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第十六話

「……それなら、眠ったままでいて貰おうか? お前らに暴れられるのも面倒だからな」

「人間、我の正体を知っても、まだ、勝てる気でいるのか?」

「悪いな。むしろ、神相手なら、引くわけにはいかねえよ。俺は堕ちた側だからな」


 伐は口元を緩ませながら白虎の化身を倒すと挑発するように言う。

 その言葉に白虎の化身は人間風情がと言いたいのか鼻で笑った。

 白虎の化身相手にも伐は引く事無く、くわえていたタバコを手に取ると白虎の化身の鼻先へと押し当てるが、タバコは白虎の化身に触れる事無く、空中で止まる。

 

「……堕ちた側か? それならば神として消し去ってやろう」

「神って言っても人を喰らって現世に出てきているんだ。俺達と変わらねえだろ?」


 白虎の化身の言葉に呼応するように衝撃波が飛ぶ。

 白虎の化身は伐を邪悪な物と判断したようで伐を消し去ってくれようと笑った。

 黒い靄は伐を衝撃波から守るも大半が消し飛んでしまう。

 それでも伐は臆することなく、白虎の化身を挑発するように笑みを浮かべている。


「愚弄する気か?」

「真実を言っているだけだろ。神だ。なんだ。と言うなら助けを求める者を無条件で救ってやれよ。それができないなら俺達と変わらねえだろ……それより、白虎だって言う割にはその程度か?」


 白虎の化身は伐に同列に扱われた事に怒りをあらわにするが、伐は言葉を訂正する気はないようでタバコを吸い直して笑った。

 その笑みには底冷えするような冷たさがあり、白虎の化身はその笑みに威圧されたのか一歩後ろに下がってしまう。


「……神の化身が威圧されるのは不味いんじゃねえのか?」

「……貴様、何者だ?」

「黒須伐……別に覚えなくても良い。どうせ、お前は俺に食い尽くされるんだからな」

 

 冷たい笑みを浮かべたまま、伐は一歩足を進めると白虎の化身の顔を覗き込む。

 白虎の化身は人の形を成した者が放つ気配ではないと考えたようで伐の正体を聞く。

 伐は名前を名乗るが白虎の化身にはここで消えて貰うと言う。

 その言葉に同調するように足元からは再び、黒い靄が立ち上がると何本もの腕の形に変化し、白虎の化身に巻き付き始める。


「この程度で我を止められると思っているのか?」

「……別にそれで止める必要はねえだろ。必要なのはこっちだからな」


 白虎の化身は声を上げると彼を中心に再び、衝撃波が飛ぶ。

 その衝撃波は黒い腕を薙ぎ払って行くが、すぐに黒い腕は立ち上って行き、消し飛ばれようとも白虎の化身に絡みついて行く。

 何度消しても浮かび上がってくる黒い腕を見て、白虎の化身は忌々しそうに舌打ちをする。

 その様子に伐は楽しそうに口元を緩ませると口にくわえていたタバコを手に取った。

 赤く燃えていたタバコの火はゆっくりと青白い炎を上げ始める。

 それは黒い靄に火を点けて行き、ところどころに青い火の玉がゆらゆらと飛び始める。


「……鬼火か? キツネか。それならその瞳も頷ける」

「キツネね……悪いな。そんな物と一緒にしないでくれるか。お前が白虎の化身だって言うんだから、信じてやったんだ。火が苦手なんだろ?」

「火剋金か? キツネ程度が生み出す炎に我を燃やし尽くせると思っているのか?」


 白虎の化身は浮かび上がる火の玉に伐をあざ笑うように言うが伐はけだるそうにため息を吐いた後、弱点を用意してやったと言う。

 伐の言葉に白虎の化身は感心したように言うが、その程度の炎で身を焼かれる事はないと声を上げた。

 

「だから、キツネじゃねえって言っているだろ。一緒にするんじゃねえよ。それにこの程度の炎って言うなら身を持って喰らってみろよ」


 伐はキツネと言われるを快く思っていないようで舌打ちをすると先ほどまで転々と浮かび上がって青白い炎は白虎の化身に絡みついている黒い腕に火を点けて行く。

 色を失っていた世界は青白い炎に包まれて行き、身体に伝わる熱に白虎の化身は表情を歪ませるが伐は炎の熱をまったく感じていないようで白虎の化身の表情を見て楽しそうに笑っている。


「……キツネが」

「違うって言っているだろ。だいたい、虎の威を借る気もねえしな。それより、虎だって言う割にはその程度か? それじゃあ、ただのデカいだけの猫じゃねえかよ?」


 伐の表情に忌々しそうに白虎の化身は言う。

 人の話を聞かない白虎の化身に伐はため息を吐くと足元から立ち上がる炎を気にする事無く、白虎の化身との距離を詰めて小ばかにするように笑った。


「猫だと? 愚弄するな」

「お前こそ、猫をバカにするなよ。現に虎が()相手に威圧されているじゃねえか。その猫をバカにするんだ。跡形も無くなるくらいに燃やし尽くしてやるよ」


 猫と言われて白虎の化身の目には強い光が灯る。

 伐は白虎の化身の言葉に舌打ちをすると淡々とした口調で言う。

 その言葉は淡々としているが伐なりのプライドが込められているようで白虎の化身を包んでいた炎は薄気味悪く青白く強い炎を上げる。

 青白い炎は白虎の化身の身を焼き始め、白虎の化身は炎を振り払うように身を捻った。

 しかし、その炎は消される事無く、勢いを上げて行く。


「……力が戻っていない状況ではキツネ程度にも引き裂けないか」

「だから、キツネじゃねえって言っているだろ。人の話くらい聞けよ。情報整理もできないなら神や妖だって滅ぼされる時代だ。進化をしない存在に未来はねえよ」


 白虎の化身は青白い炎を振り払う事はできずに忌々しそうに言う。

 伐は手に持っていた短くなったタバコを白虎の化身に向かい投げ捨てると青白い炎は一気に火力を上げ、白虎の化身を燃やし尽くす。

 白虎の化身は身体が燃え尽きる前に断末魔を上げるが、伐は興味なさそうに新しいタバコを取り出すと白虎の化身を燃やし尽くしても勢いを止める事ない炎でタバコに火を点け、その煙を肺一杯に吸い込んだ。


「……不味いな。やっぱり、生贄がたいした事もなかったからたいした力にもならねえな」


 タバコの煙を吐き出しながら伐は小さく顔を歪ませると青白い炎とともに世界は色を取り戻していく。


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