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第十九話

 伐は家に戻るとクリスの様子を覗く事無く、事務所でパソコンを立ち上げ、先日、真から渡された失踪事件の人数を確認する。

 失踪していると言われている少女達は今日、真達警察が保護した人数よりもかなり多く、伐は面倒だと言いたいのかけだるそうに頭をかいた。


「白虎召喚の儀式か……術式もわかんねえから調べようもねえな。だいたい、魔法陣なんか知らねえからな」


 白虎の化身が呼び出された事を思い出し、召喚の儀式に付いて調べてみようと言う考えが頭をよぎるが伐には全く知識がないようでどうしようもないと言うとイスの背もたれに身体を預け、天井を見上げる。


(……ただ、白虎の出来損ないが言うには生贄が足りねえって言っていたからな。今回の場所が魔法陣の重要なところの一つって事は間違いねえな。怪しいところを探るしかねえな。今回はたまたま、バカばかりだったから楽に見つかっただろうけど、他はそうもいかねえか)


 この街でも今日の部屋は情報が漏れていたため、簡単に伐はたどり着く事ができた。

 他の場所では失踪した少女達が監禁されて乱暴されているのではと言う噂もなく、伐は少しだけ使えない人間を集めてしまった黒幕をバカにするように鼻で笑った後、考えをまとめようと目を閉じる。


「……何の用だ?」

「お、お帰りなさい。伐」


 しかし、そんな伐の考えも空しく、ドアがゆっくりと少しだけ開き、その隙間からクリスがきょろきょろと事務所の中の様子をうかがう。

 彼女の気配に気が付いた伐は目を開く事無く、邪魔するなと言いたいのか追い払うように手を払うがクリスは伐の声が聞こえるとドアを開けて彼の元に駆け寄ってくる。


「……白猫と言うよりは子犬だな」

「何?」

「何でもねえ」


 クリスの足音に伐は相手をしないといけないと考えたようでため息を吐くとゆっくりと目を開く。

 伐を見て嬉しそうに金色に輝く長い髪を揺らして駆け寄ってくるクリスの様子に眉間にしわを寄せて彼女を子犬に例える。

 クリスは彼の言葉が聞き取れなかったようで青い瞳で伐の顔を覗き込むと伐はもう一度、彼女を追い払うように手を払うが、クリスは事務所の壁際に置いてあった折り畳みのパイプイスを見つけると伐の隣に置き、腰を下ろす。


「……部屋に戻って寝ていろよ」

「寝ていろって言ってもお昼もずっと寝ていたから眠くないよ」

「今日日の高校生なら何時間でも寝られるだろ」

「それは部活をやっている男子高校生だけだよ。私は女の子」

「それなら、他に何かで時間でもつぶしていろ」

「時間をつぶすって言っても、この家、本もテレビもないよね?」


 仕事の詳細をクリスに見せる気のない伐は開いていたファイルを閉じた後、事務所の中央に置いてあるソファーへと向かう。

 伐自身はまだ眠りにつかずに失踪事件の事を整理したいため、彼女を寝室に戻そうとするが伐に保護されてから寝てばかりだったクリスは眠気がまったくしないようで伐の隣に腰を下ろす。

 彼女の行動に伐はため息を吐くとクリスを追い払うように言うが、クリスは伐がいない間に家探しをしたのか時間つぶしは現実的ではないと言いたいようで大袈裟に首を横に振った。


「……」

「それにね……やっぱり、一人でいると不安になるよ。一人は怖いよ。そばに居てよ」


 伐は面倒だと言いたいのか眉間にしわを寄せるとクリスは伐の服をつかみ、彼の顔を見上げるとすがるように声を絞り出す。

 一人でいる間に不安と恐怖に怯えていたのか、身体は小さく震えており、彼女の頬には涙が伝った跡が見えるが伐は表情を変える事はない。


「……そうだよね。伐は私が汚れていると思っているんだよね。優しくしてくれるのは私が可哀そうだから」

「……」

「伐? い、いたい!? な、何をするの!?」


 彼の表情にクリスは悲しげな表情をすると伐から逃げ出そうとすると彼は何も言う事無く彼女の手をつかみ、その身体を引き寄せる。

 クリスは伐の表情に大きく胸が高鳴り、近づいてくる彼の顔に目を閉じるが、その時、彼女の額には鈍い痛みが伝わった。

 慌てて目を開くと目の前には伐の顔があるが触れているのは唇同士ではなく額同士であり、突然の事に彼女は目を白黒させる。

 数秒間が空き、自分が頭突きをされたと気が付いたクリスは両手で額を押さえて涙目で伐に酷いと言いたげに訴えるが伐はそんなクリスの反応を見て口元を小さく緩ませている。


「な、何をするの?」

「良い位置にあったからな」

「わ、私が真面目な話をしているのに」


 驚きの声を上げるクリスだが伐は気にする様子は見せず、彼の態度にクリスは精一杯の勇気だったと言いたいのか頬を膨らませて非難する。


「真面目な話って言ってもただ逃げようとしているだけだろ。俺はそんなバカ女に興味はわかねえぞ」

「……そ、そうだよね」

「話しは最後まで聞けよ。面倒臭えな」


 伐はけだるそうに欠伸をするとクリスが伐に依存して辛い事から逃げ出そうとしているだけだと言い切り、クリスはそれを拒絶だと認識したようで逃げ出そうと立ち上がった。

 クリスが逃げ出す前に伐は彼女の手をつかむと彼女の引き戻して抱き締めるとクリスの耳元でため息を吐く。


「……お前は別に汚れてはいねえよ。人の価値ってのはそんな物じゃ、決まらねえ。良い経験も苦い経験も受け入れ、飲み込んで成長して行くんだ。それに仮に汚れたと思うなら、研いてやれば良い。心も身体もな。そうすればもっと良い女になる。俺が保障してやるよ」

「本当? 嘘を吐いてない?」

「信用ねえな」

「だって、伐は嘘つきでしょ。本当は誰よりも優しいのに悪態ついて、人を遠ざけるの。そんな伐だから放っておけない。そばに居て欲しい。そばに居たいの……だから、信じるだけの証が欲しいです」


 クリスの耳元で伐は彼女に起きた事など気にする必要はないと落ち着いた声で言う。

 その言葉にクリスは伐の顔を見上げて不安げな声で聞き返す。

 伐は信じろと言いたいのかため息を吐くと、クリスは出会ったばかりだが彼の中にある優しい部分に惹かれていると逃げているだけではないと言い、目を閉じると彼女の唇にほんの一瞬だけ何かが振れる。


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