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第二七話

「……結局、雨か。ずいぶんと嫌われたもんだな」


 伐はタバコをふかしながら、コンビニの袋を手に提げて、クリスを拾った路地裏の空き地へと足を運んだ。

 先ほどまでは星空が出ていたにも関わらず、伐がこの場所に訪れると雨雲が月と星を隠し始め、空からは大粒の雨が落ち始める。

 その様子に自虐的な笑みを浮かべる伐だが、すぐに帰る気などないようで空き地の一画へと歩くとコンビニの袋からカップ酒を取り出して地面に無造作にかけて行く。

 雨と酒で地面は見る見る間に濡れて行くが、その様子を伐は特に感情を込めるまでもなく、冷めた目をしながらも胸の前で十字を切った。

 彼の普段の様子からは神や死後の世界など信じているようには見えないが、彼は定期的にこの場所で祈りをささげている。

 それはこの場に眠る恩人への手向けであり、日常的な行為である。


「雨の中、ご苦労様、ノラ猫くん」

「……」

「無視は酷いよ。大和、聞いてよ。ノラ猫くんに良い人ができたんだよ」


 そんな彼の背後から、無駄に明るい真の声が響く。

 伐はその声に反応する事はなく、彼の態度の真は不満げな声を上げるがそれほど気にしてもいないのか、伐の隣に移動すると適当な言い方でクリスの事を説明する。


「……お前は何を言っているんだ?」

「反応してくれた。でも、冗談って言えないくらいに入れ込んでいるじゃないか」


 彼の言葉に伐は訂正しろと言いたげに睨み付けるが真は気にする事無く笑っている。

 その様子に伐は舌打ちをすると真と一緒にこの場所にいる気はないようで踵を返すと路地裏に消えて行ってしまう。


「嫌われちゃったね。もう少し冗談も笑って流せるようになれば良いのに……ノラ猫くんの過去を考えれば仕方ない事なんだけどね。大和ももう少し、その辺を上手く教えてくれれば良かったのに、まあ、大和もノラ猫くんと似たような生き方(感じ)だったから、仕方ないかな。どうして、時代は繰り返すのかな?」


 伐の背中を見て、真は小さくため息を吐くと彼の事を心配しているようで困ったように頭をかいた。









「どこから話したら良いかな?」


 警戒しているクリスの顔に雪は苦笑いを浮かべると話し始めを考え始める。

 その様子にクリスは待ち遠しいようでそわそわとしながら待っており、ちらちらと雪の顔へと視線を向けている。


「そうだね。やっぱり、伐がここに居着いた時の事だよね」

「は、はい。お願いします」


 雪は伐がこの場所に住むきっかけになった時の話をしようと思ったようで小さく頷くとクリスは待ちきれないようで身を乗り出した。


「……あれは三年前の秋が終わる頃だったわ。さっきも言った通り、大和が伐を拾ってきたのよ」

「はい……あ、あの、大和さんって」

「そっか。先に大和の事を話さないとダメね。大和は元々のこの事務所の持ち主ね」


 当時の事を思い出しながら、雪はゆっくりと口を開くが、クリスは何度も出てくる大和と言う人物が気になったようで遠慮がちに手を上げる。

 彼女に言われて雪は大和の事を話さないと始まらないと思い、自分の話し出しの悪さに苦笑いを浮かべるとシンクへと視線を移して、その視線はどこか寂し気であり、クリスはなんと言葉をかけてわからないようで視線をそらしてしまう。


「ごめん。ごめん。蓮見大和はすみやまとって言うんだけど、ここを本拠地にして何でも屋って言う胡散臭い事をやっていたのよ。この街での揉め事に顔を出して場を収めてみたり、人探したりとかいろいろと興信所とか探偵とかって感じね」

「探偵?」

「そう。そのせいで警察のまこちゃんや学校の先生のけーごと知り合ったみたいよ」


 クリスの視線に気が付いた雪は笑顔を作ると大和がこの街で探偵業をしていた事や真や圭吾と友人関係だった事を話す。

 ここに保護されてから聞く圭吾が自分の学校で生活指導の教師をしている都築圭吾と同一人物だと言う事はクリスも気が付いているようでどこか納得したように頷いた。


「この街の面倒事の情報はすべて大和の耳に入る。この街を住処にして生きる黒猫。それが蓮見大和」

「黒猫? そして、伐がノラ猫?」

「うん。この街には猫と呼ばれる人間が昔から住んでいたらしいの。大和も受け継いだものって笑っていたわ。誰から受け継いだかは教えてくれなかったけどね。クリスちゃんには興味がない話ね」


 伐を『ノラ猫』と真が呼ぶ理由が大和と言う人物から来ていると聞き、クリスは聞き入るように身体を前に乗り出す。

 彼女の様子に雪は苦笑いを浮かべると猫がいつからこの街にいるかわからないと首を横に振るが伐の事だけが知りたいクリスには関係ない話だと言う。


「そ、そんな事はありませんよ」

「隠さなくても良いって、それにいない人の話をするのもね。いろいろと思い出しちゃうし」

「あ、あの、聞きにくい事を聞いても良いですか?」


 クリスは首を大きく横に振ると雪はくすくすと笑う。

 大和の話になると表情を曇らせる雪の姿にクリスは遠慮しているようだが、確認しておいた方が良いと思ったようで口を開く。


「ご察しの通り、死んじゃった。伐をかばってね。だから、伐はあの場所から……違うわね。この掃き溜め(ここ)から動けないのかな?」

「……あ、あの。雪さんは伐を恨んでないんですか? 大和さんって、雪さんの大切な男性ひとだったんですよね?」


 大和の死が伐をこの街に縛り付けていると考えているようで雪は少し寂しげに笑う。

 クリスは自分を落ち着かせようと小さく深呼吸をした後に雪と大和の関係性を尋ねる。


「大切な男性? ……どうかな? 大和は確かに良い男だったけど、そう言うのとは違うのよね」

「そ、そうなんですか?」

「だって、あいつは息をするかのように他の女と関係を結ぶのよ。そんな人間に恋愛感情は抱かないわね」


 クリスの質問に雪は眉間に深いしわを寄せて考え込むが、どうやら友人としては大切だったようだが恋愛対象としては何とも思っていなかったようで首を捻った。

 予想とは違った答えにクリスは首を捻ると大和が女癖がかなり悪かったようで雪は大きく肩を落とす。


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