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第二六話

「クリスちゃん、カップ麺、伸びちゃうよ。食べないの?」

「た、食べます……あ、あの、雪さん、意地悪しないでください」


 雪はクリスの反応を見るのが楽しいようで簡単に話す気はないのかからかうように笑う。

 完全に雪に遊ばれているため、クリスは肩を落とすが彼女の明るさに助けられている部分もあるようで何も言えないのかカップ麺を口に運ぶ。

 彼女の様子を見て雪は楽しそうに笑っており、クリスは非難するような視線を向ける。


「昔話だからね。話し始めると少し長くなっちゃうから、高くない物だとしても伸ばして捨てちゃったら、もったいないでしょ。世界にはこんな物も食べられない人達だっているんだし」

「そうですね。もったいないですよね。でも……伐が戻ってくるときっと聞けないだろうし」


 意地悪している自覚はあるようで雪は苦笑いを浮かべると自分のカップ麺を口に運ぶ。

 クリスは雪が夕飯を食べていないと来ているためか、しぶしぶ、頷くがキッチンに伐が戻ってきた時に彼から軽蔑されるような気がしたようで表情は不安そうに変わって行く。


「それなら、大丈夫よ。伐は今、出かけているから」

「出かけている? どうして、わかるんですか?」

「だって、雨が降っているし」


 彼女の表情の変化に雪は心配ないと笑う。

 伐が出かけてしまっていると聞き、彼女の表情は少しだけ晴れるが根拠などなく、クリスは聞き返す。

 雪はイスから立ち上がると窓を開ける。

 窓を開けると雨の匂いとともに雨がアスファルトを強く打ちつけている音が聞こえた。


「雨が降っているから、伐が家にいないってどういう事ですか?」

「迷信で猫が顔を洗うと雨が降るって言うでしょ。同じようにここの猫()がある場所に行くと必ず、雨が降るのよね……きっと、伐が泣かないから、代わりに空が泣いてくれているのかな?」


 雨が降ると伐が家にいない理由にはならないと考えたようで首を捻る。

 雪はその言葉に苦笑いを浮かべると窓から身体を乗り出して、闇に染まった街並みを覗き込むと少しだけ寂しそうにつぶやいた。

 そのつぶやきはクリスの耳にもしっかりと届いており、クリスは追及して良い雰囲気ではないため、息を飲んでしまう。


「さてと、クリスちゃん、早く食べないと伐が帰ってきちゃうよ。帰ってきたら、クリスちゃんが心配していた通り、冷たい目で……いや、それをも通り越して追い出されるかも、あいつにとって過去は捨て去りたいものだから」

「……私、聞いても良いんですか? 追い出されたら……どこにも行くところが」

「冗談、冗談よ。伐はクリスちゃんを追い出したりしないから……ごめんね。私もクリスちゃんの辛さはわかっているのに配慮が足りなかったわ」


 雪は笑顔を作ると明るい声でクリスをからかうように言う。

 その言葉は今のクリスには何よりも怖い事であり、クリスは顔を青くして身体を震わせ始める。

 彼女の様子は見るからに弱々しく、雪は自分が禁句を言ってしまった事に気が付き、彼女の横に移動すると安心するようにと肩を抱く。

 人の温かさにクリスは少しずつ、顔は赤らんで行き、その様子に雪は配慮が足りなかった事を詫びる。


「あ、あの」

「私もクリスちゃんと同じ……いろいろ、あってボロボロになっている時に大和に拾われたんだ」


 彼女の言葉にクリスも雪の過去に何があったか察してしまったようでなんと声をかけて良いかわからずに言葉を詰まらせた。

 雪は自分の過去の事をすべてのみ込んでいると言いたいようで笑顔を見せるが、その表情はわずかに歪んでおり、クリスは彼女の服をぎゅっと握りしめると無理をしなくて良いと首を横に振る。

 しかし、その表情は雪の辛さに同調してしまっているようで今にも泣き出しそうに見える。


「だからね。あなたの気持ちがわかる……私はその時にまこちゃんやけーご、そして、大和に救われた。大和の背中を追っている伐がそばにいるの。クリスちゃんの事は絶対に伐が救ってくれるから、7だから、そんな顔をしないで」

「はい……う、うにゃあ!?」

「……流石、洋物、凄いわ。張りも弾力も今まで出会った物で最高の物よ。これはくせになりそうね」


 雪はもう一度、クリスを抱きしめると安心するように声をかけた。

 彼女の体温や自分を助けるために過去のつらい体験について話してくれている雪にクリスは彼女の身体を抱きしめ返す。

 その時、真面目な話をしていたにも関わらず、雪の両手はクリスの胸に伸ばされ、彼女の胸をもみしだいた。

 予想外の攻撃にクリスは飛び跳ねると雪から逃げるようにキッチンの隅に逃げて行ってしまう。

 雪は手に残っているクリスの胸の弾力に驚きを隠せないようで両手を何か揉むように手を動かしながら感心したように言う。


「……」

「ごめん。ごめん。やりすぎたわ。だけど、そこに乳があるんだから、揉みたくなるのが人の常ってやつでしょ? 昨今は巨だ。無だ。貧だ。と区別したがるけど、どのサイズも等しく素晴らしい物なんだし、揉まないのは失礼だと思うんだよね」

「……忘れていた。雪さんは女の人が行ける人だった。危険な人だった」


 クリスの警戒心は最高潮になっており、身体を震わせながらも雪へと視線を向けている。

 彼女の様子に雪は口では謝っているが、本心で謝っているようには見えず、クリスは雪と一定の距離を取らないといけないとつぶやいた。


「あ、それ、冗談だから、女の子の果実を揉むのは趣味よ」

「……趣味と言い切られると信用できません」

「信用ない? あんなに良い話をしたのにそれも自分のつらい過去まで話して」

「そう思うなら、あそこであんな事をしないでください……尊敬しそうになった」


 クリスの警戒色の強さに雪は心配いらないと言うとイスに座り、手で対面に座るように促す。

 しかし、彼女の言葉をクリスは全く信用する気にはなれず、首を横に振るが伐の過去は知りたいため、警戒しながらテーブルを挟んで雪の対面に座る。

 クリスの態度に雪は不満そうに唇を尖らせるとクリスは雪に心を開きかけていた事が間違いだったと言いたいのか頬を膨らませた。


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