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第四話

「……ここ、どこ?」

「……起きていたか。タイミングが良かったな」


 暗闇の中、少女は目を覚ます。

 カーテンの隙間から漏れる月の光に彼女の目には見なれない部屋が映った。

 状況が整理できずに少女は周囲を見回すと突然、ドアが開き、タバコをくわえて缶ビールを片手に持った少年が部屋に入ってくる。

 見知らぬ少年の登場に少女は身体を強張らせるが、身を守ろうとしたのか自分の上にかかっていた掛け布団を引き寄せて少年との距離を取るがすぐに腹の虫が悲鳴を上げてしまう。

 その音は年頃の少女が鳴らすにはかなりいい音をしており、少女は恥ずかしくなったようで引き寄せた掛け布団を頭からかぶった。


「……寝起きにしてはずいぶんと元気だな」

「う……」

「少し待っていな」


 少年は呆れたようにため息を吐くが、少女は恥ずかしいようで掛け布団の隙間から、恨めしそうな視線を向ける。

 その様子に少年は電気を付けて部屋を出て行くとすぐに小さな鍋と食器を運んで戻ってくるが、少女は少年の事を警戒しているのか、先ほどの恥ずかしさからなのか掛け布団から顔を出す事はない。


「……さっさと出て来い。食欲なんて生き物が持つ欲求の最たるものだろ。くだらない事をやっているな。時間の無駄だ」

「そ、そうは言っても、年頃の女の子としては重要な事なんですよ」

「だいたい、恥ずかしがったってもう隅から隅まで見ているんだ。腹の虫くらいでグダグダ言うんじゃねえよ」


 少女が眠っていたベッドの隣には机とイスが置かれており、少年は机の上に鍋を置くとイスに座って鍋からおかゆを盛る。

 少年の言葉に少女は文句が言いたいようだが、状況もつかめていないためか強く出られないようで少年は腹の虫よりも恥ずかしい物を見せて貰ったと小さく口元を緩ませると少女はそこで自分が着替えさせられていた事に気づき、顔をこわばらせると机の上のペン立てにはさみが入っている事に気が付き、自分の身を守る武器にしようとしたのか手を伸ばす。


「で、お前は何がしたいんだ?」

「す、すいません。う、うにゃああぁぁ!?」

「ん? ……仕方ねえな」


 しかし、身体は少女の思い通りに動かなかったようでベッドから落ちそうになり、少年は少女の行動に慌てる事なく、少女を受け止めるがその際にくわえていたタバコから灰が彼女の手に落ちた。

 腕に走る痛みと熱さに少女は声にならない悲鳴を上げるが、少年に支えられている事もあり、身動きが取れない。

 少年は少女の身に起きた小さな不幸に慌てた様子も見せず、彼女を一度、床に下ろすと少女はすぐに腕を冷やしたいのか水を求めて駆け出して行き、少年はけだるそうにため息を吐くと彼女の後を追いかけて行く。


「……赤くはなっているがこれくらいなら痕は残らないだろう」

「あ、ありがとうございます……」

「緊張感がねえな」

「す、すいません」


 少女がシンクを見つけてタバコの灰が落ちた手を冷やしていると少年が追いつき、彼女を事務所に引っ張って行き、火傷の治療をする。

 少女は少年をまだ警戒しているようだが状況が整理できない事もあるのか、恐る恐るお礼を言うが少年からの返事はなく、事務所内は沈黙が広がって行くが再び、少女の腹の虫が悲鳴を上げた。

 その音に少年はタバコの煙を吐き出すと小さく口元を緩ませ、少女は申し訳なくなったようで顔を伏せてしまう。


「ある意味、元気だから問題はないか。毒も薬も入ってねえから、一先ず、飯を食え。せっかく、用意してやったんだからな」

「は、はい!? ちょ、ちょっと待ってください。自分で歩けます!? お、下ろしてください」

「うるせえな。ここでバカやっている間に酒が温くなるだろ。だいたい、その足で歩けるのか?」


 少年は少女に飯を食えと言うと彼女を抱えて寝室に戻って行く。

 少年の突然の行動に少女は驚きの声を上げるが、少年にとって優先事項は缶ビールの冷たさである。

 少女は少年の手の中で暴れているが、少年の言葉で自分の足に視線を移す。

 両足は裸足で街中を走り回った事もあり、ケガをしているようでしっかりと手当てが施されているように見えた。

 先ほどは熱さで駆け出してしまったが、手当てがされている事に気が付くと同時に足の裏には痛みが走り出したようで少女は少年の腕の中で静かになり、素直に運ばれて行く。


「ふぎゅっ!? 何するの。もう少し優しく扱ってよ!?」


 少年は寝室に戻るなり、少女をベッドの上に投げ捨てると続けて先ほどのやり取りで床に落ちてしまった掛け布団を拾い上げて少女に投げつける。

 少女は掛け布団からはい出ると少年の自分への扱いの悪さに声を上げるが、少年は気にする事無く、イスに腰を下ろすと缶ビールに口をつけた。

 少年の様子に少女は不満げだが、腹の虫が食事を要求する力に負け、おずおずと机に置いてあるおかゆへと手を伸ばす。


「……おいしい」

「さっさと食え。冷めるぞ」

「もう少し優しい言葉はないんですか?」


 身体の中に入ってくるおかゆの温かさに彼女なりに張りつめていた緊張感がほどけてしまったようでつぶやくと同時に目から涙が溢れ出る。

 少年はその涙の意味を理解しているのか彼女の瞳に手を伸ばすと指で彼女の涙を拭った。

 その行動に少女は驚き顔を上げるが少年の口からは彼女を慰めるような言葉が出てくる事はなく、少女は不満そうに言うとおかゆを頬張った。


「あの、私はどうしてここに?」

「落ちていたから拾ってきた」

「そ、そうですか。落ちていたんですか……」

「落ち着け、深呼吸しろ。ここにはお前に危害を加える人間はいない。大丈夫だ」


 おかゆを食べ終えた少女は自分がこの場所にいる理由を聞く。

 少年はタバコを吹かしながら簡潔に答えると少女は小さく頷くと記憶が裏路地で気を失う前の事がフラッシュバックしてきたようで顔が青白くなり、小さく身体を震わせ始めると酸素が上手く取り込めないのか息が荒くなり始める。

 その様子に少年は少女に何が起きているかも理解できたようで小さくため息を吐くと彼女の身体を引き寄せ、耳元で声をかける。

 少年の声は目の前で少女が発作を起こしているにも関わらず、妙に落ち着いており、その声に少女は反応するように呼吸は整って行く。


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