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第十八話

「白虎? ……ノラ猫くん、いくらなんでもそう言う冗談は面白くないね」

「俺も化身とは言え、神様って奴に会うとは思っていなかったな」

「四神だっけ? たしか中国の神話だったかな?」


 伐は何者かがここに居た者達を生贄にして白虎を呼び出そうとしていた事を説明するが、話が飛び過ぎているため、真や話を聞いていた者達は怪訝そうな表情をしている。

 その反応は伐も予想していたようだが納得してくれなければどうしようもないため、納得しろと言いたげにタバコをふかしており、真は記憶の底から白虎について引っ張り出した。


「ああ、天の四方の方角つかさどる霊獣。東の青竜、南の朱雀、北の玄武に西の白虎……後は中央に麒麟だったか、黄竜だったかもいたな」

「青竜、朱雀、玄武、白虎、麒麟? ……数が合わないよ」

「そんなもん、昔の人間に言えよ。俺に言われたって知った事じゃねえよ」


 伐は興味がなさそうに頷くとけだるそうに四神と言われる存在の名前を挙げて行く。

 真は数が合わないと文句を言いたげだが、伐はどうでも良い事で話を折るなとため息を吐いた。


「その中で白虎を呼び出そうとした人間がいるって事? ……何のために?」

「俺に聞くなよ。ただ、呼び出して使役でもできれば強力な力が手に入るからな。何かしらの力でも欲しているんじゃないか?」

「力をね……扱いきれるの? 完全体とは言わない状態でこの惨劇だよ。正直、僕は怖くて呼び出せないね」


 真は何のために白虎を呼び出したのかと首を捻ると伐は欲をかいているだけだと鼻で笑う。

 実際は真もそれしか考えられなかったようで小さくため息を吐くが、この部屋の惨状を見て扱いきれるとは思えないようで眉間にしわを寄せた。

 真の言葉に彼の部下達も同様の意見を持っているようで小さく頷いている。


「ただ……呼び出すって事はその厄介な白虎に首輪を付ける方法があるって事かな? 僕はこの街にうろつくノラ猫一匹にも首輪を付けられないのに」

「うるせえよ……ただ、その意見には賛成だ。扱いきれるような術者がいるなら、楽で良い」


 それでも白虎のような大物を呼び出すにはそれなりに相手にも自信があると考えたようで真の眉間のしわは深くなって行くが彼の性格なのか伐をからかう事も忘れていない。

 その冗談に伐はため息を吐くが真と同じ事を考えているようでけだるそうに頭をかく。


「術者が居た方が良いの? その術者が大量殺人を企んでいるような人間だったら?」

「大量殺人をしたいなら、矢でも鉄砲でもそろえた方が早いだろ。わざわざ、部屋まで借りて女さらって面倒な手段を取っているんだ。黒幕はそれなりに資金も持っていると考えるのが妥当だろ?」

「確かにそうだね……そうなると他の目的か。ノラ猫くんはどう思っているんだい?」


 白虎を呼び出した人間の目的を殺人と考えた真だが、伐は欠伸をしながら効率が悪いと言う。

 伐に言われて真は少し考えると彼の意見はもっともだと思ったようで伐の考えに興味があるのは問いかける。


「……知らねえよ。興味もねえしな。ただ、こう言うバカな事を考える人間の考える事なんて決まっているだろ?」

「お金かな? 名誉かな?」


 真の問いの伐は興味がないと言うとタバコを灰皿に押し当てて火を消すと新しいタバコを取り出して火を点けた。

 その様子に真は苦笑いを浮かべながら、人間は欲望に忠実だと言うとあまり共感できないようで頭をかく。


「そんなところだろ。特に興味もねえけどな。必要以上に溜め込んだって、流れが止まっちまうと淀むだけだろ」

「そうだね。ノラ猫くんにとって重要なのは大和との約束だ……悪かったよ。怒らないでくれないか」


 伐は手に余る欲は無駄だと言いたいようで呆れ顔をしていると真は再び、伐をからかおうとする。

 その言葉の途中で伐は素早くくわえていたタバコを手に取ると真ののど元にタバコの先を向けた。

 彼の目には殺気のような物がこもっており、真は降参だと言いたいのか両手を上げて伐に謝る。

 真の態度に小さく舌打ちをした伐を見て、このままでは情報交換にもならないと思ったのか真の部下の一人が伐に着替えを渡す。


「……遅い」

「まぁ、良いじゃないか。ノラ猫くんは細いから、服をそろえるのも大変なんだよ」


 伐は着替えを取り上げると真の部下を睨み付ける。

 その冷たい視線に部下は後ずさりをしてしまい、真は二人の様子に苦笑いを浮かべるとぱんぱんと両手を二回叩き、部下達を散開させる。


「それじゃあ、ノラ猫くんも着替えて愛しの白猫ちゃんのところに戻ってあげてよ。きっと寂しくて泣いているだろうから」

「……愛しくはねえな」

「そう言う事を言わない。白虎が呼び出されて西を意味する白猫ちゃんがノラ猫くんのところに迷い込んだんだ。僕は偶然じゃないと思うけどね」


 部下が仕事に戻ったのを見て、真は伐をからかうように口元を緩ませるとクリスの元に帰ってやるように言う。

 その言葉に伐はけだるそうにため息を吐くと着替え始める。

 現場保存など刑事の都合を考えない伐の様子に真は苦笑いを浮かべるが、真の中では伐に頼んでいた失踪事件とクリスの件が重なったようで伐に注意するように釘を刺す。


「……ちっ」

「やっぱり、ノラ猫くんも気が付いていたみたいだね。ウェストロード家を敵に回すほど警察は力がないから、どうにかしてよ。なるべく、ノラ猫くんの邪魔にはならないように尻尾を振っているふりをしとくから」

「……犬が」


 真の推測には伐も何か思うところがあったようで忌々しそうに舌打ちをする。

 彼の様子に真はわざとらしくため息を吐くと伐がクリスの件の真相に近づく事で警察にも圧力がかかる事を予想しているようで圧力がかかった時には上手く立ち回るつもりだと笑う。

 その笑みの中には最悪の場合は伐を切り捨てると言う損得で動くつもりだと言うのが透けて見え、伐はもう一度、舌打ちをすると着替えを終えたようで真に挨拶する事無く部屋を出て行ってしまう。

 真は彼の背中を見送った後、厄介な事件に巻き込まれたと言いたいのか小さくため息を吐くが、すぐに表情を引き締めると部下達に指示を出す。


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