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ファーストインプレッション 1


 鷹野恵亮とはそれぞれの楽器の先生に連れられていた時が初対面だった。こちらはマンドリンケース、あちらはギターケースを背負っていて、小柄な自分とは違い背もそこそこ高くて目鼻立ちもくっきりした彼はおおよそ楽器なんかやってそうにない雰囲気だった。学校にもいる"ちょっとチャラい奴"に近い。


「タカノ君。よろしくしてやって」


 高野かなと思ったら画数の多い【鷹】の方で。私服だと名札が無いのでそれは後から知った事だけれど、あちらも【モリヤ】と聞いて森谷だか守屋だかを想定しただろう。それ以前に、彼の中にはこちらの名前すらきちんと残っていたか怪しい。お互いどうもと会釈するに留まって、話していたのは専ら先生同士だったような気がする。

 発表会でデュオをという話は当人らの意志確認無しに決定していて、自分が相手のレッスン室に赴いた。鷹野はその時「どーも」としか挨拶しなくて、誰と組まされようが興味ない様子なのは見てすぐわかった。ソロの方が気楽なんだけどとこぼしてもいた。


「えーと……あんた」

「森矢章仁です。森林に、射る矢」

「あ、そう」


 字面まではよかったんだけどと言うように目を瞬かせる鷹野は、正直やりにくいかもなぁと感じさせるそっけなさで。しかし先生の手前もあってか音合わせの時は自分の意見も口にし、こちらはこちらで同じように注文もつけた。レスポンスが早くて、いい音出すなぁこいつと楽しかったのはどうやら自分だけだったらしい。彼は終わると「そんじゃ、帰ります」とさっさと引き上げていった。愛想もへったくれもない。


「女の子の名前は覚えるけど男の名前はすぐ忘れるんだあいつ。それはそれとして、君らいいね」


 森矢君は大人で助かる、と彼の先生は苦笑いしていた。組ませる生徒同士の反りが悪いと、指導者としては困るのは学校の教師もプロ奏者も同じみたいだ。いいねと言ってもらえたならそれで構わなかった。やるからにはきちんとした形で発表の場に出たい。



 その足でレッスンにと自分の先生の所に向かうと、話題は当然「どうだった? 鷹野君」から始まった。マンドリンの調弦をしながら少し考えて、


「ツンデレっぽかったです」


 と、答える。ふはっと先生は吹き出した。


「どんな感じに?」

「んー……僕には興味ないって感じだったんですけど、弾いてたらがつがつきて。音は正直だなあと…」


 それでツンデレ? と先生は笑いっぱなしだ。


「彼ね、誰かと組ませるとがっつり"喰っちゃう"のよね。負けん気が強いっていうか、ギター=マンドリンのお供え物なのは嫌みたいで。そんなつもりないんだけどね、勿論。森矢君はそういうのかわして合わせられるんじゃないかなーとは思ったんだけど、よかった」


 合わせる意識はしているが、かわすという意識をした事はあまりない。


「感覚なんじゃないかな」

「ですかね……自分じゃよくわからないです」

「バランス取るのが上手よ、あなたは。相手のこうしたいなっていうのも感じつつ自分もこうしたいっていうのがちゃんとやれてる」


 他人と衝突しないタイプなのは楽器でもそうで、先生の勧めで社会人団体に混ざらせてもらっていてもかわいがられる側だ。才能がとか年がどうのとか陰口を叩かれないのは相手が大人で、こちらが子どもだからだとも何となくわかっていた。15の少年を本気で相手にしてくれる大人の方が少ない気がする。


「うまくやれそう?」

「……鷹野君のギターとは」


 本人とはどうなるかは自分でもわからない。それはあちらも同じだろう。


「あははは! 正直でよろしい」


 そんじゃあ、始めようか。と、一時間きっちりのレッスンが始まった。こうしてよく笑う先生が好きで、指導者としても一人の成人女性としても尊敬している。プロにも気易い人はいて、同じ楽器を好きな者同士対等に扱ってもらえるのは素直に嬉しかった。



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