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第二三話

「……まとめ損だ。こう言う物を預かっているんなら先に渡せよな」


 雪の荷物の中から出てきたUSBには伐が紙束で調べていた物の情報がまとめられており、伐は忌々しそうに舌打ちをする。

 それでも、データが集まった事で調べ物は先に進みそうであり、伐は視線を鋭くするとディスプレイを覗き込んだ。

 その時、携帯電話が着信を告げ、伐はけだるそうに携帯電話を取り出すとディスプレイには『近江真』と表示されており、一瞬、電話に出るのを拒否しようとするが出ないわけにもいけないため、通話ボタンを押す。


「遅いよ。また、僕の電話だからって無視しようとしたよね?」

「……わかっているなら、電話なんかかけてくるんじゃねえよ」


 通話ボタンを押すとすぐに不満そうな真の声が響く。

 伐は電話に出てやっただけでもありがたく思えと言いたげであり、電話の先からはわざとらしいくらいに大袈裟な真のため息を聞こえる。


「それで、何の用だ?」

「わかっているくせに時間がなかったから、調べられてのはそれだけだけど役に立ちそう?」

「……役に立つかはわからねえな」


 真は伐の態度に遊んでいても仕方ないと思ったようでUSBに入れておいた資料の有効性について聞く。

 伐はディスプレイを眺めながら、余計な事をするなと言いたげだが、真はそれが伐の強がりである事も知っているようで電話の先で苦笑いを浮かべている。


「こっちだってあの後に徹夜で調べ上げたんだから、褒めて欲しいところだよ」

「……誰も調べろなんて言ってないだろ」

「そうだけどね。どうせ、ノラ猫くんの事だから大和が集めたデータを入力してなんてなかったんでしょ。大和は機械音痴だったからね。まだ、紙の資料がどれだけあるのやら」


 疲れたと言いたいのか真はすねたような口調で言うと伐は相手をしたくないのか投げやり気味に返す。

 その反応は真にとっては予想通りであるのか小さくため息を吐くと大和と言う名をだして少しだけ寂しそうに笑う。

 

「……見るとイヤになるぞ」

「時間を取ってまとめなよ。ノラ猫くんが仕事をするにもまとめておいた方が役立つでしょ。ノラ猫くん、そう言うのが強いし」

「別に強くはねえよ……必要にかられただけだ」


 彼の心情を察したのか、伐はその件に触れる事なく、けだるそうに紙の資料の多さだけを話す。

 真もこの話を引っ張る気はないようでけらけらと笑うと伐は面倒だと言いたいのか大袈裟なため息を吐いた。


「それなら、口が堅い人間を雇えば、後は白猫ちゃんがヒマそうにしているから、預けてみるとかただ飯を食わせる余裕はないって言って」

「……外に出せない情報だってあるんだ。できるわけねえだろ」

「知っていて言っているよ。それより……昨日の部屋の所有者だけど、やっぱり、誤魔化されているんだよね」


 冗談を言いながらも、真は本題に移ろうとしたようで昨日、伐が踏み込んだ部屋の所有者に付いて話を振る。

 伐は真から渡された資料を覗き込みながら、当然だとは思っているようだが簡単には進まない事に舌打ちをする。


「……って言っても、白猫ちゃんの事があるから、ウェストロード家につながるんだろうけどね。問題は当主が関わっているか、他の人間がかかわっているかだね。普通は娘をあんな目に遭わせているんだから、当主じゃないとは思うけど」

「大和の資料を見る限り、家族関係は表向き良好みたいだぞ」

「表向きって」


 すでに二人の間では今回の失踪事件にはクリスの実家であるウェストロード家が深くかかわっており、問題はウェストロード家の誰が関わっているかである。

 紙束の資料には家族関係は良好だと書かれているようだが、伐はその点に関してはどうでも良さそうであり、彼の反応に真は大きくため息を吐く。


「……家族、友人、きれいごとを言ったって自分以外は他人だろ。むしろ、近いからこそ、面倒なんだろ」

「さすが、実の両親に捨てられた人間は言う事が違うね。まあ、仕方ないか」

「あ?」


 伐は家族だろうが本当に考えている事は自分自身にしかわからないと言う。

 その言葉に真は冷たすぎると言いたげだが、彼のそこまで言うだけの理由も知っているようで仕方ないと言いたいのかため息を吐く。

 真の態度は伐にとってはケンカを売られているようにしか聞こえなかったようで舌打ちで返す。


「はいはい。悪かったよ。その辺の事はノラ猫くんに任せるよ。白猫ちゃんにでも聞き出しておいてよ」

「……」

「沈黙は肯定と受け取らせて貰うよ。それじゃあ、そろそろ、上司の視線も痛くなってきたから切るね」


 真は口先だけの謝罪をすると家族関係の裏を取るのは伐の仕事だと笑う。

 それは言われるまでもない言葉であり、伐は黙っており、真はため息を吐くと電話を切ると告げる。


「……待て」

「何? まだ、僕に聞きたい事でもあるの?」

「どうして、あいつをわざわざ、送ってきた? あいつである必要性はないだろ」


 まだ用件があるのか、伐は真に声をかけた。

 突然の事に真は不思議に思いながらも聞き返すと雪を送ってきた理由を聞く。


「そんな事、聞くの? ノラ猫くんだって理由はわかっているんでしょ。白猫ちゃんの顔を上げさせるには雪の力が必要でしょ。あの二人は同じなんだから」

「……ちっ」

「ノラ猫くんはもう少し割り切った方が良いよ。そうしないと守れない物もあるからね。僕はノラ猫くんが大和と同じ結末にならない事を神様に祈っているからね……ん? ノラ猫くんの事を神様に祈ると罰が当たっちゃうかな?」


 伐の質問に答える必要がないと思っているようで真は彼を挑発するように言う。

 その言葉に伐は舌打ちをすると真は淡々とした声で時には冷酷になる事も必要だと言い切るがすぐに声をいつもの調子に戻すと伐をからかうように笑った。


「てめえ」

「それじゃあね。白猫ちゃんの事は任せるよ。きっと、使い方しだいで切り札にもなりうると思うよ」


 冷静な彼にしては珍しく、伐は怒鳴り声を上げようとするが真は彼の言葉を遮ると言いたい事だけ言って電話を切ってしまう。

 伐は腹の虫が収まらないようで声の聞こえなくなった携帯電話をソファーに向かって投げつけると乱暴に頭をかき、不機嫌そうな表情でパソコンのマウスを動かす。


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