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第三八話

「……」


 男性はこと切れたようで前のめりに倒れ込む様子を伐は見下ろす。

 完全に動きを止めているのだが、伐は表情を変える事無く、男性の身体を蹴りあげて仰向けにすると両肘、両ひざを踏みつけて関節を折って行く。


「……行くか」


 両肘、両ひざの関節を折った伐はけだるそうに頭をかくと周囲を見回す。

 彼をここに閉じ込めたと思われた男性を倒したにも関わらず、周囲は闇に包まれたままであり、伐は面倒だと言いたげにため息を吐いた。

 ため息と同時に彼の目の前の空間は歪み始め、人一人が通れそうな穴が開く。

 伐が穴の中に入ると穴は閉じてしまう。


「……ここ、どこ?」


 クリスが目を覚ますとそこは見なれた伐の寝室ではない。

 覚醒しきっていない頭で周囲を見回すがそこは見た事もない部屋であり、自分の両手足は縛られてベッドの上に転がされている事に気づく。

 自分の状況に気が付くと彼女の頭は正確に情報を整理しようと動き始める。

 彼女が乗せられているベッドの周りは裸の男性達がニヤニヤと笑いながら彼女を見下ろしており、その様子にクリスは自分の身にこれから起きる事を理解したようで顔からは血の気が引いて行く。


「ようやく、お目覚めか? お嬢ちゃん、悪いな。目を覚ました時に見た顔がノラ猫(王子様)じゃなくて」

「だ、誰? ば、伐は?」


 顔を青くしているクリスを見て、一人の男性は楽しそうに笑う。

 クリスは顔を青くしながらも男性へと視線を向けた。

 男性は彼女を取り囲んでいる男性達とは違ってスーツ姿であるが、彼は男性達と違って異質の空気を身にまとっているように見える。

 クリスは男性の異質な空気に息を飲むと彼女の反応に男性は口元を緩ませた。


「……出来損ないとは言え、白虎の巫女か」

「白虎の巫女? 何を言っているの?」

「とぼけているってわけでもなさそうだな。ったく、巫女の自覚くらい持たせておけよ。まあ、当主は娘を巫女にする気はなかったって事だろうけどな」


 男性はクリスを白虎の巫女と呼ぶが、クリスは意味がわからずに首を傾げる。

 彼女の反応に男性はわざとらしいくらいのため息を吐くとクリスを巫女として育てていないウェストロード家の当主にがっかりだと言いたげである。


「巫女?」

「本当に何も知らないのか? それなら、一つ、良い事を教えてやる。お嬢ちゃん、あんたに起きた事を計画したのはあんたの実の兄だ」

「お兄ちゃん? 冗談は止めて」


 状況が理解できないクリスの姿に男性は口元を緩ませながら彼女の身を襲った事件の犯人について話す。

 その言葉はクリスにとっては理解しがたい物であり、そんな事はないと彼女は首を横に振った。

 彼女の反応に男性は楽しそうに笑っているがクリスには男性の表情から彼が嘘を吐いているかは読み取れない。


「本当に冗談だと思うか? 巫女は生贄だ。白虎をこの世界に固定するための」

「生贄?」

「そうだ。生贄にするためには心を壊す必要があったからな。足りなかったみたいだけどな」


 クリスの反応を楽しむように男性は笑うと彼女を生贄だと言う。

 兄であるライオネルを信じたいと言う思いでクリスの思考は縛られ始めるが、それをあざ笑うように男性はクリスの耳元でささやく。


「お、お兄ちゃんがそんな事をするはずがない」

「本当にそう思うか? ウェストロード家は大きな力を持つ家だ。力を保持できなければ仲間と考えていた者達からも足を引っ張られて地に落ちる。優しそうな面をしていても後ろから近づいてくる影に怯えていたんだろうな」


 男性の声はクリスの不安をあおるには充分であり、彼女はその言葉を否定するように大きく首を横に振る。

 彼女の反応に男性は喜びを覚えているようで歓喜の声を上げながら言う。

 その言葉は彼女の兄であるライオネルをも小バカにしており、彼女は兄がまだ自分を襲わせた犯人だとは思いたくないようで兄をバカにした男性を睨み付けた。

 彼女の瞳にはライオネルをバカにされた事に対する怒りの炎が灯っているが男性にとっては彼女の怒りの感情はエサにしか過ぎない。


「別に信じないなら、それで構わない。ただ、良い事を教えてやろうか? お嬢ちゃんを保護していてくれたノラ猫も俺と同じ、お兄ちゃんのコマだ。お嬢ちゃんを白虎にささげる準備ができるまで預かっていたんだ」

「伐がコマ? そんなわけない」

「その自信はどこからくる? あいつは闇の中で生きるクズだ。金、女、目的のためなら平気で嘘を吐くぞ。何より、この場所に助けに来ないのが証拠じゃないか?」


 男性は彼女の負の感情をもっと大きくしたいようでクリスが信頼していた伐は自分と同じコマだと嘘を吐く。

 彼の名前にクリスは嘘だと叫ぶと男性は信じるだけの物が伐にあるかと問う。

 クリスはその言葉に不安が頭をよぎったようであり、大切な二人に裏切られたかも知れないと言う思いに心は締付けられ始める。


「……絶対にそんな事はない。伐は助けに来てくれる。だって、守ってくれるって言ったもん」


 それでも信じたくないと思いたいようで彼女は言葉を捻り出すと男性はつまらないと言いたいのか舌打ちをすると彼女から距離を取った。

 その様子にクリスは何があったかわからないようで呆けるものの、すぐにこれから自分の身に起きる事を理解する。

 この身に起きる事に伐に拾われる前に起きた事がフラッシュバックしたのか一気に顔から血の気が引く。

 不安に押しつぶされないように彼と交わした約束を口に出すと首元に彼から渡された黒猫の首飾りが見えるが恐怖を振り払うには足りないようで彼女は身体を震わせる。

 彼女の表情の変化に男性は満足げな笑みを浮かべると首でクリスを囲んでいた男性達に指示を出す。

 男性達は許しを得た事に待っていたと言いたいのか歓喜の声を上げてクリスの身体へと手を伸ばし始める。


「……伐、助けて」


 クリスは迫ってくる男性達の手に恐怖で顔を歪ませながらも伐の名前を呼ぶ。

 その声に返事などなく、クリスが襲われる姿を見て男性は歓喜の声を上げるが、男性の手がクリスに触れようとした時、黒猫の首飾りが光を放った。


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