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第十二話

「……本当に拾ってきた猫みたいだね」

「そう思うなら、変にからかうな」

「そうだね。ノラ猫くんが独占欲を出しているからそうするよ」


 夕飯の準備は途中のため、キッチンに移動した三人だが、クリスは男性()が怖いようでイスを離して座っている。

 彼女の様子に真は小さくため息を吐くと、伐は振り返らずに料理を続けながら言う。

 彼の反応に真はクリスをからかうより、伐をからかった方が面白いと思ったようで口元を緩ませるとクリスはその言葉には興味が湧いたようで伐の背中へと視線を向けた。

 真はクリスの反応をしっかりと見ており、ニヤニヤと笑う。

それに気が付いたクリスは慌てて視線をそらすが耳はしっかりと伐の言葉を期待している。


「バカな事を言っているんじゃねえよ。それより、本当に何しに来たんだよ?」

「……」

「ノラ猫くん、白猫ちゃんがダメージを受けているよ」


 伐はくだらない事を言うなと言いたいようで大袈裟なため息を吐くとクリスは小さく肩を落とす。

 その様子に真は彼女が少し可哀そうになったようで苦笑いを浮かべるが、伐がクリスを気にかける事はない。


「それより、その白猫ってのは何だ?」

「ほら、ノラ猫くんが拾ってきたからね。それに肌も透き通るようにキレイだしね。警戒されているし、名前で呼ぶのはどうかと思ってね。ほら、逃げられるし」

「落ち着け。別に取って食われはしねえよ。それにこんな場所で暴れるな」


 伐は真のクリスの呼び方が気になったようで首を捻ると真は伐とかけて見たと笑った。

 その笑顔にクリスは恐ろしい物を見たかのようにイスから立ち上がると別の背に隠れてしまう。

 伐はキッチンの中で騒ぎまわるのは危ないと言うとクリスを引っ張り出し、真のすぐそばに座らせる。


「大丈夫だよ。僕の守備範囲は十才以下だから」

「そ、それはそれで危ない人だと思いますけど……警察に通報した方が良いんじゃないの?」

「通報しなくても良いよ。僕がその警察だからね」


 警戒するクリスを見て、真は心配する事はないと笑うがその言葉は確実に犯罪であり、クリスはすぐに伐の背中に隠れると伐に警察に通報した方が良いと言う。

 彼女の反応は予想通りだったのか、真は楽しそうに笑いながら警察手帳を取り出して、彼女の前で開くとクリスの顔は固まった。


「本当に警察なの?」

「残念ながらな」

「その反応は酷いね。僕が警察(こっち側)に居るからノラ猫くんだって美味しい思いをしているんじゃないか。君の家庭環境やその他もろもろ、補導しようと思えばいくらでもできるし、少年院だ。他の施設にだって引き渡す事だってできるんだよ」


 クリスは驚きで声が出てこないのか、何度か口をパクパクと動かした後、伐の服を引っ張り聞く。

 伐は否定する事はなく、クリスは事実を受け止められないようで眉間に深いしわを寄せていると真は自分がどれだけ、裏から手を回して伐を守っているか主張する。


「別に頼んでねえよ。だいたい、俺が足の付くようなへまをすると思っているのか?」

「あまり、その姿は想像できないけどね。大和の件もあるからね」

「……」

「白猫ちゃん、君がノラ猫くんの特別になれたら、教えてあげるよ」


 真の言葉を鼻で笑った伐は鍋の様子を見ようと思ったようでコンロの前に向かう。

 その言葉に真は苦笑いを浮かべるが、急に真剣な表情をする。

 いつも平静に努めている伐が大和の名前に小さく動く、その様子にクリスは何があったかわからないようで不安そうな表情をすると真はクリスをからかうように笑うが、その言葉にはクリスが深入りすべき事ではないと言う拒絶に意味が込められており、クリスはうつむいてしまう。


「余計な事を言うんじゃねえよ」

「はいはい。悪かったよ。それより、夕飯はまだ?」

「後、少しだ」


 伐はクリスの様子にため息を吐くと真に釘を刺す。

 真はおざなりに返事をすると夕飯はまだかとわざとらしく腹をさすり、伐は鍋の火を止めると食器を並べて行く。


「それで、いつになったら、用件を言うんだ?」

「言っても良いけど、白猫ちゃんに聞かせても良い事かな? と思ってね」

「気にするな。こいつは当事者だ」

「そう……」


 夕飯を食べ始めると伐は真がいつまでもここを訪れた理由を話さない事にしびれを切らしたのか舌打ちをする。

 真は一度、クリスに視線を向けると彼女の前で話して良いのか悩んでいるようであり、首を捻ると伐はクリスにも関係ある事だと言う。

 伐がそう判断したなら、聞かせるべきだと思ったようで真は真剣な表情をするとゆったりとしていたキッチンの空気は重くなって行く。

 彼女は伐の言葉が何を示しているかわからないようだが、二人の放つ重々しい空気に息を飲んだ。


「……伐から連絡があって駆け付けたんだけど、襲撃者は手の施しようがなかったね。不審死として解剖もしてみたけど、心臓が人の手によって握りつぶされているようにつぶされていた。殺害方法が現実的にはあり得ない殺され方だね」

「そうか」


 下校の途中で攻撃を仕掛けてきた女性が倒れた時に伐は真に連絡を入れており、真は女性の死因について報告する必要があったと判断したようである。

 死因と言う言葉が出た事にクリスは状況がつかめないようだが、伐は表情を変える事無く、夕飯へと箸を伸ばす。


「ノラ猫くんは反応が薄いね。状況を聞いた限りだと人に触れる事無く、殺す事ができる相手がいるって事だよ。そんな人間がこの街にいるってなると恐ろしくてご飯も喉が通らないよ」

「そう思うなら、箸を止めろよ」

「ノラ猫くん、この糠漬け美味しいね」

「ば、伐、死因とか殺害方法って、冗談だよね? ここは日本だよ。安全な国だよね?」


 真は伐の反応がつまらないと言うと女性を殺した相手の底知れぬ不気味さに大きなため息を吐くが箸が止まる事はない。

 話している内容の割には伐と真の間に流れる空気は緩くなっており、クリスは話と内容のギャップに冗談だと思いたいようだが当事者と言われているためか声を震わせながら聞く。

 その目は酷く不安げだがどこかで受け入れる覚悟もできているようにも見える。


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