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第三十話

(……あいつはどこに行った? 帰ったか? あいつは少し静かに出来ねえのか?)


 伐は風呂から上がると上半身裸で頭をバスタオルで拭きながらキッチンに移動すると汗を引かせたいのか窓を開ける。

 外はまだ暗いが雨は上がっているようで伐は忌々しそうに舌打ちをすると冷蔵庫から缶ビールを取り出すとイスに腰を下ろす。

 缶ビールを開けると雪の騒いでいる声が無くなっているためクリスが彼女を寝室に招き入れたのか、帰宅したと考えたようで雪の行動に迷惑だと言いたいのか小さくため息を吐いた。


「ば、伐? な、なんで、服を着て無いの!?」

「あ? 別にどうだって良いだろ。さっさと寝ろって言っただろ」


 その時、クリスがキッチンを覗き、伐へと駆け寄ろうとするが彼の格好に顔を真っ赤にして廊下に戻ってしまう。

 伐は背中越しに聞こえた彼女の声に振り返る事はなく、クリスは廊下から顔を出すと頬を膨らませた後、寝室へ行って伐のシャツを取ってきたようでテーブルの上に置いた。

 そのシャツに伐は一度視線を向ける物の汗が引いていないためか着る気はないようでビールを飲んでおり、クリスは諦めたのか伐の前のイスに腰を下ろす。


「何だよ?」

「もう少し、気を使ってくれても良いと思う」


 クリスは伐がシャツを着てくれない事に不満げであり、彼女の表情に伐は舌打ちをする。

 その様子にクリスは頬を膨らませて反論しようとするが伐に言っても無駄だと言う事も理解しているようで小さく肩を落とした。


「……あいつはどうした?」

「雪さん? 雪さんは伐がお風呂に行ってから、しばらくしたら近江さんから電話がかかってきて帰ったよ。どうして、舌打ちをするの?」


 クリス一人がキッチンに現れた事に伐は怪訝そうな表情で聞く。

 真が迎えに来たと聞き、彼が時間つぶしのために路地裏の空き地に来たと予想が付いたようで伐は舌打ちをする。

 舌打ちの意味がわからないクリスは首を傾げるが伐は彼女の疑問に答える事なく、立ち上がると冷蔵庫から二本目の缶ビールを取り出す。


「……伐、やっぱり、怒っている?」

「怒られるような事をした自覚があるなら、余計な事に首を突っ込むんじゃねえよ」

「ごめんなさい」


 伐の機嫌が悪そうにクリスの目には映るようであり、不安そうな表情をして聞く。

 帰ってきた時の雪の言葉で伐は二人が何を話していたか予想はついているようで舌打ちをするとクリスは身体を小さく縮めて頭を下げる。


「……何だよ?」

「えーと、何かないのかな? と思って」


 謝っては見たものの、伐から許すと言う返事はなく、クリスはしばらくすると顔を上げて伐の言葉を待つ。

 しかし、伐は用件が済んだなら寝室に戻れと言いたげであり、クリスは反応に困ったのか苦笑いを浮かべる。


「別に何もねえな」

「そうなの?」

「他人の過去に首を突っ込むような人間だった。それだけだろ」

「……怒っているじゃない」


 特にないと言い切る伐の姿にクリスは安心したのかほっと胸をなで下ろすが、伐はクリスへと冷たい視線を向けて淡々とした口調で言う。

 彼の淡々とした言葉は今のクリスには責められている気しかしないようで大きく肩を落とした。


「だいたい、聞いたと言っても、雪さん、冗談ばかりだったし。あんまり、有意義な情報は聞けなかったんだよ」

「……まずは他人の過去に首を突っ込んだ事を反省しろよ」

「私が真剣に話を聞いているのに、伐が霊能力者とか冗談ばかりなんだよ!!」


 クリスは半ば逆切れのような形で自分の欲しかった伐の話は聞けなかったと頬を膨らませる。

 彼女の態度に呆れ顔で伐は自分の行動を恥じろと言うが、雪が伐は霊能力者だと冗談を言ったのが許せないとクリスはテーブルを叩く。

 テーブルが叩かれた事で置いてあった缶ビールが倒れそうになるが、伐は焦る事無く、缶ビールをつかむと口元に運ぶ。


「……冗談だと決めつけるだけの確証が、お前にはあるのか?」

「確証って誰が考えたっておかしいでしょ。鉄の塊が空を飛び、月にだって行く時代だよ」

「……表現が古いな」


 ビールを一口飲んだ伐はクリスに質問を投げかける。

 その質問にクリスは信じられるわけないと頬を膨らませ、伐は缶ビールを手にするとイスから立ち上がると、冷蔵庫から三本目の缶ビールを取り出してキッチンを出て行く。

 クリスは伐に逃げられると思ったようで急いで立ち上がると彼の後を追いかける。

 背中越しに伝わる彼女の気配に伐は小さくため息を吐くと事務所に向かって歩き出す。


「……噂話って物は自分で検証して初めて信じるかどうかを判断するものだぞ」

「そうかも知れないけど……普通は信じられないでしょ」


 部屋の中央にあるソファーに腰を下ろした伐はテーブルに置いてあったタバコの箱を手に取ると一本取り出して口にくわえる。

 クリスは彼の向かい側のソファーに腰を下ろすと彼女へと伐は視線を一度向けた後、オイルライターでタバコに火を点け、肺一杯に煙を吸い込んみ、ゆっくりと煙を吐き出しながら真実は自分で見極めろと言う。

 彼の言いたい事もクリスは理解できるようだが、彼女は心霊現象な物は体験した事なく、信じられないと首を横に振った。


「……普通って言い切るのは逃げているのと変わらねえよ」

「手品? 凄いね。伐」


 くわえていたタバコを伐は手に取ると先端をクリスに向ける。

 最初は赤く灯っていた火が、徐々に青白い光に変わって行く。

 その様子は現実的にはあり得ない物なのだが、伐の手先が器用な事をクリスは知っているため、手品だと結論付けたようで驚きの声を上げて手を叩いた。


「……これくらいなら、この程度の反応か」

「手品を見せて、霊能力って言うのは詐欺師と変わらないよ。伐は詐欺師っぽいけど」

「……詐欺師ね。別に否定はしねえよ。だます人間が悪いって言うヤツもいるが、俺から言わせて貰えばだまされる人間が悪いんだ。だまされるってのは楽で良いからな。そして、自分が可哀そうだって悲劇のヒロインやヒーローを演じたがるんだ」


 彼女の反応に小さくため息を吐いた伐はタバコを口元に戻してソファーの背もたれに身体を預ける。

 手品で霊能力者と信じ込ませるのは弱いと言いたいのか、クリスは大きく肩を落とした後、伐は詐欺師の方があっていると言う。

 詐欺師とたとえられようが伐は気にする気はないようで天井に向かって伐はタバコの煙を吐き出すとだまされた人間をバカにするように口元を緩ませる。


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