第四八話
「……どう言う状況だ?」
かなりの間、気を失っていたようで伐は目を覚ますと眉間にしわを寄せる。
伐は個室病室のベッドに寝かされていたようであり、周囲を確認するとすぐにベッドの隣に置いてあるイスにクリスが座っている事に気づく。
彼女は伐が気を失っていた間、クリスは彼の様子を見ていたようであり、彼が目を覚ます前に体力の限界が来たのかベッドに前のめりに倒れ込んで寝息を立てている。
「……目を覚ましたか?」
「まだ居たのかよ」
「お主は悪態しかつけんのか?」
クリスの様子に伐は面倒だと言いたいのか、けだるそうに頭をかくとクリスの身体から淡い光が飛び出て空中に浮かぶ。
淡い光は広い場所を見つけると白虎の姿に変わり、伐に体調を聞く。
その問いに伐は顔も見たくないと言いたげに手を払い、伐の態度を見た白虎は呆れたようにため息を吐いた。
「どうだって良いだろう……ちっ、タバコがねえ」
「病室は禁煙だからと言って、キツネのような男が炎を放つ物を持って行ったぞ。禁煙と言う物が何かはわからぬが」
「キツネ……あいつが居るのか」
白虎のため息を気にする事無く、伐はタバコを探そうとするが、伐の私服などはまとめられているのだがタバコだけは抜き取られており、不機嫌そうに舌打ちをする。
タバコは誰かの手で持って行かれていたようで白虎は持って行った人間をキツネに似ていたと例え、その例えで伐は白虎が言っているのが真だと思ったようで眉間にしわを寄せた。
「……知り合いか?」
「認めたくないけどな」
「その言い方は酷いね。せっかく、力を失いかけていたノラ猫くんを保護したのに」
彼の反応に白虎は関係性を聞き、伐はもう病院には用がないと言いたいのか私服に着替え出す。
その時、タイミング良く、病室のドアが開き、真が病室に顔を出した。
彼は伐と白虎の話しの内容をまるで知っているかのようにため息交じりで言う。
「……盗撮、盗聴、どっちだ?」
「両方かな? ノラ猫くんが目を覚ますと同時に白猫ちゃんに襲い掛かっても困るからね。それより、そんなに嫌そうな顔をしないでよ。僕達が保護しなかったら、ノラ猫くんはその辺のノラの歪みに食べられていた可能性だってあるんだからさ」
「歪みに食われるって言ったって、守っていたのは警察じゃないだろ」
タイミング良く現れた真にこの病室は監視されていたと伐はすぐに気づき、眉間にしわを寄せた。
真はため息を吐くと懐からタバコの箱を取り出して伐へと向かって放り投げる。
伐は落とす事なく、タバコをキャッチするとすぐにタバコを取り出して口にくわえるとオイルライターでタバコに火を点け、タバコの煙を肺一杯に吸い込むと天井に向かいゆっくりと煙を吐き出して真に恩などないと言い切った。
「ばれている?」
「……警察に対処する力はねえだろ。ずいぶんと義理堅いな」
「何かあると巫女が悲しむからな……それより、起こしてやらなくて良いのか?」
真はわざとらしく言うと伐は白虎がこの場に残っているのは自分が目を覚ます間に歪みが襲ってきた時の事を考えてだとため息を吐く。
彼の言葉に白虎はクリスのためだと言うとベッドに倒れ込み、寝息を立てているクリスへと視線を向ける。
「……別にかまわねえだろ。それより、ずいぶんと金のかかってそうな病室を用意したな。金ならねえぞ」
「お金は問題ないよ。全部、白猫ちゃんの実家持ちだから、後、一応、渡して置いて言うのもなんだけど、病室は禁煙ね」
「あの、ポンコツの兄貴は上手くやったのか? タバコの臭いが付いたってどうにかできるくらいの金はあるだろ……使えねえな」
病室は伐のような庶民が借りられるような物ではなく、伐は入院費用を払う気はないと言い切った。
入院費は伐には関係ない事だと真が答えると黒幕の男性に手のひらの上で踊らされていたライオネルの顔を思い出し、タバコを自由に吸うくらいの恩を売ったと言うと備え付けの冷蔵庫を物色する。
冷蔵庫の中には伐の期待する物はなかったようで伐は舌打ちをすると勢いよく冷蔵庫のドアを閉めた。
大きな音がするが、クリスはよほど疲れているようで目を覚ます事なく、彼女の様子に真は苦笑いを浮かべる。
「起きないね。よほど疲れていたんだね」
「……知るかよ。それでポンコツの兄貴は今、火消しに全力か?」
「そう言うわけでも無いね。流石にここまでの騒ぎになると当主だけじゃなく、他の家にもばれるからね」
真はもう少し伐にクリスの事を気にかけてやるように言うが、伐は興味などないと言いたいのかけだるそうにタバコの煙を吐き出すとライオネルの状況を聞く。
伐の問いに真は言うべきか悩んだそぶりを見せるが、その様子から最初から隠す気はないようで彼の態度に伐は舌打ちをする。
「……白虎が召喚されれば当然か」
「そうなるね。ただ、ここまでの不始末だといろいろと面倒事が多くてね。東や北、南だけじゃなく主家にもばれちゃうだろうし」
「そうなるとポンコツな兄貴は始末されるわけか……」
白虎が現世に召喚された事で他の聖獣が守護している者達にも白虎に気が付いている事に気づき、伐はため息を吐く。
伐のため息を真は肯定するとかなり面倒な事になっているようで困ったように笑った。
権力を持っている者達は邪魔になった存在を殺してしまう事は多々あり、伐はライオネルが殺されてしまうと判断したのか感情を込める事無く言う。
「一応は保留かな? あいつは他の家にもちょっかいをかけているようで他の家にも探られたくない物があったみたいでね。まぁ、次期当主まで操られたのは初めて見たいだからしばらく、発言権は弱くなるんじゃないかな。後、白猫ちゃんには処罰はないよ」
「そうか……」
「ノラ猫くんは優しいね。せめて、白猫ちゃんが起きるまで待ってあげなよ」
ライオネルに白虎を召喚するようにささやいた男性は他にもいろいろな企みを行っていたようでウェストロード家と同等の力を有する者達も探られない物があるようである。
伐は興味なさそうにタバコをふかすが彼の様子に真は口元を緩ませて笑うと伐はもうここには用は無いと言いたいようでけだるそうに欠伸をしながら病室を出て行ってしまう。




