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第二八話

「ただ、大切だったのは確かかな。大切な恩人で友人。あいつが居なかったら、私はきっと、今、ここにはいなかっただろうし」

「……」

「あれよ。クリスちゃんは自分と私を重ねたらダメよ。私とクリスちゃんは別だし、伐と大和も違うんだから、話は聞いても経験談や体験談として割り切ってね」


 雪は大和が自分を助けてくれた事への感謝を忘れてはいけないと思っているようであり、彼女の表情になんと声をかけて良いのかわからないようでクリスは目を伏せてしまう。

 彼女の様子に雪は明るい表情を作ると似た出来事が起きたとしても自分と誰かを重ねて見てはいけないと釘を刺す。

 クリスは簡単に割り切れるとなどは思っていないようだが、彼女が見せてくれる強さは自分も持たなければいけない物だと理解はできているようで不安げではあるが雪の顔をまっすぐに見て頷いた。


「よろしい。それじゃあ、伐の過去の話しだったわね。あいつ、父親に捨てられたのよ。これもまあ、良くある話なんだけどね」

「お父さんに捨てられた?」

「そ、ちなみにお母さんについてはわからない。伐は話したがらなかったし、ただ、一緒には住んでなかったみたいよ。死んだか、父親より先に伐を捨てて行ったかってところね」


 彼女の中に現実と向き合える強さがあるように見えたのか雪は笑顔を見せた後、軽い口調で伐が父親に捨てられた事を話す。

 伐が家族と暮らしていない事は彼との生活で理解していたクリスだが、家族と不仲程度でしか考えていなかったようで信じられないと言った表情をする。

 母親の事は雪にもわからないようで苦笑いを浮かべるが伐の日頃の様子から見れば、疎遠になっていると言う事は簡単に予想が付く。


「そうなんですか? ……伐は辛くないのかな?」

「どうかな? あまり、その辺は考えてないんじゃない? そう言う事は簡単に割り切れそうだし、あいつはどこか現実って物を冷めた目で見ているから」

「冷めた目ですか……そう言うところも猫みたいですよね」


 伐の家族関係にクリスは自分の家族の事を思いだしたようで自分と伐との違いを考えてしまったようで彼の気持ちを考えて悲しそうにつぶやく。

 雪の目に映る伐は家族の事などまったく気にしていないようであり、彼女はもう少し弱さを見せた方が良いと言いたいのかわざとらしいくらいの大きなため息を吐いた。

 彼女の言葉には伐に可哀想と言うのは厳禁と言う意味が込められており、それに気が付いたクリスは話を少し変えようと考えたのか小さく笑みを浮かべる。


「そうね。それも猫みたいね」

「ですよね」

「クリスちゃん、頼もしいわ」


 クリスの言葉に雪は笑みを浮かべると二人は顔を見合わせて笑う。

 彼女が気を使っている様子に雪はクリスの頭の回転の速さに気が付いたようで雪は感心したように頷いた。


「どうかしましたか?」

「クリスちゃんが状況整理を上手くできるようになってくると伐の居場所も危ないかもね」

「へ?」

「だって、まこちゃんいわく、クリスちゃんは子猫ちゃんだから、子猫は成長したら当たり前だけど猫になるのよね。可愛い、可愛い白猫になりそうね。この場に大和が居たら同じ事を言うと思うな」


 クリスは雪の様子にまた彼女が何かおかしな事を考え始めたと思ったようで怪訝そうな表情をすると雪はクリスがいつか伐の居場所を脅かすのではないかと笑う。

 意味がわからずにきょとんとした表情をするクリスに雪は大和に彼女を見せてあげたかったと言うが、クリスは雪の言いたい事が理解できないようで首を傾げている。


「えーと?」

「気にしない、気にしない。大和が調べた事だけど、伐の父親は夏休みの間に伐を置いて蒸発してしまったのね。結構、借金も抱えていたみたい」

「あれ? 伐が大和さんに保護されたのって秋が終わる頃って」


 雪は独り言だと言いたいのか笑って誤魔化すと伐の過去の話に戻ろうとする。

 伐の父親が借金を抱えて蒸発した話と彼が大和に保護された時期には開きがあり、クリスは疑問に思ったようで首を捻った。


「そうね。少し時間があるわね。でも、それが大和が伐を拾うきっかけだったのよ。クリスちゃんもこの辺に住んでいたなら、三年前は中学生でしょ。それなら、こんな噂を聞いた事は無いかな? 三年前の夏くらいに一時的に出た噂なんだけど」

「噂ですか? どんな噂ですか?」

「……夜の街には人を喰らう化け猫が出るって」


 雪はイタズラな笑みを浮かべるとクリスに一昔前に流行った噂について聞く。

 質問の意味がわからずに首を傾げるクリスに雪は真剣な表情をすると化け猫が出たと言うバカらしいとも思えるような話をする。


「化け猫? そんなこんな時代に」

「クリスちゃんはこう言う話は信じない?」

「あまり、体験した事もないですし、幽霊やお化けと言うのを見たら、信じるかも知れないです」


 現実からかけ離れた話にクリスはふざけないで下さいと言いたげにため息を吐いた。

 彼女の反応は予想内だったようで雪は苦笑いを浮かべて聞き返すとクリスは現実的に信じるのは難しいと首を横に振る。


「そうか。信じられないか。でもね……伐の側にいると絶対にそう言う人以外の存在ものがこの世界にいるって信じるようになるよ」

「……雪さん、雪さんは伐の話をしてくれるんじゃなかったんですか?」


 雪はうんうんと頷いた後にクリスを怖がらせようとしているようで口元を緩ませて言うが、クリスはまったく信じていないようで呆れ顔でため息を吐いた。


「少しは信じてよ。学生ってこう言う噂話も好きなんじゃないの?」

「それは好きな子もいたかも知れないですけど、怖い話よりはやっぱり、恋愛とかファッションとかの話の方が多いですよ」

「それはそうね……いつの時代もそう言うところは変わらないわね」


 彼女の反応に雪はつまらないと言いたげに頬を膨らませるが、クリスはそんな噂話より、伐の過去が気になると彼女を急かす。

 女子中学生の話題はいつの時代も変わらないと雪は自分が中学生の時代を思いだしたようで少し遠い目をして言うとクリスはなんと言って良いのかわからないようで苦笑いを浮かべた。


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