第十四話
「……納得させるだけで一苦労だな」
伐は真を仲介して警察からの依頼のあった失踪事件の調査のためにクリスを置いて夜の街を歩く。
失踪事件とクリスの件は現状では別物であると判断しているため、伐は彼女を何とか説得したのだが、それでも伐が家を出てくる時のクリスの表情は酷く不安げであり、その時の彼女の表情を思いだしたのか伐はけだるそうに頭をかいた。
伐の見立てでは昨晩、彼女の追いかけていた男性達や伐を襲った女性の行動から考えてクリスは生きて確保する事が重要とされており、現状では彼女が殺される心配はないと判断している。
(……とりあえずは現状、あいつを狙っている奴は後回しだ。無駄な食い扶持が増えているからな)
その時、伐は足を止めて、マンションを見上げた。
そこが目的の場所のようで伐は周囲を見回す。
街を歩く人々は他人の事など興味がないようで足早に歩いており、伐へと視線を向ける事はない。
「目の前で何があっても興味がない物は見えないってね。本当に目を凝らし、耳を傾ければ真実の色が見えるのにな」
伐の事など気にする事無く、マンションの住人なのか二十歳くらいの男性がマンションの玄関の前に来る。
インターフォンを押すと友人なのか、バカ騒ぎの声が聞こえ、玄関のドアが開いた。
その様子に彼は小さく口元を緩ませると彼の足元からは黒い靄が溢れ出して行き、伐の周辺は色を失って行く。
色が失った様子に周囲の人間は誰も気が付く事はなく、伐は男性の後ろに付いてマンションの中に移動するが男性は背後に伐がいる事にまったく気が付いていないようで頭をかきながら、階段を上がり、友人達がいるであろう部屋の前に着くとタイミング良く、部屋のドアが開き、男性が顔を出す。
ドアを開けた男性は廊下を見回した後、男性の後ろを歩いていた伐に気が付く事無く、仲間を向かい入れる。
(……こう言う風に欲望に忠実だと、対処が楽で良いな)
閉じられるドアをするりと交わして伐は部屋の中に入室すると部屋の中へと視線を向けるが、その前に伐の鼻はある臭いを察知する。
元々、伐はこのマンションの一室で何が行われているかは予想していた事もあり、けだるそうにため息を吐くと前を歩く二人の後を追いかけて行く。
男性二人がリビングのドアを開けるとそこでは少女達が乱暴されており、男性が増えた事にまだ正気を保っている少女は悲鳴を上げ、その様子を見て男性達は楽しそうに笑っている。
目に入る映像や耳に入る声に伐は興味を示す事無く、けだるそうにため息を吐くとこの場を仕切っているリーダーらしき人間を探す。
リビングの奥にはまだドアがあり、伐はずかずかとリビングを進むとドアへと手を伸ばすが、リビングにいる者達は誰も伐の存在に気づく事はない。
ドアノブを回すとカギはかかっていないようでカチッと言う小さな音を立てて、ドアノブがまわりドアが開く。
部屋の中はリビングと同様の状態であり、伐は呆れたようなため息を吐くとリーダーらしき人間を探そうと視線を鋭くした時、この部屋に違和感を覚える。
その違和感を拭おうと彼は目を閉じて違和感の元を探り始めるが、すぐに違和感がこの部屋からではなく、広範囲に仕掛けられている事に気付いた。
ここまで来るまでに気が付かなかった自分の間抜けさに舌打ちをするが、彼の頭は一つの答えを導き出したようで乱暴に頭をかく。
「何を呼び出そうとしている? ……考えている時間はねえな。このままだと面倒な事になる。さっさと術式を壊すしかねえな」
伐が気づいた違和感は何かを呼び出すために描かれた術式のようであり、この場で行われている事はただの少女監禁事件ではなく、この場に集められた者達はこの術式を発動させるためだけの使い捨ての生贄だと考えられる。
その事実に伐は腹立たしさを覚えながらも時間をかける余裕はないと判断したようで急ぎ、部屋の中を探索する。
「おいおい。あんまり無理するなよ。壊れちまったらどうするんだよ? まぁ、頭がいかれちまっても、この肢体があれば俺は満足だけどな。それに女の一人や二人、壊れたってすぐに調達して貰えるからな」
その時、少女に乱暴を行っていた男性の一人が少女を殴り、無理やり屈服させていた仲間を止める。
しかし、その言葉は少女を気づかっての言葉ではなく、それどころか少女などどうなっても良いと言う意味が込められており、男性達はその言葉に下衆な笑い声を上げた。
男性達の笑い声に乱暴を受けていた少女の一人は壊れてしまったのか、発狂したように声を上げる。
それが合図になったのだろうか、男性達は少女達の肢体へと手を伸ばし、力づくで少女達を屈服させるように少女達に覆いかぶさった。
「ここから逃げろ!!」
「お、お前、どこから入ってきやがった!?」
「……」
その瞬間にこの部屋に敷かれていた術式は発動してしまったようで伐の目には光の柱がいくつか部屋の中に立ち上がった。
その光と同時に伐の足元に張り巡らされていた黒い靄は吹き飛ばされてしまい、伐は状況の悪さに舌打ちをするとこの場にいた者達に向かい叫ぶ。
突然、目の前に見なれない伐の姿が現れた事に男性達は声を上げた時、ぐしゃりと言う何かがつぶれた音と同時に先ほど声を上げた少女の精神は崩壊を開始しようとする。
「ひ、ひい」
「……ちっ、厄介な事になった。わりに合わねえな」
音がした方向を男性達が見ると少女に覆いかぶさっていた男性の頭はつぶれ、少女と部屋の床を真っ赤に染め上げて襲い掛かっていた少女の身体に倒れ込む。
真っ赤に染まった男性の身体を受け止めた少女はまるでごみを払うように男性の身体をどけると少女はゆっくりと立ち上がり、虚ろな目で一番近くにいた男性へと手を伸ばす。
手を伸ばされた男性は真っ赤に染まった手を振り払おうとするが、少女に手が当たった瞬間に男性の腕ははじけ飛び、部屋を真っ赤に染める。
部屋の中で起きている理解できない状況に先ほどまで乱暴されていた少女達は奇声を上げて部屋から逃げ出そうと走り出そうとすると虚ろな目をした少女は置いて行かないでと言いたいのか逃げる少女へと手を伸ばした。
その様子に伐は忌々しそうに舌打ちをするがこのままにもしておけないようであり、手を伸ばし、少女の手をつかむ。




