プロローグ
中学を卒業し無事に義務教育を終え、二度目の春を迎えた高校二年生の春。
特にやりたいことも見つからず成績も中の中。それにくわえ他人よりなにか秀でた能力もないという平均中の平均。
こんな自分を誰かが認めてくれるわけもなく特別仲のいい友達もいない。よってクラスメイトとはクラスのこと以外話すこともなかった。
それが高校一年を振り返って語れることだった。
それは進級した後も変わらず、クラス替えが行われた新しいクラスに入っても誰かに注目されることもなく、去年同じクラスだった奴らに軽く挨拶される程度のものだった。
特別目立ちたいというわけではないが、何かしら刺激を求めているのは確かだった。
もっと…、俺を驚かせてくれるような出来事はないのか……。
だからなのかも知れないが読書量はかなり多い。
本を読んでいるだけで、その主人公になったような気分になる。そこでの自分は様々な問題にぶち当たりはするものの心の底から嫌がってはいない、ように思える。━━そう、生き生きと動いているのだ。
このような感情を持ったことのない自分は心がないのではないだろうか。
そんなことを考えたこともあったが、結局大した答えを導きだせず悶々とした日々を過ごしている。
だから、今日も自分の席に着き主人公になったような気分を味わいながら本を読み進める。新しい自分を求めながら。
気づいたときにはSHRが始まることを告げるチャイムが鳴り響き各々が席に着き始めた。
鳴り終わると同時に教室の前扉が音を立てて開き担任教師だろう人が入ってきた。
「始めまして…ってやつはいないか。今日からこのクラスの担任になった━━━」
去年の数学教師だった為、新鮮味が全くなく適当に聞き流しつつ他の事を考えようかと思ったとき、引っかかる言葉が耳を掠めた。
「新学期早々、転入生を紹介しようと思う!」
それを聞いたクラスの連中はざわざわと騒ぎ出す。
「こらー、、少し静まれー!!━━━ほら、入って来い」
担任が廊下に向かって声をかける。
それに応じて入ってきた女の子。
「…西原……静乃…です」
静かで凜としたこの声は騒がしい教室の中でもよく聞こえてきた。
きれいな声だ…。
それは俺だけの感想じゃなかったと思う。教室内が嘘のように静かになった。それは教師も例外ではなくポカンとしている。
瞬きしたことにより正気を取り戻した先生は口を開く。
「あ、ああ。ありがとう。西原は…そうだな。空いてる席に座ってくれ」
はい、と返事した彼女はちらりとこちらを見た、気がした。
彼女が席に座るとうん、と頷いた先生はこれからのことを連絡し始めた。
俺は彼女とは一生関わることはないだろう、とぽつり心の中で呟き連絡事項を頭の片隅にいれることにした。
高校生になって二度目の生活が始まろうとしていた。