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第二十話

「伐、どこ?」


 翌朝、クリスは伐を探すために家の中を探索する。

 伐に保護されてきてから、彼の寝室や事務所、キッチンと言った特定の場所しか移動していなかったため、最初のその辺を探したのだが彼の姿はなく、クリスは不安げな表情でまだ入ったことのない部屋のドアノブを捻って部屋の中を覗き込む。

 しかし、伐は見つからず、クリスは不安げな表情をして家の中を探し回る。


「……お前は何をしているんだ?」

「ば、伐!? お、おはよう」


 探し回って見た物の中にはカギが閉まっている部屋もあり、結局、伐が見つからなかったクリスは事務所へ移動するとソファーに腰を下ろし、寂しそうにうつむいてしまう。

 しばらくするとタバコを吹かしながら、手には紙束を持った伐が事務所に入ってくる。

 その表情はクリスが家探しをしていたのが聞こえていたようで呆れ顔をしているが伐を見たクリスはすぐに表情を変えて彼に抱き付こうと飛びつく。


「……なんで、避けるの?」

「なんとなくだ……それで、何の用だ? 俺は忙しいんだ」


 伐は彼女の身体を受け止める事無く、ひらりと交わすと調べ物があるようでパソコンの前に座ると紙束を机の上に置いた。

 クリスは彼の態度に不満のようで頬を膨らませるが伐は彼女の相手をしているヒマなどないと言いたいのかクリスを追い払うように手を払う。


「何しているの?」

「……調べ物だ。無駄な食い扶持が増えたから、働かねえと行けねえんだよ」


 パソコンの画面を覗き込もうとするクリスだが、伐は近づくなと手で彼女を制止する。

 クリスは不満げだが仕事だと聞くと首を突っ込むわけにはいかないと思ったようで壁に立てかけていたパイプイスを取りに行き、伐の机の前に置くとパソコンのディスプレイ越しに嬉しそうに伐の顔を覗き込む。


「……何の嫌がらせだ?」

「別に嫌がらせしているわけじゃないよ。ただ、伐の顔を見ていたいだけ」

「そうか。くだらない事をしているなら、寝室で寝ていろ」


 伐は紙束をめくりながらパソコンに何かを入力しているが、クリスの視線が気になるようで眉間にしわを寄せる。

 嫌がらせと言われてクリスは不満げに頬を膨らませるが伐は邪魔だと言い切り、寝室の方を指差す。


「冷たい」

「それは悪かったな……ったく、もっと早くにまとめておけば良かったな」


 クリスはもっと優しくしてほしいと言いたいのか机を叩くが伐が気にする事はなく、紙束へと視線を移し、その目は忙しなく動いている。

 その紙束にはパソコンに入力されていない情報が多く含まれているようでその表情は不機嫌そうに変わって行く。


「うー……誰か来た?」

「お前は事務所から出て行け。また、面倒な事になりたくないだろ」

「うん」


 伐が相手をしてくれない事にクリスが不満げにしていると誰かが訪れたようでインターフォンが押される。

 事務所の中には来客を知らせる音が鳴り響き、クリスは先日の真の訪問を思い出して身構えた。

 彼女の姿に伐は頭をかくとドアを指差して事務所から出て行くように指示を出す。

 クリスは伐の側を離れたくないようだが、対人恐怖症になりかけているのか小さく頷くとドアを開けて事務所から出て行く。


「……さてとどうするかな? 無視を決め込むか」

「伐、いるのはわかっているんだから、開けなさい。開けないとまこちゃんから聞いた事を全部、けーごに話すよ」

「……」


 伐は来客でクリスを追い出せたと考えたようであり、口元を緩ませると来客など気にする事無く、作業を続けようとする。

 しかし、来客者は伐の行動を予測しているようで事務所のドアをがんがんと叩き、事務所の中にいる伐を脅迫するように言う。

 その外から聞こえる声に伐は眉間にしわを寄せると不機嫌そうな表情でドアを開けた。

 そこには二十代半ばくらいの女性が荷物を抱えて立っており、ドアが開くなり、伐を押しのけて事務所の中に入ってくる。


「……何しに来た?」

「伐、噂に聞く。可愛い白猫ちゃんは? ……可愛い女の子の匂いがするわ。こっちね」

「……人の質問に答えろ」


 女性は事務所の中をきょろきょろと見回しており、伐はドアのカギを閉めると眉間に深いしわを寄せた。

 彼女はクリスの事を知っているようで伐の態度など気にする事無く、視線を鋭くすると奥の部屋につながるドアへと向かって歩き出す。

 人の話を聞かない彼女の姿に伐は大きく肩を落とすと彼女の腕をつかむ。


「こっちね。どんな美味しい女の子がいるのかしら」

「……目を血走らせてないで俺の話を聞け」


 女性は抱えていた荷物を伐に放り投げて彼の気を削ぐとドアを開けて一気に進んで行く。

 彼女の背中に伐は眉間にしわを寄せると面倒になったと言いたいのかけだるそうにため息を吐き、彼女の放り投げた荷物を拾うと彼女の後を追いかける。


「……見つけた。凄く美味しそう」

「な、何なんですか?」


 クリスは伐の寝室に戻っていたのだが、突然、ドアが開くと目を血走らせて女性が彼女を見つけて口元を緩ませた。

 その様子にクリスは背中に寒気がしたようで後ずさりをするが、女性の目は完全にクリスを獲物と認識しており、スキを狙おうとしているのかじりじりと距離を縮める。


「可愛いわ。こんな反応をする娘。伐にはもったいないわね。私が唾を付けちゃおうかな?」

「……おい。いい加減にしろ」

「ば、伐」


 近づいてくる正体不明の女性の姿にクリスは恐怖しか感じないようで顔は真っ青になって行くが、その様子が彼女の変態性をさらに刺激して行く。

 彼女の笑みにクリスは完全に飲まれてしまったようで足は動かなくなってしまい、彼女はクリスの頬を手でなでて笑った時、眉間にしわを寄せた伐が寝室に入ってくる。

 伐がきた事でクリスの足は動き、女性をベッドの上に跳ね除けると彼の背中に隠れてしまう。


「可愛いわ」

「……そこの変態、お前は何しに来たんだ?」


 クリスの反応は女性にとってはもの凄いご褒美のようで彼女は熱い視線をクリスに向けている。

 その視線にクリスは恐怖しか感じないようで伐の背中に隠れて身体を震わせており、二人に挟まれる形になった伐は眉間に深いしわを寄せてため息を吐いた。


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