かわいい後輩君達 3
後日、恵亮からメールがあって今度は二人で会う事になった。章仁は授業と練習があるからと今回は断ったそうだ。
「あいつもうじきでっかいホールでオケとやるんすよ、演奏。だから今大変っぽいですね」
「え、そうなの?」
「普段ぼっけぼけなんすけどね。マンドリンだけは天才だから」
そう言う恵亮もクラシックギターのケースを背負っていて、この後レッスンに行くらしい。すごいなあと感心していると「そんなアツイ目で見られるとどきどきっすねぇ」とにかっと笑う。冗談めかした言い回しに、くすり。
「そういやプリクラ、先輩何か言ってました?」
「あー…撮ったんだよって見せたんだけど、へー、で終わっちゃった」
「マジですか? あれぇ…?」
おかしいなあというような調子なのは何故だろう。
「や。何かこう…もーちょっとリアクションないもんかなと…」
「そう?」
「んー……あっ、そうか。アイツもいたからか? んー…」
「……鷹野君ってさ、浩貴怒らせたいの?」
「え? 違いますよ~面白い事好きなだけっす」
これだけでは浩貴をどうしようとしているのかさっぱりわからない。
「あの人あんま崩れないでしょ。あーゆー人いじるの楽しいんすよね俺。素が出そうなのってシャオさん絡みなんじゃないかなーと思ったんですけど、あれはハズしたかなあ」
「お、面白くはないんじゃないかなあ…?」
「ねーねーシャオさん、先輩と写メとか撮らないんすか?」
話が変わった! しかもまた何か企んでる! というのはこの流れでわかる。
「無い、よ…?」
「待ち受けに欲しくなりません?」
「いや、それは……恥ずかしいよさすがに」
「あれ? そんなもんっすか?」
「無理無理っ! 撮るまでが既にハードル高いよっ」
「えー? 簡単じゃないっすか写メぐらい。つか撮りたいっしょフツー。過程も楽しいんすから」
「そんなの楽しまないよ浩貴は…」
「いやいや同じ男としてそこだけは断言します。ついでに、彼女と撮った写メ持ってたいなーって気持ちは大なり小なりありますって」
じゃ、撮りましょうかとさらっと提案――というかもう確定事項だ――されて、えっ、と驚いている間に恵亮は携帯を操作していた。彼の押せ押せな勢いに置いてけぼりを食って、でもファンで友達としてはツーショット写メは嬉しいなとちょっと思い始めていたりする。章仁とも今度撮りたい、とも。
「そんじゃ、笑ってー」
寄って、促されるままに顔を作るが緊張と少し照れくさいのとで上手く笑えているか……
「お。かーわいい♪」
ほら、と画面を見せてくれるが、何だか変な顔になっちゃったと急に恥ずかしくなってきた。しかし撮り直すのはもっと恥ずかしい。身長差はあっても体は近いのだ。
「送っときますねコレ」
「あ、ありがとうっ」
すぐにメールで添付されてきて、フォルダに保存保存と意識を携帯に向けていた時だ。恵亮の携帯に着信があった。
「んん…?」
「え? 何?」
「森矢にも送ったんっすよさっきの。レスポンス早ぇなあいつ、珍しい」
いつの間に! しかしよくよく見てみたら先ほどのメールの宛先は二件ある。自分と章仁のものだ。早業というか器用というか……本文に【ラブラブデートなう(`ω´)♪】なんて書いてあってぎょっとした。
彼は電話に出て喋り出したのだが、急に動きが止まった。……あ、あれ?
