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第四六話

「……」

「良い表情だ」


 部屋に広がる負の感情に伐と男性のやり取りを見ていたライオネルの顔からは血の気が引き始め、耳を両手で塞ぎながら膝から崩れ落ちた。

 その様子を見て男性は楽しそうに笑うと伐へと視線を向けるが、伐は負の感情などで動じるわけもなく、彼の表情に男性はつまらないと言いたげにため息を吐く。


「……我がいる事を忘れてはいないか?」


 男性のため息が耳障りだったのか、白虎はつぶやくと咆哮を上げた。

 その咆哮は歪みを消し飛ばす力があり、黒い靄を溢れ出していたグラスは砕け散り、黒い靄は消し飛ばされてしまう。


「……やれやれ、話し合いの途中で割り込んでくるなよ」

「別に話し合う気なんかねえよ」


 黒い靄が消し飛ばされた様子に男性はわざとらしいくらいに大袈裟に肩を落とす。

 その声と同時に伐は再び、床を蹴ると男性との距離を詰め、右拳を彼の顔面に向かって振り下ろした。

 男性は伐の攻撃を舐めているようで彼の右拳が顔に接触しようとした時、伐の右拳には黒い靄がまとわりつき出す。

 黒い靄にまとわりつかれた伐の右拳の動きは鈍くなるが、伐は気にする事無く、拳を振り下ろした。


「……力づくなんてずいぶんと野蛮じゃないか?」

「気持ち悪い動きをしているんじゃねえよ」


 伐の拳が男性の顔を打ち抜こうとした時、男性の顔だった部分は黒い靄に変わってしまう。

 形の無い靄に変わってしまったため、伐の拳には感触は残らなく、忌々しそうに舌打ちをする。

 男性の顔は伐の手にまとわりついた黒い靄を伝って顔を再形成すると伐の攻撃を非難するように言う。

 目の前に現れた男性の顔を見て、伐は左拳を男性のみぞおちに向かって放つ。


「無駄な事が好きだな」


 しかし、左拳が男性のみぞおちにねじ込まれようとした時、男性の身体は全て黒い靄に変わってしまう。

 黒い靄は伐から距離を取るように移動すると再び、人の形になり、伐の顔を見て無駄な事は止めたらどうだとため息を吐いた。


「……無駄かどうかはやってみないとわかんねえだろ?」


 伐は男性の移動する位置を読んでいたのか、男性の背後からは巨大な顔が現れ、大口を開けて男性へと襲い掛かる。

 巨大な顔は男性を飲み込むと床の下に消えて行こうとするが、完全に消えようとした時に巨大な顔ははじけ飛んでしまう。

 巨大な顔がはじけ飛んだ場所には男性が薄ら笑いを浮かべて立っており、男性の姿に伐は舌打ちをする。


「何だよ。この程度で俺が消せるとでも思っていたのか?」

「……思っているわけがねえだろ。ある程度、力を使って貰わねえとこいつが効かねえからな」


 伐の舌打ちに男性は楽しそうに笑いながら問う。

 その問いに伐も先ほどの攻撃で男性を倒す事はできないと思っていたようであり、小さく首を横に振ると懐からタバコを取り出して口にくわえる。

 伐はオイルライターでタバコに火を点けるとタバコの火は青白い炎を上げた。


「……忌々しい物を持ちだすな」

「そう言うなよ」


 青白く光りをあげる伐のタバコの炎に男性の表情は小さく歪む。

 男性の表情の変化に伐は口元を緩ませると青白い炎が部屋の中にぽつぽつと浮かび上がり始める。

 浮かび上がった青白い炎は男性に向かって襲い掛かり、男性は伐の青白い炎を嫌っているようで表情をしかめながら炎を交わして行く。


「……良くもこの忌々しい炎を身体に馴染ませたものだ。歪みの風上にも置けないな」

「手段を選ばねえのは歪み(俺達)の本質だろ」


 男性は自分に襲い掛かる炎を鬱陶しく思ったようで手を薙ぎ払うように横に動かす。

 その動作は風を起こし、炎は風によりかき消されてしまう。

 炎がかき消されると男性は伐に向かって忌々しそうに言うが、伐は男性の言葉に口元を緩ませると部屋の中には再び、青白い炎が浮かび上がる。


「……馴染ませるのは苦労したか? 歪み(俺達)にとっては毒みたいなものだからな」

「苦労ね……苦労とも思わねえよ。てめえみたいなクズをのさばらせておく方が面倒だからな」


 青白い炎を自在に使う伐の姿に男性は何かあるのか口元を緩ませながら聞く。

 男性の言葉から青白い炎は伐の元々の力とは相反するもののようであり、伐は苦労をした覚えはないと言いたいのかタバコの煙を吐き出しながら言う。


「……俺達から見ればそんな炎を扱うお前の方がクズなんだけどな。まぁ、人を捨てながらも人にしがみつく、お前にとってはそんな物か」

「別にしがみついているつもりはねえよ」


 男性は伐を中途半端だと言いたいのか小バカにするように笑った。

 その言葉を伐は否定すると青白い炎を男性に向けて放つ。

 男性は向かってくる炎を黒い靄に形を変えて交わすと黒い靄はソファーで気を失っているクリスに向かって飛ぶ。

 

「……我の存在を忘れてはいないか?」


 黒い靄がクリスの身体に覆いかぶさろうとした時、クリスの身体は白い光を上げて黒い靄を振り払った。

 それは先ほど白虎が彼女に与えた力であり、白虎は自分を無視して戦闘を繰り広げている伐と男性に向かって重々しい声で言う。


「ああ、忘れていたな。敵対しないといけない歪み相手に腑抜けた事を言っていた聖獣なんて存在価値もないからな」

「ほう……言ってくれる」


 黒い靄は男性の形に戻ると白虎の事など眼中になかったと言いたいのか、口元を緩ませると部屋の中には再び、黒い靄が溢れ出す。

 その言葉に白虎は目つきを鋭くすると咆哮を上げると黒い靄を消し飛ばすだけではなく、男性の身体の左半身を消し飛ばしてしまう。

 左半身を消し飛ばされようと男性は気にする事無く、口元を緩ませており、すぐに残った右半身から黒い靄が溢れ出し、失った半身を作り上げた。


「腐っても聖獣か。少しばかり、見通しが甘かったか……」

「我が貴様らごときに扱えるとでも思ったか」


 男性は作り上げた阪神の動きを確認するように手足を動かすと考えていたより、白虎の力が強力だと言うがたいした問題でもないと思っているようで口元は緩んだままである。

 白虎は男性の不遜な態度と自分を現世に召喚するために策略を巡らせた事に対して怒りを覚えているようで威嚇するように方向を上げた。


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