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第二一話

「そんなに警戒しないでよ。伐もフォローしなさいよ」


 クリスが怯えているためか、女性と距離を取らせた方が良いと判断し、伐は二人を連れて事務所へと戻る。

 中央にある来客用のソファーに伐とクリスが座ると女性はテーブルと挟み、向かい合って座った。

 クリスは女性への警戒を解かずに伐の腕をつかんでおり、女性は困ったように笑うと伐に間を取り持つように言う。


「……知るか。だいたい、お前は何しに来たんだ?」

「まこちゃんから、伐が可愛い子猫ちゃんを保護したって聞いたから様子を見に来たのよ……本当に可愛いわ」

「……お前、本当に何しに来たんだ? 俺だってヒマじゃないんだ。早くしろ」


 伐は女性の言い分を拒否すると彼女がここを訪れた理由を聞く。

 彼の態度にフォローは無いと判断したようで女性はため息を吐くと真からクリスがいる事を聞いたと白状し、クリスへと視線を向ける。

 クリスは目の前の女性の正体がわからない事や身の危険を感じた事もあり、警戒色を強く出しており、その様子が彼女の何かを刺激したようでうっとりとした表情に変わって行く。

 女性が興奮して行く様子と反比例するようにクリスの表情は恐怖で引きつって行き、伐は大きく肩を落とすと女性に向かい本題に移るように言う。


「はいはい。悪かったわよ、それじゃあ、自己紹介から藤村雪ふじむらゆき、伐の初めてを奪った女よ」

「……」

「おかしな事を言うな」


 女性はため息を吐くと藤村雪ふじむらゆきと名乗った後、クリスを挑発するように笑った。

 その笑みと彼女の口から出て言葉にクリスは負けないと言いたいのか、震えていた身体を気力で押さえつけると伐の腕をしっかりとつかみ、彼女を睨み付ける。

 クリスの視線に雪は笑みを浮かべたままであり、伐は頭が痛くなってきたようで額を手で押さえてため息を吐く。


「冗談よ。そんなに怖い顔をしないで、私は女の子専門だから、クリスちゃんみたいな娘が大好きなの」

「……だから、そう言う冗談を言って怖がらせるな」

「はいはい。七割冗談だから安心して」


 伐の反応が面白いのか雪はくすくすと笑った後、先ほどの自分の言葉を否定するものの、自分は同性愛者だと暴露する。

 先ほど、伐の寝室で襲われかけた事もあり、クリスはその言葉を信じてしまったようで再び、身体を震わせて伐の腕をつかむ。

 その様子に伐は話が進まないため、雪を睨み付けると彼女は冗談と言うが比率はかなりおかしい。


「……安心できる気がしません」

「そんな。伐からも何か言ってよ」

「追い出されたくなかったら、さっさと本題に入れ」


 クリスの警戒色は払しょくされる事はなく首を横に振っており、雪は伐にフォローするようにと命令する。

 しかし、すでに伐は疲れてきたようで舌打ちをすると雪に本題に移れと強く言う。

 伐の態度にこれ以上は遊べないと判断したようで雪はわざとらしいくらいに大袈裟に肩を落とす。


「はいはい。本題はこれ。まこちゃんの見立てだから、サイズは大丈夫だと思うけど……まこちゃん、ロリコンでショタコンのくせにどうして服の上から人のスリーサイズやその他もろもろがわかるんだろうね?」

「……それぐらいは必須能力だろ」

「いや、わからないから、せめて、服の上からでも触れれば別だけど」


 雪は持ってきた荷物から女性物の服を取り出してテーブルの上に並べて行く。

 どうやら、真がクリスの服装を気づかって雪を使いに出してくれたようであるが雪は真が服のサイズまではっきり指定した事に首を捻る。

 伐は雪の疑問に表情を変える事無く、当たり前の事だと言い、雪は自分にはそんな芸当などできないと言うとクリスへと視線を向けた。

 彼女の視線にクリスは一瞬、驚きの表情をすると雪は両手の指を滑らかに動かし、目で彼女の身体を触らせろと言う。


「大丈夫よ。痛くしないから、むしろ、天国に行かせてあげるわよ」

「……変態、落ち着け」

「誰が変態よ。それに伐、女の気持ち良いところがわかるのは同じ女だけよ。伐は良いところまでは行っているけど、まだまだよ」


 その指の動きに恐怖を感じたクリスは首を横に振るがその様子は彼女のサド心に火を点けるだけの行為であり、雪は我慢できなくなったのかソファーから立ち上がる。

 伐はおかしな事を言うなと言いたいのか、視線を鋭くするが雪は興奮しているのか拳を握り締めて叫ぶ。


「……おい。ここで変態の相手をしていると疲れるから、部屋で着替えて来い。この変態は俺が引き止めるから」

「う、うん」

「逃がさないわ!! 伐、そこをどけなさい!! 私にだってクリスちゃんの白くきれいな胸やいろいろなところを揉みしだく権利があるわ!!」


 彼女の様子に伐はもうかまっていられないと思ったようでクリスにテーブルの上の服を持って行くように言うと彼女は服を抱えて逃げるように事務所を出て行く。

 雪はすぐにクリスを追いかけようとするが、伐は閉じられたドアの前に移動し、彼女を引き止めると雪は伐に向かいそこを退けと叫ぶ。


「そんな権利、あるわけねえだろ」

「それは自分だけの権利って言うつもり?」

「誰もそんな事は言っちゃいねえよ」


 伐は雪にソファーに戻れと言いたいのか手を払って見せる。

 その行動は雪の目には彼がクリスを大切にしているように見えたようで楽しそうに口元を緩ませると伐をからかうように言う。

 彼女の言葉に伐はため息を吐くとクリスが寝室のカギをかけるだけの時間を稼げたと考えたようで雪を押しのけてソファーに座り直す。


「まぁ、伐にとってクリスちゃんが特別になりうるかはわからないけど……あの子は危険よ。気を付けないよ」

「特別とかはどうでも良いが、危険って言う根拠は?」

「決まっているでしょ。女の勘よ」


 伐がソファーに戻った事で雪も寝室に行くのは時間の無駄だと判断したようでソファーに戻ると表情を引き締めてクリスを危険だと言う。

 その言葉に伐はくだらない事を言うなと言いたげにタバコを口にくわえるも雪が何に対して危険だと判断したか確認をする。

 

「……女の勘ね」

「猫の危険察知能力には劣るかも知れないけど、これでも結構、当たるのよ」

「そうか……それなら、気を付けておくか」


 雪は伐の問いにくすりと笑うと伐は当てにならないと言いたげにため息を吐き、タバコへと火を点けた。

 彼女の様子に伐は話を切りたいのか頷くと雪はくすくすと笑う。


「何だよ?」

「別に、とりあえずは頑張りなさいよ。あの子がちゃんと笑えるようにね。それが大和の意思を継いでいる伐の役目なんだからね」

「それじゃあ、私は帰るわよ。カバンの中に他にもいろいろ入っているから、クリスちゃんに渡してあげてね」


 彼女の表情に怪訝そうな表情をする伐に雪は真面目な表情をして言うと彼の胸を軽く叩いた。

 その言葉に伐はけだるそうに頭をかくが言われなくてもわかっていると言いたいのか小さく頷き、彼の態度に雪は満足そうに笑うと手を振って事務所を出て行く。


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