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第二四話

(……気持ち悪いな)


 失踪事件がクリスの件と関係あると判断している伐はわずかな手がかりを手繰り寄せて失踪事件を解決していく。

 今晩も失踪事件の一つを解決して家に帰る途中にタバコをふかしながら星空を見上げて歩く。

 最初に白虎の化身と戦闘があったように失踪事件の場所には同様の術式が組み込まれていた。

 白虎の化身が召喚される前に事件を解決する場合もあれば召喚されて戦闘になってしまった場合もある。

 白虎の化身の力は最初に戦った物とさほど変わらず、四神の一つを相手にしては歯ごたえがない事に違和感があるようで頭をかくが違和感の正体が見えない。


(……今回で五件目か? いや、表に出ていないだけでクリス(あいつ)の件も入れれば六件か? それとも気が付いていないだけで他にも起きているのか? 目的を達成できないから急いで新しい生贄を探している可能性もあるが)


 元々、この街のトラブルを伐は依頼料を受け取って解決していたのだが、失踪事件は今も被害者を増やしており、白虎召喚の生贄としても充分すぎるくらいの人間が失踪している。

 最初に依頼を受けた以上の人数分はしっかりと追加請求しており、金銭的な面を考えるとありがたいのだが、依頼人からは解決できずに引き延ばしにしているとも考えられる可能性があるため、長々と時間をかけてもいられない。


(それに……これだけ時間がかかっているって事はクリス(あいつ)が俺のところに転がり込んでいるのだってばれているはず、それなのに何も起きないって事が不自然だ)


 クリス関係でのトラブルは彼女を保護した時と翌日の下校時に襲われただけであり、それがいっそう不気味にも思える。

 伐と真が考え過ぎているだけでクリスの件と失踪事件が別問題なのではないかと言う考えが頭をよぎるが、わずかに手繰り寄せた情報の中にはクリスの実兄である『ライオネル=ウェストロード』の影が見え隠れしており、それが伐の視線はそちらに向けようとしているようにも考えられ、伐は考えがまとまらないのか乱暴に頭をかいた。


(調べると実家や親戚筋よりも兄貴につながる。次期当主として人間関係は良好。当然、周囲はウェストロード家の次期当主とも認められて文句など出ていない。才覚で言えば……冷静に判断してもクリス《あいつ》より、劣っているとは思えない。一見、クリス(あいつ)を陥れて立場を守ろうとしているようには見えないが、善人面している奴ほど、腹に何を抱えているかわからねえからな……まあ、兄貴につながるようにミスリードされている可能性も高いが)


 クリスの話や一般的に流れている情報を分析すれば、彼女の兄であるライオネルとの関係性は良好に思える。

 しかし、それだけ良好であるなら、クリスが行方不明となったと桜華学園で噂になっているなかで失踪届が出されていない事には疑問が出てくる。

 政界にも顔が聞くウェストロード家の娘の失踪事件であり、世間体を気にしたと言う可能性も考えられるが真や圭吾の話から推測するとその線は薄い。

 ウェストロード家の力を考えれば、友人達にも適当な言い分をでっち上げてこの街を離れている事にもできるはず、その間に秘密裏にクリスを探す事くらいは簡単にできる。

 それなのにクリスの捜索にウェストロード家が動いている気配がまったく見えない。

 そこに酷い歪みを感じてしまう。


(泳がしているつもりなら、少し泳がされてやるか……ん? あいつ、また、おかしな事をしてないだろうな)


 答えが見つからない状況に伐は考えるのが面倒になったようでため息を吐いた時、タイミング良く、家の前に着いたようでクリスに占拠されている寝室の窓を見上げると窓から明かりが漏れている事に気づく。

 時間はすでに深夜二時を過ぎており、普通に考えればクリスは寝ている時間である。

 そのため、伐は怪訝そうな表情をするが、クリスを狙った人間が伐を待ち構えているならが電気を消して息を潜めているのが普通であり、電気が点いたままと言う状況にクリスがおかしな事をしていると判断したようで眉間にしわを寄せたまま、事務所の入口がある階段を上って行く。

 いつも通り、ドアを開けるが念のため、警戒する事は忘れない。

 事務所は灯りが点いているものの、特に変わった様子もなく、伐は入口を施錠すると電気を消して奥へと進む。


「お帰り、伐」

「お、お帰りなさい」

「……」


 キッチンに二人の気配を感じ、中を覗くとクリスだけではなく、なぜか雪まで居座っている。

 二人は笑顔で伐を出迎えるが、伐は眉間に深いしわを寄せると解散しろと言いたげに手を払う。


「せっかく、差し入れを持ってきてあげたのにその反応はないよね」

「……おい。お前には警戒心って物がないのか?」

「……ごめんなさい。雪さんから着いたら電話をするって言うから」


 彼の反応に雪はテーブルの上に置いたカップ麺やタバコ、酒類を指差して不満げに頬を膨らませる。

 彼女の相手をするのが面倒なのか、雪を家の引き入れたクリスへと矛先を変え、冷たい視線を彼女へと向けて言う。

 伐の冷めた視線にクリスはバツが悪そうに視線をそらした後、小さな声で謝った。

 雪は伐がクリスに携帯電話を渡していると予測し、彼女が持っていた携帯電話で連絡を取ったようであり、クリスは断り切れなかったようである。

 彼女の行動は今の状況が理解できていない不用意な行動であり、伐は苛立ってきたようで舌打ちをすると乱暴に冷蔵庫を開けて缶ビールを取り出した。


「そこまで怒る必要もないでしょ。クリスちゃんが怯えているよ」

「……お前だって、こっちの状況は簡単にあいつから聞いているんだろ。それなら、わざわざ、首を突っ込むんじゃねえよ」

「知っているから、来ているんでしょ。あんたの事だから、強くなれだ。甘えるな。とか言って、クリスちゃんの心のケアをしてそうにないし、大和はもう少し上手くやっていたけどね。あんたも大和に比べればまだまだ青いわ」


 機嫌が悪そうな伐の姿にクリスは肩を落としており、雪はため息を吐くと伐をいさめる。

 現状で言えば、雪がこの辺をうろつくのは彼女自身を危険にさらす可能性があり、伐は突き放すように言うが雪は自分に危険が及ぼうが関係ないと笑顔で言いきった。

 彼女の様子に伐は舌打ちをすると缶ビールを飲み干して、キッチンを出て行ってしまう。


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