第三話
「……」
少年は少女を自分の住処に連れ帰った。
入り口を開けると事務所のようになっており、少年は少女を部屋の中央にあるソファーに下ろすと少女の身体にかけていた上着を剥ぎ、ごみ山に埋もれて汚れきった身体を眺める。
少女はその美しい金色の髪から見て取れるように外国の血が入っているようでその肌は白く美しいが彼女の身体にはすぐに見て取れるほどの性的な乱暴された形跡やドラッグを打たれた跡が見られ、少年は小さく眉をひそめるが少女をそのままにしているわけにもいかないと思ったのか部屋を出て行く。
しばらくした後、少年はお湯で満たされているのか湯気を上げた洗面器とともにタオルを持って戻ってくるとタオルをお湯に浸した後、硬く絞り、少女の身体から汚れを落として行く。
何度か少女の身体を拭いた後、少年は彼女に服を着せると彼女を寝室にあるベッドに寝かせて事務所に戻り、そこにあったパソコンの電源を入れる。
パソコンが立ち上がる様子を眺めながら、少年は懐に手を伸ばすがタバコの箱は空であり、舌打ちをすると空箱を握り潰すと近くにあったゴミ箱に投げ捨てた。
タバコの空箱は曲線を描き、ごみ箱の中心に収まるが少年は興味などないようで立ち上がるとそばにある棚からタバコの箱を持ってきてフィルムを剥がす。
タバコをくわえてオイルライターで火を点けると少年は肺一杯に煙を吸い込んだ。
染み渡るタバコの煙に少年はわずかに表情を緩ませた後、パソコンにUSBを差し込む。
USBから引き出されて行く情報は先ほど、男性に連れて行かれた先での依頼の詳細が書かれており、少年は肺にたまった煙をゆっくりと吐き出すとディスプレイへと視線を移す。
「……知っている顔もあるな。この辺は関係なさそうだな」
依頼内容は近隣で発生している少女達の失踪事件の調査であり、依頼人もすでにいくつの情報を集めているようで失踪した少女の顔写真や住所などが記載されている。
少年には失踪している人間の中に顔見知りがいるようで、その人間達の行動範囲から失踪事件とは関係なさそうな少女のデータを整理して行く。
「……あの女のデータはねえな。同じ事件とは限らないから仕方ねえか」
失踪事件の被害者と考えられる人間の選別を終えた少年は被害者の中に拾ってきた少女の顔がない事に気づき、小さく声を漏らす。
少女の様子からはどこかに監禁されていた事は明白であり、少年は彼女も失踪事件の被害者だと判断していたようで切り替えるように別の事件の可能性をつぶやく。
「……流石に多すぎるな。後は依頼人の娘は遊びまわっているだけだろ」
少年が失踪事件の被害者と判断した人数はかなりの数であり、少年は眉間にしわを寄せた。
依頼を出した人間が探している少女は今回の失踪事件とは関係がなさそうであり、少年は呆れたようにため息を吐くと携帯電話を取り出し、アドレスから『近江真』と言う名を選ぶ。
「ノラ猫くん、こんな時間にどうしたのかな?」
「……うるせえ」
「こんな時間に電話なんて、何かわかったのかな?」
その名前は先ほど少年を依頼主の下に届けた男性の名前であり、すぐに電話の先から声が帰ってくる。
声のテンションについて行けないと言いたいのか少年は舌打ちをするが真は電話の意味を察したようで状況を確認するように聞く。
「失踪事件とは関係ないの?」
「……可能性は低い。だいたい、ここまで調べているんなら居場所も見つけ出せよ。役に立たねえな」
「それは悪かったね。警察もそれなりに頑張っているんだよ。ただ、今回は時間がなくて圧力が強くてね」
少年は目的の少女は依頼主が心配している失踪事件とは関係ないと説明すると真は不思議そうに聞き返す。
男性は警察関係者だったようで少年は舌打ちをすると真は自分達だって頑張っていると言いたいようで大きなため息を吐いた。
「そんなもんは俺の知った事じゃねえよ」
「そうだね。とりあえず、この場所を探せば良いのかい? しかし、ずいぶんと……」
少年は警察の能力など知った事ではないと言いたいのか、ため息を吐くとパソコンのキーボードを叩き、メールを送信する。
メールは依頼主の娘の良く立ち寄る男性の住所が地図付きで書かれている。
その場所は十カ所を超えており、真は娘の交友関係に頭が痛くなってきたようで大きなため息を吐くが依頼人への配慮なのか思った言葉を飲み込む。
「それじゃあ、ターゲットが見つかったら一先ず、お金を振り込ませるよ」
「一先ず?」
「この件以外にも失踪事件は継続中なんだよ。受けた依頼は最後までが大和の教えだよね。ノラ猫くん」
真は少女を確保した後、依頼料を振り込む事を約束するが、彼の言葉に少年は疑問を覚えたようで聞き返す。
その疑問に真は電話先で楽しそうに笑っているのがわかり、少年は舌打ちをする。
「……わかった。その代り、聞きたい事がある」
「何だい? 珍しいね」
「この被害者候補は失踪届けがあったものか?」
少年は忌々しそうに頷くと交換条件を出すと言う。
真は少年の言葉に違和感を覚えながらも交換条件の内容を聞こうとする。
リストアップされた被害者候補を選出した理由を聞く。
「そうだけど、どうかしたかい?」
「そうか……それなら良い」
真が肯定すると少年は必要な質問を終えたようで電話を切り、短くなってきたタバコを灰皿に押し付ける。
電話を切られた事への抗議なのか少年の開いていたメール画面の受信ボックスにはメールが届くが少年は興味がないようでメールを閉じると新しいタバコを口にくわえて火を点け、煙を肺一杯に吸い込んだ。
「家庭環境はいろいろだからな。まだ、届けられていない可能性もあるが……同一事件とは限らねえからな。目を覚ましてから話を聞くしかねえか。後は仕掛けた物から情報が引き出せれば御の字か?」
部屋に寝かせている少女が今回の失踪事件の被害者なら何か知っている可能性も充分に考えられるため、少年はタバコの煙を吐き出すと情報収集の方法をまとめて行く。
しかし、情報を得る事ができる確証がないためか、面倒だと言いたいようで忌々しそうに舌打ちをする。
「仮にあの女が逃げてきた先がこの失踪者達と同じ場所なら面倒な事になるな。逃がした奴らは相当抜けているが、この人数を監禁しているとなると場所の確保にもずいぶんと金が出ているだろうな。面倒な事にならなければ良いが……どうせ、面倒事なんだ。考えても仕方ねえか」
拾ってきた少女の状態から少女達をさらっている者がいるなら、それらはかなり大きな組織がかかわっている可能性も考えられるため、少年の表情は険しい物になって行くが少年はすぐに考えるのを止めたようでどうでも良いと言いたげに頭をかいた後にパソコンの電源を落とす。
「ただ、この街では薬はご法度だって事を知らねえバカが増えてきたって事はわかるからな。しっかりとしたお仕置きは必要だな」
少年は少女の腕にあった注射の跡に彼女を監禁していた人間に制裁を加えなければ行けないと考えたようで楽しそうに口元を緩ませた後、タバコをくわえたまま事務所を出てキッチンに移動する。
「……一先ずは簡単な物でも作っておくか?」
キッチンに付くと冷蔵庫から缶ビールを取り出して口を付けると酒だけだと味気ないと考えたのか、手際よくつまみを作り始めるが、少女が目を覚ました時に空腹の可能性を考えたようでけだるそうにため息を吐くと食事の準備を始めて行く。