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第五話

「あ、あの、ごめんなさい」

「……別に気にする必要なねえよ」


 少女は落ち着いたようで目の前の少年の顔を見て謝罪すると少年の腕の中からはい出そうとする。

 その様子の少年は特に気にした様子もなく、イスに座り直すと吸っていたタバコを灰皿に押し付け、新しいタバコを取り出して口にくわえた。


「……あの、何があったか聞かないんですか?」

「話したいなら話せよ。無理に聞く気はねえよ。他人に言いたくない事なんて誰にだってあるからな」


 少年がタバコに火を点ける姿に少女は彼が何も聞かない事に不思議そうに聞く。

 その質問に少年は今、無理に話を聞く事は少女を追い詰める事になると判断しているようで首を横に振ると肺一杯に吸った煙を彼女にかけるように吐き出す。

 煙を吸ってしまいせき込む少女は少年へと非難するような視線を向けるが少年が気にする様子はない。


「年上なんだからもう少し気を使ってくれても良いのに……」

「ここまでやって貰ったヤツが言うセリフか?」

「……ありがとうございます。感謝しています」


 非難の目で見られてもまったく態度を変えない少年の様子に少女は不満げだが、少年は充分に気を使っていると言うと彼女の両足を指差した。

 少女は自分が少年に迷惑をかけている事を理解したようで頭を下げるがどこか納得は言っていないようである。


「後、言っておくが、確認もしてねえのに勝手に年上扱いするんじゃねえ」

「日本人は幼く見えるって言うけど、タバコも吸っているし、お酒も飲んでいるんだから成人しているんでしょ。年上じゃない」

「これは趣味趣向の問題だ。年齢の問題じゃねえな」


 少年は少女が自分の事を年上扱いした事に勝手な推測をするなとため息を吐く。

 少女は少年の様子から年上だと判断したと言うが少年はくだらないと言いたいようでけだるそうにタバコを吹かしている。


「未、未成年なのにダメだよ!?」

「別に誰かに迷惑をかけているわけじゃねえんだ。問題ねえだろ……後、お前はベッドから落ちる趣味でもあるのか?」

「ありません……」


 その言葉で少女は慌てて少年からタバコを取り上げようと身体を伸ばすが、少年は彼女の手を軽くかわすと少女は再び、ベッドから落ちかける。

 その身体を少年はつかみ、ベッドに投げ捨てると呆れたようにため息を吐き、少女は気まずそうに視線をそらす。


「未成年っていう事はいくつ? 十八か十九?」

「何で、二択だ?」

「いや、大人っぽいし、落ち着いているから年上かと……違うの?」


 少年はあまり自分から話さない事もあり、少女はこの空気に少しだけ重圧を感じているようで年齢の話を振る。

 少女は少年の様子に未成年とは言え、年上だと判断していたようで年齢を聞くが少年は眉間にしわを寄せて聞き返し、少女は判断し基準を言うが少年の顔色から自信なさげに言う。


「……十六だ」

「じゅ、十六? ……二年生?」

「一年だ」

「素行の悪さから留年経験あり?」


 少年はタバコを吹かしながら年齢を答えると少女は信じられないようで更なる追求を始め出すが、少年は返事をするのが面倒になってきたようで肯定の時は小さく頷くだけである。


「……と、年下、こんなに落ち着いているのに?」

「性格なんて様々だろ。年齢に起因する物じゃねえな。ガキはいつまで経ってもガキだし、ゆとりはゆとりだろ」

「えーと、その考えはどうなのかな?」


 どうやら、少女は少年より年上のようで信じられないと言いたいのか眉間にしわを寄せた。

 その様子に少年はけだるそうにため息を吐くと年齢なんて些細な事だと言い、少女は苦笑いを浮かべる。


「良い経験も悪い経験も飲み込んで成長するんだ。それを飲め込めないから、現実を知らねえバカが生まれんだよ」

「……悪い経験なんて、飲み込めないよ。な、何するの!?」


 少年は経験から何も学んでいないバカが蔓延っているとため息を吐くと、少女は身体の奥から恐怖が浮かび上がってきたようでその恐怖を押さえつけようと身体を縮ませようとする。

 少女の反応に少年は彼女の中で何が起きているか察したようでタバコを吹かせたまま、彼女の頭の上に手を置いた。

 突然の少年の行動に少女は驚きの声を上げると身体はベッドの上で小さく跳ね、顔を真っ赤にして少年の顔を見上げると少年の口元からは再度、彼女の顔に向かい煙が吹きかけられる。


「……タバコの臭いが髪に付いちゃうよ」

「その辺、全部に付いているんだ。気にする事じゃねえな」

「な、何!?」


 少女はキレイに光る自分の金髪を手ですきながら頬を膨らませた。

 少年はタバコの臭いなど部屋中にしみ込んでいるとため息を吐くと表情が変わる。

 少年の表情の変化に少女は少し驚くと少しだけ少年と距離を取った。


「経験を自分で生かせるようになるには時間がかかるんだよ」

「そうかも知れないけど……この間まで中学生だった人の言葉じゃないよね」


 少年は真剣な表情をして急ぐ必要はないと言うと少女はその言葉に小さく頷く。

 年下の少年が達観した事を言う事に少女は少年が大変な生き方をしてきたと思ったようだが、信じられないようで眉間に深いしわを寄せる。


「悪かったな。そろそろ、寝とけ。俺は事務所にいるから、何かあったら来い」

「う、うん……」

「……何かあったら、この番号に電話をしろ」


 少年はあまり遅くまで少女に話をさせているのも良くないと思ったようで少年はタバコと灰皿を手に寝室を出て行こうとする。

 彼の背中に少女は不安そうな表情をすると少年は振り返るとベッドの側に戻ってきて、手を出すように言う。

 言われるままに少女は手を出すと少年は携帯電話を二台取り出して、そのうちの一台を彼女の手の上に置く。

 状況が理解できない少女の様子を気にする事無く、少年は携帯電話を操作し、少女の持っている携帯電話へと電話をかけた。

 少女の腕の中の携帯電話は小さく震え、少女は慌てて携帯電話を開くがディスプレイには無機質に電話番号だけが表示されるだけである。


「それじゃあ、ゆっくり休めよ」

「う、うん。あ、あの、待って」

「何だ? 一緒に寝て欲しいのか?」


 少年は用が済んだと言いたいようで寝室を出て行こうとすると少女は少年に声をかけた。

 その言葉に少年はけだるそうに振り返ると表情を変える事無く、冗談めかして言う。

 少女は大きく首を横振ると少年は冗談だと言いたいのか小さく口元を緩ませると少女は年下にからかわれているのが悔しいのか小さく口元を緩ませる。


「な、名前を教えて、わ、私はクリスティーナ=ウェストロード。ティ……クリスって呼んで欲しいかな?」

「……伐。黒須伐だ。別に覚えなくても良い」

「……バツか」


 少女は『クリスティーナ=ウェストロード』と自分の名前を名乗ると少年にも名前を教えて欲しいと言う。

 その言葉に少年は『黒須伐くろすばつ』と名乗ると電気を消して寝室を出て行ってしまい、クリスは閉まったドアへと視線を向けながら少年の名前をつぶやいた。


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