IF 茨木さんが男だったら~真面目に書きましたVer~
私たちは今日高校を卒業する。
嬉しい、悲しい、寂しい、皆がいろんな気持ちを抱えている。
けれど全員が悔いの無いよう、思い思いにそれぞれの形で高校生活に終止符を打つ。
私も泣きながら香穂ちゃんと抱き合い別れを惜しみ。石田君とは大学も一緒のためまたよろしくと熱い握手をかわし、最後に出会った東野君は寂しそうにあの時の結婚は冗談だよと言って最後に一度だけ私を抱きしめ、その場から去っていった。
卒業式も終わりほとんどの人が帰った頃、私は母と別れ一人思い出の教室に向かっていた。
覚えていないほど通った教室へ続く廊下も明日からは通らないのだ。
茨木さん、香穂ちゃん、石田君と笑いながら通った道、なんでもない廊下ですら思い出はあったのだと無性に泣きたくなる。
教員は全て外で卒業生を見送るため出払っていた。そのため誰もいない校舎を1人で進んでゆく。
目的の教室の扉は開いていた。そこから顔を出すと窓によりかかっていた茨木さんは私に気付き微笑みながら近寄ってくる。半年ぶりに見た茨木さんは相変わらず綺麗。けれど、2年前より背は伸び、女性的な美しさは中世的な美しさに変わっている。
「お待たせ、茨木さん。待った?」
「ううん、こっちも今来たところ」
私たちのお決まりの問いかけと回答。
茨木さんはずっと待っていても必ずこう答えるのだ。
でも私もそれを言わない。優しく微笑む茨木さんに笑い返す。
「茨木さんから久しぶりに連絡あってびっくりしちゃったよ」
「ごめんね、どうしても言いいたいことがあって。望月さんにとっては知らなければよかったことかもしれない、けど、どうしても言いたかった。もう気付いているかもしれないけどね」
苦笑する茨木さんを改めてみる。見上げなければもう顔を見ることが出来ない。
「背が伸びたね、180cmある?」
「183cm。成長痛が酷かった」
「胸しぼんだ?」
「ふふ、作り物だから萎まないよ。取っただけ」
「声低くなったね、のど仏もある」
「うん」
「男の子、だったんだね」
「うん、ごめん」
ずっと黙ってて、そう言って茨木さんは唇を噛んだまま黙り込んでしまった。
「なんだ、よかった」
「えっ?」
「嫌われたわけじゃなかったんだ」
はーとため息をつくと一緒に強張っていた体から気が抜けたようで床に座り込んだ
。
半年前、声が低くなりはじめた茨木さん、最初は風邪だと言っていたけれどその数日後、突然学校に来なくなった。
電話やメールをしても返事は返ってこない。東野君に聞いても教えられないと言われてしまいそのまま連絡は取れず。結局だいぶ経ってからクラスメイト達と一緒に担任から茨木さんは親の都合で転校したと聞かせられた。
なんでこんな大事なことを教えてくれなかったんだろう。
友達じゃなかったのかな。本当は迷惑だったのかな。
質問は後から後からやむことなく沸きだすが残念ながらその問いに答えられる人はもう近くにいない。
あの優しく穏やかに私を待っていてくれた人はもういないのだ。
それでも時間は進む、ようやく茨木さんがいない生活になれ、あと少しで卒業というときに未練がましく残していたアドレス帳の名前が携帯に表示された。
『卒業式後、教室で待っています』
この一言だけが書かれていた。
本当は何を言われるか怖くてしょうがなかった、けれどどうしても会って話がしたかったのだ。
なぜ今まで茨木さんが男だときづかなかったんだろうか。
人の思い込みとは存外恐ろしいものなのかもしれない。
そう考えていると、座り込む私の手をとりそっと、だが力強く引っ張り上げた茨木さん。ふわりと沈丁花の香りが花を掠める。
その手もやはりすらりと伸びているものの筋張っていて男性の手をしている。
掴んだ手を見つめたまま時折優しく握り、離す。
幾度か繰り返した後、茨木さんは口を開いた
「柔らかい」
「運動あまりしてないから」
「ううん、女の子の手。この手にずっと触れたかった」
そういわれ思い出した、茨木さんは人に触れられるのを極力さけていた。人と関わることすら最初は避けていたのだった。
「ほんとは17歳の誕生日を迎えるまでで転校するつもりだったんだ。でも、あまりにも望月さんと一緒にいる時間が楽しくて、もう少し、もう少しってずるずると時間を伸ばしていたら体のほうが先に限界を訴えてしまった」
曰く、久しぶりに生まれた男児に厄災が来ないようにと茨木さんの祖父は女児の名前をつけ女として子供時代をすごさせるように命じたらしい。
そしてご両親も17歳の誕生日までという条件でそれを了承したそうだ。
「そんなことありなの?」
「ありなんだ。祖父はここの地主だから」
驚く私に悪戯が成功したように微笑む茨木さん。
繋いだ手をそのままに茨木さんは覚悟を決めたようにこちらを見た。
目を合わせたことは幾度となくあるがそれは茨木さんが女性だと思っていたときの話だ。
男性だと分かった今ではとても気恥ずかしく、今すぐにでも視線を逸らしてしまいたい衝動にかられる。
「好きだよ、俺と付き合ってほしい」
無理だ、今までずっと女の子としてみてきたのにいきなり男性として見るなんて出来ない。断ろうと口を開く前に茨木さんは微笑みでそれを制止した。私はその微笑にとても弱く、口を自然に閉じてしまった。
「そうだね、望月さんがそんな器用じゃないことはしってる。でもさ、これから知っていってくれないかな?それからでも決断をするのは遅くないと思うんだ。ね?」
「それは確かに」
決断を先延ばしにすることは好きではない、けれどここで全てを決めてしまうことも正しくはないと思ったため茨木さんに同意を示すため頷く。
嬉しそうに笑った茨木さんはそのまま教室から出て廊下を歩き始めた。手を握られたままの私も当然連れられていく形になる。
「どこ行くの?」
背中にそう問いかける
振り向いた茨木さんはにこにこと滅多に見れない表情で笑っている。
「さぁ?どこでもいいよ、望月さんと一緒なら」
「じゃあね」
あぁ、困った。
彼女、いや彼に押し負けるのはそう遠くない未来かもしれない
書いているうちにこれ誰?状態になってました。
ご閲覧ありがとうございました。