「シャオさあぁん……俺まだ死にたくないんすけど」
「えーーーっ?! 何? 何でっ」
「先輩ですよー森矢の携帯で掛けてやんの。あーやべえ……いやこーゆーの狙ってたけど何であっちにいるんだよあの人」
「か、貸してもらっていい?」
「いいんすか?」
狙ってた発言は引っかかるけれど、恵亮の様子に心配しない方がおかしいだろう。とにかく選手交代だ。
* * *
「浩貴? 鷹野君に何言ったのもう!」
電話を拡声モードにして「これのが喋りやすいっすから」と促すとすぐさまシャオさんは声を荒げた。しかし向こう側に反応がない。
「先輩、聞こえてます?」
「こーき?」
「………聞いてる」
絞り出すようなすごい声だ。後がちょっとだけ怖いが今はシャオさんに矛先が向いているので流れを見守る事にする。
「後輩君に酷い事言っちゃだめだよ、先輩なのに」
「……………」
沈黙再び。(うわあ、黙ったすげえ、とは口には出さないでおこう。)しばし間があって、溜め息が一つ。
「…お前なぁ、あんな写メ何ホイホイ撮らせてんだよまったく」
「友達でとか撮るでしょ?!」
「だからってあれは無いだろ」
「鷹野君は浩貴の後輩君だし友達だよ? な、無しじゃないよっ」
「……………はぁ…」
あちらの心中では色んなものが渦巻いているに違いない。妬いてるなら妬いてるとか、腹立つだとか言えばいいのにとついにやりとしてしまう。だが弥坂は言わないだろう。向こうには森矢・こちらには自分がいる状況でそんな様は見せたくないはずだから。
「…もういい。とにかくホイホイ遊ばれんなよ」
相手はこれで話を畳む気のようだ。え、そんだけ? と若干の物足りなさを感じていた直後。
「こっ…こーきと撮ったことないのに鷹野君と撮ったから怒ったの、かな? ごめん、今度一緒に撮ろう? ねっ、そしたら解決! 持ってて嬉しい感じなように頑張るから! だから鷹野君いじめちゃだめだからね? ねっ!」
「ぶふっっっ!!」
シャオさんそうきたか! と我慢していた分思い切り噴き出してしまった。さっき話した事が丸々飲み込まれてこう出てくるとは。
「ちょっ、バカ!! お前何でそうっ――あぁもー…何なんだこいつ、ホント……」
彼女の発言で頭が痛いらしい気配に笑いが止まらない。できるなら顔も見てみたいぐらい、おかしい。
「あはははは! やーべぇ、も、サイコーにおかしいっ」
「浩貴? あの、ええ? あれ? 鷹野君笑っ…あれ?」
「いや、あの、シャオさん…も、あなたホントすげーっす。天才」
「は? 何でっ?!」
「あーもーだめだ。先輩、シャオさん相手じゃ形無しなんっすねぇマジで」
携帯が静かだなと思っていると「もしもし、森矢です」と声がして驚いた。あちらも選手交代かと身構えていると、
「あの……先輩すごい辛そうっていうか――何か色々複雑そうなのでこの辺で勘弁してあげてもらえませんか」
「何っ、何が!?」
「えぇと………先輩的には公開処刑みたいな感じだと思うんで…写メはあのー…お二人でじっくり話し合ってからって事でいかがですか? 嬉しくないわけじゃないと思うんです。彼女さんからの申し出ですし、撮ったことないなら尚更――……って、僕が言うのもおかしいんですけど…」
味方だった。弥坂にとっては余計な追い打ちとも言うが。シャオさんは森矢の言葉に神妙に聞き入っていて、「う、うん…大丈夫。ちゃんと、する…」ときちんと返事までしているのだからどうしようもない。
「よかった。…先輩。そういう事なので後はお二人で――」
「っ……もういいからお前も喋んなホントにっ…」
「あはははは! もう何、この人らマジおもしれえぇぇ」
天然ボケな彼女は大変だ。そして天然ボケな後輩も同じくらい大変。そういう事だろう。弥坂にとっては災難以外の何物でもないこの流れだが、いやはやなかなかの見物である。腹筋が痛い。
後日こっそりシャオさんに聞いてみたら写メは撮ったそうで。ちょっと顔が赤かったのを見て、なるほどあの後に叩かれなかったのはそういうわけかとにやり。(やっぱり何だかんだ言って弥坂も楽しむ所はしっかり楽しんだらしい。)
こんな事があるから、落とされる雷がやばいかもしれないと思いつつ彼女で遊ぶのもやめられなかったりする。
*
かわいいお姉さんは好きですか。
チャラ男は荒みきってるので純朴な彼女さんの反応が新鮮で楽しすぎるそうです。先輩、不憫(笑)←笑ってるし
森矢も小龍も普通の遊びに慣れてないので、そういう意味では大学生らしくないなぁと..ただわいわいやらせて楽しんだだけの小話になりましたが、ちっとでも楽しんでもらえてたら嬉しいです(=゜ω゜)ノ