越して呆れてしまったのか男性は大きく肩を落とすと伐は話をする気になったのか起き上がるとけだるそうに頭をかいた。


「黒須、今日は何しに来たんだ?」

「生徒が学校に来るのはいけねえ事か? 生活指導の都築圭吾先生?」

「……不登校の生徒が登校してくるのは素晴らしい事だが、黒須、お前の場合は違うだろう?」


 男性はもう一度ため息を吐くと伐が登校してきた理由を聞く。

 その質問に伐は口元を小さく緩ませて男性を『都築圭吾つづきけいご』と呼ぶ。

 その名前は昨晩、伐と真の間で出てきた共通の知り合いの名前である。

 圭吾が眉間に深いしわを寄せながら、伐が登校するには何か裏があると考えているようであり、本当の事を言えと彼を睨み付ける。


「そっちこそ、聞きたい事があるんじゃねえのか? どうせ、あいつから連絡が来ているんだろう」

「そうだな……黒須、お前はクリスティーナ=ウェストロードと言う名の女生徒を知っているな?」

「良い肢体カラダしているよな。一晩と言わず、何度でも相手をして欲しいくらいだ」


 伐は圭吾の視線など気にする事無く、昨晩、真に余計な事を言ってしまったと言いたいのかわざと大きな舌打ちをする。

 圭吾は伐に話をするべきか悩みながらも、彼はクリスの名前を出した。

 クリスの名前に伐はとぼけたように言うと圭吾の眉間にはくっきりとしたしわが寄る。


「……黒須、俺はふざけているわけではないんだが」

「俺も別にふざけているわけじゃねえぞ。他の国の血が混じっている分……なあ」

「……その手は止めろ」


 圭吾は茶化すなと言いたいようだが、伐はクリスの身体のラインを表現するように両手を動かす。

 その行動に圭吾は大きく肩を落とすが伐は気にする事無く、タバコの煙を吐き出し、輪っかを作っている。


「知っているも一学年上って事と名前とスリーサイズしか知らねえぞ」

「……お前はそこから離れられないのか?」

「健全な十代男子が興味を引くには充分だろ」


 伐はクリスを家でかくまっている事を話す気などないため、あくまでも彼女の容姿が目立つからだと言う。

 しかし、圭吾は伐を疑っているため、真面目な話をするように言うが伐が気にする事はない。


「……確かにその通りだとしても、お前を健全と言って良いのかどうか?」

「否定はしねえけどな……それで、俺から情報をただで引き出す気なんてずいぶんと良い身分だな?」

「……それが教師に言うセリフか」

「言うね。世の中、情報社会ってヤツだ。欲しい情報を手に入れようとするなら対価が要るんだよ。教育って言うたいそうな物より、これが社会の常識だろ?」


 圭吾は険しい表情のまま、普段の伐の態度から彼を普通の学生として扱って良いのかとつぶやいた。

 その言葉に伐は気分を害する事無く、商談だと言いたいのか小さく口元を緩ませる。

 圭吾は伐の不遜な態度に改めろと言いたいのか大きく肩を落とすが伐はけだるそうに欠伸をしながら、このまま交渉を続けるかと問う。


「……そうだな。黒須、お前はウェストロードに付いて何を知っている?」

「現状で言えば、何も情報はつかんでねえな。ただ、ウェストロード家の娘がいなくなったって話を聞いた。それで上手くやれば良い仕事になると思ったんだよ。それで学校ここでの生活態度とかを調べようと思っただけだ」

「そうか……」


 圭吾は小さく頷くと伐はその言葉を承諾と受け止めたようで口元を緩ませた。

 伐の手のひらで踊らされているとしか思えないようだが、圭吾はクリスの事が心配のようでひねり出すように彼女の事を伐に聞く。

 クリスの状態から、友人知人に彼女を会わせるのは危険と判断している伐はあくまでも金の匂いを嗅ぎつけただけだと言い、圭吾はその言葉が真実か確かめようとしているのか彼の瞳をまっすぐに見つめる。


「……むさ苦しい顔で見られても気持ち悪いだけだ。支払いは身体だと言われても俺にだって選ぶ権利はあるぞ」

「誰がそんな事を言うか……ウェストロードの事が何かわかったら必ず、教えるんだ。良いな?」

「へいへい。今回はまだ何もわかってねえし、成功報酬にしておいてやる。しっかりと貯めておけよ。センセ」


 その視線を伐はけだるそうにため息を吐きながら交わすと立ち上がり、校舎に向けて歩き出す。

 圭吾は大きく肩を落とした後、伐を捕まえようと手を伸ばすが伐は振り返る事無く、その手を交わすと左手をひらひらと振って校舎の中に消えて行く。

 伐が校舎に消えたと同時に授業終了の金が鳴り響いた。


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