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第七話

「……朝? カーテン閉め忘れたかな? あれ? !?」


 窓から朝日が差し込み、クリスの顔を照らした。

 その温かさにクリスは目をゆっくりと開けた後、部屋を見回すが部屋は彼女の住む部屋ではないため、頭が状況を理解しきれないようで首を傾げた時、部屋にいた伐と目が合い、現実に引き戻されたようで飛び起きる。


「……起きたか?」

「な、何をしているの!? ……伐、聞いている? どうして、裸になっているの?」


 クリスが起きた事に気が付いた伐は欠伸をしながら彼女に声をかけるが、彼は着替え中のようで上半身裸であり、彼の姿にクリスは身の危険を感じたのかベッドの隅に逃げる。

 ベッドの隅に逃げた彼女は自分の身を守ろうとしているのか掛け布団で身体を覆い、声を震わせながら、伐に上半身裸の理由を聞く。

 彼女の言葉に伐は興味などないのか気にする事無くクローゼットからワイシャツを取り出しており、完全に無視されているクリスはどうして良いのかわからずに遠慮がちに声をかけた。


「……誰がどう見たって、着替え以外の何物でもないだろ。そんな事まで説明しねえと行けねえのか? バカなのか?」

「着替え中って言うのは見ればわかるよ。そうだけど、どうして、女の子が眠っている隣で裸になれたりするかな? デ、デリカシーとかいろいろとあるよね?」

「ここは誰の部屋だ?」

「……申し訳ありません」


 伐はわざわざ説明させるなと言いたいのか舌打ちをするとクリスはもう少し女の子に配慮をするべきだと頬を膨らませる。

 しかし、彼の部屋を不法に占拠したのは他ならぬ彼女であり、伐の言葉に謝罪すると着替えが終わるまで視線をそらしていようと考えたようで布団をかぶった。

 彼女の様子に伐は気にする事無く、着替えを続けて行く。


「良いぞ」

「う、うん? ……その制服って桜華?」

「見りゃわかるだろ」


 着替え終えた伐は布団にくるまっているクリスを見てため息を吐く。

 声をかけられたクリスは伐が嘘を吐いている可能性も考えているようで警戒するように布団の隙間から彼の様子を覗くとそこには見なれた『私立桜華学園高等部』の制服に着替えた伐が立っている。

 その姿に驚いたクリスは布団を跳ね上げて声を上げると伐はクリスが同じ高校の先輩だと知っていながらもまるで興味がなさそうに言う。


「……同じ高校?」

「そうか。どうする? 一緒に登校するか? 先輩」

「……どうして、女子の制服が出てくるのかな?」


 クリスは伐が自分の身近にいた人間だと知り、反応に困っているようだが伐は気にする事はない。

 伐はクリスをわざとらしく先輩と呼ぶとなぜかクローゼットから桜華学園高等部の女子制服を取り出し、クリスは状況が理解できないようで眉間にしわを寄せた。


「物にはいろいろな使い方があるんだ。安心しろ。今のところ、中身のない物には欲情はしねえよ」

「そ、そう?」


 クリスの反応に伐は今回、女子制服に出番はないと判断したようで制服をクローゼットにしまう。

 彼の言動にクリスは状況が理解しきれないようで顔を引きつらせると伐は一服をしようと思ったのかベッドの隣のイスに腰を下ろしてタバコを口にくわえる。


「見ての通り、俺は少し出てくるが、一人で留守番していられるか? 出来ねえなら、見張りを置いて行くが」

「見張り? ……」

「一人にしておいてここで死なれたら死体の処理に困るだろ。無駄な労力は使いたくねえんだよ」


 タバコの煙をゆっくりと吐き出しながら、伐はクリスに家に居られるかと聞く。

 その言葉にクリスは一人になった時に訪れるであろう恐怖に身を震わせ始める。

 伐は自殺防止だと言いたいようでけだるそうに欠伸をするがクリスは首を横に振った。


「……大丈夫」

「そうか……とりあえず、朝飯でも食うか?」

「朝食? ……朝? 太陽は真上を通り越しているみたいだけど」


 クリスは自殺だけはする気はないようで声を震わせながらも笑顔を作って言う。

 伐は彼女の様子に小さく頷くと立ち上がり、頭をかきながら食事ができるかと聞く。

 返ってきたのは日常とも言える会話であり、クリスの表情は小さく綻ぶが伐の近くにあった時計に目が行ってしまう。

 時計の長針と短針はすでに頂上から降り始めており、朝と言い切れる伐の様子に眉間にしわを寄せた。


「……今から学校に行っても遅刻じゃないの? 確実に絶対に怒られるよ」

「行くだけマシだろ……面倒になったら、途中で引き返してくるかも知れねえけどな」

「そ、そうなんだ……伐って出席日数足りるの? 夏休みが終わってだいぶ、経っているけど」

「夏休みはまだ続いているだろ?」


 クリスは言って良いのか悩みながらも口から疑問を捻り出すが伐は登校するのが面倒だと言いたいのかけだるそうにタバコの煙を吐き出す。

 彼の不遜な態度にクリスは純粋に彼の普段の生活態度が気になるようで遠慮がちに聞くが伐の答えは彼女の予想からかなり外れた言葉であり、呆気にとられて言葉が出てこないのか口をパクパクと動かしている。


「とっくに終わっているよ!?」

「終わったと思ったから、終わるんだ。俺の夏休みはまだ終わっていない」

「かっこよく言っても終わったものは終わっているからね!?」


 ようやく、言葉が出てきたのだがそれは伐へ対するツッコミであるが伐はどうでも良さそうに言う。

 その言葉にクリスはさらにツッコミが入れるが伐は興味がないようでタバコを吹かしている。


「……」

「で、朝飯はどうするんだ?」

「……いただきます」


 ツッコミ疲れたようで肩で息をしているクリスに伐は朝食の有無だけを聞く。

 朝食も食べずに伐に振り回された事にクリスのお腹の虫は小さく悲鳴を上げてしまい、彼女は恥ずかしそうに顔を赤らめる。


「……少し待っていろ」

「う、うん……伐って不思議だね」


 彼女の返事に伐は立ち上がると絞めていたネクタイを緩めて寝室を出て行く。

 クリスは閉まったドアを眺めながら頷くと自分の置かれている状況が非日常だと理解しながらも日常のように扱ってくれる伐と居るとほっとするように少しだけ表情を緩ませる。


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