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第四四話

「……我など相手にする気はないと言いたいのか?」

「相手にする気じゃなくて、相手をしたくねえんだよ。ここでお互いに消耗する理由はねえだろ。聖獣だって言ったって、神が人に使役されるって事だってあるだろ」

「我の力をそこまで削る事ができるとでも言いたげだな」


 伐の言葉は白虎の怒りを誘うが、伐は現状で言えば白虎と戦う理由はないとため息を吐いた。

 白虎はゆっくりと振り返ると伐を睨み付ける。

 伐と白虎の間には緊張感が走るが、伐は戦うのが面倒だと言いたいのかけだるそうに頭をかく。


「何で、好戦的なんだよ。もう少し楽に考えろよ。だいたい、本来、聖獣のあんたが現世に出てくる時期でもねえだろ」

「そう思うなら、我が呼び出される前に終わらせれば良かったのではないか。歪みならば手段などいくらでもあっただろう?」

「仕方ねえだろ。俺の力は傷を癒すのに向かねえんだから、男の身体に傷が残ろうがどうでも良いがあいつはそうもいかねえだろ。後、白虎の力なら膜も回復するんじゃねえか。別に気にするような事でもねえと思うけど、本人が気にしているからな。巫女が必要なら、巫女の身体もいたわってやれよ」


 白虎が現世に現れるには時期があるようで伐は追い払うように手を振った。

 彼の態度からは自分との戦いを本当に望んでいないように見え、白虎は伐の真意を見極めようとしたようで鋭い視線のまま問う。

 突き刺さるような視線を歯牙にもかけず、伐はけだるそうに答える。

 彼が優先したのはクリスの身体の事であり、白虎にも依代になったクリスの事を考えてみろと言う。

 その答えに白虎は感心したように小さく頷くと放っていた圧力を緩める。


「巫女のために我を利用するか。歪みにしては面白い事を言う」

「そうか? 歪み(俺達)は自分勝手でわがままだからな。自分のやりたいようにやるだけだ」

「我には興味がないと言う事か」


 白虎はまだ伐を信用していないのか彼を品定めするように言う。

 伐は興味がないようで欠伸をすると伐にとって白虎は少し気が抜けたようで肩を落とした。


「興味がねえとは言わねえよ。ただ、俺の優先順位は低いな」

「俺は? ……確かに我を使役しようとしていた者はいたな」

「……ぐっ」


 伐はタバコが短くなってきた事に気が付き、タバコを手に取ると懐から携帯灰皿を取り出してタバコを押し付ける。

 白虎は彼の言葉で自分を現世に呼び出した者の事を思いだしたようで壁際まで移動していたライオネルへと視線を向けた。

 その視線にライオネルは威圧されてしまい、後ずさりしようとするがすでに壁際まで移動してしまっている事もあり、すぐに背中が壁にぶつかってしまう。


「あんまり、いじめてやるなよ。人間なんて欲にまみれやすいんだ。それを救い、許してやるのが建て前的には神様の仕事って奴だろ」

「ずいぶんと棘のある言い方だな」

「そりゃ、救って貰えなかった人間の言い分なんて、こんなもんだろ」


 ライオネルの滑稽な姿に伐は口元を緩ませながら、白虎に向かい許してやるように言う。

 しかし、その言葉には棘があり、白虎は不服そうに聞き返す。

 白虎の問いに伐はタバコを吹かしながら嫌味を込めて答える。

 それは助けもなく絶望の中で歪みに堕ちてしまった彼の本心のようにも聞こえるが、事実かは伐本人にしかわからない。


「……それならば、今からでも我の力で救ってやろう」

「あ?」

「巫女にも迷惑をかけてしまったようだ。少しくらい何かしてやらなければ行けまい」


 伐の言葉に何か考える事があったようで白虎は彼を救うと言う。

 その言葉に伐は首を捻ると白虎はソファーの上に寝かされているクリスへと視線を向けた後、真っすぐと彼へと視線を向ける。

 それと同時に伐の身体は淡い光で包まれ始め、伐はその光に白虎が何をする気か理解したようで頭をかいた。


「……余計なお世話だ」

「拒絶するか」

「悪いな。俺は俺が気に入っているんでね。憐れんでもらう筋合いはねえよ」


 伐が口を開くと彼の身体を包んでいた淡い光は弾け飛ぶ。

 その様子に白虎は少しだけ驚いたように言うが、伐は余計なお世話だと言い放つ。


「せっかくの機会を棒に振るか?」

「自分の生き方くらい自分で決める。それに俺はぶち殺さねえといけねえ奴がいるんでな。そのために必要な物を手放すほどバカじゃねえよ」


 神としての救いを拒否した理由を聞く白虎に伐はけだるそうに自分には歪みの力が必要だと答える。

 その言葉に白虎は呆れたと言いたげにため息を吐くと先ほど、伐が弾け飛ばした淡い光が今度は伐の前に集約されて行く。


「……今度は何のつもりだ?」

「今はその気がないのなら、その気になった時の事を考えてやろうと思ってな。受け取れ」

「……必要ねえな。俺に渡すなら、お前を呼び出すためだけに壊された人間にでも使ってやれよ」


 集約されて行く光りに伐は怪訝そうな目をして白虎の真意を確かめるように言う。

 白虎は彼の事が気に入ったようでその力は小さな白い宝石に変わり、白虎は伐に宝石をつかむように指示を出す。

 しかし、伐はその宝石に手を伸ばす事はなく、その宝石を見たライオネルはその宝石に白虎の力が封じ込められていると考えたようで目を光らせた。


「それに関して言えば、巫女に任せよう。失った者はどうしようもないが、壊れた者ならば、どうにかできよう。後はお主が要らないと言うのなら、巫女にでも預けて置こう。気が向いたら人に戻るが良い」

「別に人に戻る必要性は感じねえな。実生活だと人も歪みもあまり変わらねえし」


 ライオネルの視線を無視しながら、白虎は伐の言葉に頷くと伐の前に浮いていた宝石がクリスに向かって飛ぶ。

 宝石は彼女の身体の中に溶け込むと力を馴染ませようとしているのか淡い光がクリスの身体を包み、ライオネルはその様子をじっと見つめている。

 彼はクリスの中に白虎の力が宿った事でどうにか使える方法がないか考え始めたようであり、その姿に伐はどうしようもないと言いたげに頭をかき、白虎はため息を吐いた。


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