かわいい後輩君達 2
「ちょ、おまっ…! 今のダメだろっ」
「そんな事言われても」
あれからシューティングゲームを一回りして、今エアホッケーに熱い二人がいたりする。最初は章仁が押されていたのがいつの間にやら形勢逆転していて、やたら悔しがる恵亮は賑やかだ。
「シャオさん代わって! こいつ意外と強いっ」
「ええっ?!」
「ちょっと――鷹野格好悪いなあ」
先ほどにやにや笑われた仕返しか、今度は章仁がにやり。「うるせー!」と言い返す様は見ていて笑いがこみ上げてくる。二人の間合いが本当に兄弟のようなのだ。(選手交代した所で急に優しいショットになったのにも「贔屓!」と喚いていた。)
しばしラリーがあって――
「えいっ!」
カコンッッ!!
景気よく音がして、やった、とガッツポーズ。
「あれっ? 嘘、あれ?」
「シャオさん巧ーい!」
「へへー、こういうのは得意なんだ」
シューティングとかのゲームは下手だが、運動が絡むと結構自信がある。昔から体を動かすのは好きだし、サッカーやバスケなんかも高校時代よくやっていた。(昼休み男子に混じって云々には言及しない事にしよう。うん。話が長くなるから。)
「えぇー…ちょっと、鷹野代わってよ」
「森矢格好悪ーい」
「とか言いながらやる気満々なのは何」
結局、誰が勝ったかという事よりも交代でわいわいやれた事の方が楽しかった。「シャオさん、見た感じと違いすぎる」と言われたのにはきょとんとしたけれども。そんなにぽけっとしているだろうか?
併設されていたボウリングもして時計を見るとお昼を過ぎていた。そろそろ飯行きますかと恵亮が言って、三人でボウリング場を出る。
「彼女さんは好き嫌いとか、あるんですか?」
「んん…好き嫌いは無いよ。ファストフードでもいいし、ラーメンとかも行くし…」
「へー何かあれっすね。男子高校生的な…そーゆーがっつりなのでも平気なんすね」
「そっそうかな?」
あははと笑って誤魔化したのはこちらの勝手だ。多分自分のこれまでを話したら二人はぎょっとするに違いない。
出る途中UFOキャッチャーが目に入って、積まれたぬいぐるみやマスコットの山を思わず凝視してしまう。ふかふか丸いフォルムがかわいい。しかもあんなにいっぱい。ああでもあれはできないんだよねと視線を戻すと章仁とまた目が合った。ほぼ無表情ながら目が合うとびっくりする。
「お好きなんですか?」
「うあ、あの、ああいう丸っこいのに弱くて…」
「んん……鷹野。ちょっと待って。あれやりたい」
「あ? 何、どれ」
数歩先を歩いていた恵亮も足を止めて章仁が向かう先についてゆく。今度は自分があわわと慌てる番だ。
章仁は中を見つつ機械の周りをぐるりと一周してから「あの辺のでもいいですか?」と指を指して訊いてきた。こちらがえぇ、でも、と言っている間に小銭を入れ、ピロン、と開始の音が鳴る。
「あの、いいんだよ?! 見てただけだからっ…」
「まーまーシャオさん。お手並み拝見って事でいいじゃないっすか。俺も見てみたい」
簡単には取れそうで取れないとは知っている。数百円でも勿体ないとはらはらしつつ、もう見守るしかないのだが……一回目はころんと山が少し崩れただけだった。
「森矢君ー…い、いいからお金返…」
「? 大丈夫ですよ」
「オマエの大丈夫は信用できねーんだって」
高見の見物状態な恵亮は平気で笑っている。何だか申し訳ない気分になってきた。しかし見ていると二回目にはいい所にマスコットは動いてきて、ラストの三回目にはころりころりと二つ穴に転がり落ちて来た。わあっと感動して拍手している間に、章仁はかがみ込んで取り出し口からマスコットを引っ張り出す。
「はい、よかったら両方どうぞ」
「い、いいの? あのお金…」
「いいですよそんなの」
久しぶりにやったんでこんなもんですね。
そう言って苦笑を浮かべるので聞いてみると、彼の姉がこういうゲームが好きなんだそうな。連れ回されコツを見聞きしている内に自分もできるようになったという。恵亮も初耳だったらしく「すげーけど何でそれを女子にやってやらないかなぁ」となんて言って笑っていた。
「欲しいなって人がいる時にやるもんでしょ。こーゆーのは」
「オマエらしいわ、」
「鷹野もね。…じゃあ、これ」
「ありがとう、大事にするね」
手に乗せられたマスコットはひよことうさぎで、どちらもパステルカラー。まん丸で愛らしい。見ているだけでへにゃりと顔の筋肉が緩んでしまうのに、章仁がくれた思い出付きだ。ああかわいい嬉しすぎる…!
「やばい超かわいい」
「鷹野自重して。死ぬよ」
「……危ね。まだ死にたくねーもん俺…」
二人がこそこそ話していたのにことりと首を傾げてみせるが「いやいや、それより飯行きましょう」て恵亮がへらりと笑って誤魔化された。もしかして二人が懸念しているのは――とふと思い浮かんだ人物がいたので、後で聞いてみようと建物を後にした。
* * *
「浩貴ってそんなに怖い?」
単刀直入に尋ねると、向かいに座った章仁は目を丸くした。同時に、隣でごふっと噎せる恵亮。この反応で、ああやっぱりなと納得した。
「大丈夫だよ。遊びに行くぐらいでいちいち怒らない…」
「多分、彼女さんが知らないだけ……かな、と…」
「そんな事ないよ。今日も普通だったし」
「いやいや、シャオさんにはそう見えただけっす」
あの人すげーガード堅いんすからね。
呼吸も整ったらしい恵亮曰く、浩貴はクラブで彼女の事を訊かれてもまともに相手をしないそうな。食い下がって「しつこい」とものすごい目で睨まれたとも。
「恥ずかしいとかではなくて?……私が、」
「むしろ自慢の彼女でしょうよ。ご本人に言うのもあれですけど、シャオさん人懐っこいでしょ? 彼氏としちゃ心配なんっすよ色々」
「……男の子ってわかんない…」
ならば普段の扱いは一体。心配はよくされる。転けるぞ、とか前見て歩け、とかいう幼児向けの心配をだが。彼氏としてというよりも保護者のような物言いなのだ。
「いっつも子ども扱いなんだけど…同い年なのに」
「弥坂先輩、彼女さんを大事にしてるからこそそうなんじゃないですか?」
「お、珍しい。いいとこ突いてるな」
「上からだなあ、」
章仁はそうぼやいて。恋愛経験値は恵亮がダントツに高いというのは小耳に挟んでいる。
「俺らと遊ばすって時、あの人何て言ったと思います?【お前らは本気じゃないからいい】って。周りが敵だらけに見えてしょーがないんっすよきっと。自分が大事に大事にしてるとこに茶々入れられんのは我慢ならねぇってやつ。だって確かあれでしょ。付き合うまでちょー長かったって」
「う、うん……それは知ってるんだ?」
「やっとこさ【自分の!】ってなって独占欲バリバリですよそりゃあ。でもどっかで妥協しとかねーとシャオさんが自由にできないっしょ? そう考えたら理性的なタイプだなーって感心しますねぇ」
「はあ…」
「言ってたね。僕もびっくりした。…っていうか、未だに鷹野が心配だよ僕は」
「手ぇ出すわけないだろ。俺まだ死にたくねえもん。フツーに遊ばせてもらってりゃ満足」
かわいいおねーさん大好き、とへらりと笑ってみせる恵亮にまたあわあわしてしまう。お世辞でもどきどきする。
「あははは。ほらあ、そーゆーのがね、先輩は心配なんすよ」
「ええぇ…普通の反応だよねコレ……」
「彼女さんすごく素直ですよね。正直者というか――…先輩がほっとけないの、わかります」
「森矢君までそんなぁ…!」
「あ、す、すみません…」
気楽な相手だと思った事口に出しちゃうんです。ごめんなさい。
ああ、そんなしょんぼりした顔でこんな事を言われたらもう……と前のめりに傾ぎそうになった。安心しているのはこちらこそで、話したのは二回目だがすっかり気楽な距離感でいる。
「い、いいんだよ? あの、その方が嬉しい」
「そ…ですか?」
「こいつがこんな早く慣れるのレアっすよー似た者同士だから?」
「……かも?」
「んん? 森矢君の方がしっかりしてない?」
そう首を傾げると恵亮はふはっと笑い出して「やっぱそうだ、同じ!」と言う。はて……?
「まあそれはともかく、先輩がシャオさんすげー大事で猫可愛がりしたいって事だけは確かっすから」
「僕らはあくまで後輩ですし…セーフみたいなので、ご安心を」
何だか妙な保証を突きつけられ、しかしやはり腑に落ちないなぁと思ってしまうのはこれまでの浩貴の行いの所為だと思う。
*