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お嬢さんは俊足

少し前よりも長いですが、やはり短めです

                                     .

             *       *        *


「んー……なぁにしよっかなー……」

 ぶらぶらと暇人らしく、しかし心中はご褒美のことを念頭に置きつつノアの笑顔を想像してひとりでニヤけてしまったり。たまに見せる笑顔がどうしても好きすぎるのだが、最近はもうずっと見ていない気がする。前は、二桁ほど昔だったような気も――

 いやいや、落ち込むと戻れなくなる。そんなことで泣くほど子供じゃあない。

 ……。

「……だいじょおぶ?」

「へ!?」

 突然、文の腕を幼い手が掴んだ。

 綺麗な亜麻色の瞳の少女が、じっと文を見つめていた。

「あ、いや……何?」

「……」

「あ……えーと、俺に用事かな?」

 じーっと、ただまっすぐに。小さい子は苦手じゃないが、いきなりだと怖い。

 肩に垂らしたおさげ髪が、少女のジャンプで揺れた。

「うぉっ、何?」

「お兄ちゃん、どこの人?」

「え?あー……ちょっと向こうの方」

「ふぅん……」

 詳しく言ってしまうとノアのいかづちが落ちる。こんな小さな子が信じるとも思えないけど。

 どうやら買い物帰りらしく、少女は物を入れたかごを大事そうに抱えていた。

「て、手伝おうか?」

「ううん、いいの。知らない人には話しかけられてもついて行っちゃだめって」

「……そうだよな」

 明らかに向こうが話しかけてきたが。気にしちゃいけないんだろう。

 さらに強く文の腕を引き、少女は笑った。

「お名前は?」

「んー……教えていいわけ?」

「だって、お兄ちゃんおとなでしょ?さっきは泣きそうだったけど……」

「泣きそうって……んー、ま、いっか」

 名前くらいで怒られはしないだろう。さすがにバレるとやばいかもしれないが。

 ニコッと愛想よく笑い、文は少女に言った。

「文って言うんだ。よろしくな、お嬢ちゃん」

「おじょうちゃん?私、そんな名前じゃないよ?」

「いやいや、そうじゃなくて……」

「私はリリス。リリスなの、おじょうちゃんじゃないよ」

 舌ったらずというか、言葉を知らないのは仕方がないというか。幼い子に文句を言っても仕方がないのでとりあえずスルー。

「で、リリスちゃん?俺は何すればいいの?」

「うーん……お兄ちゃん、あやって言ったよね?」

 まるで知っているのかのような馴れ馴れしさ。が、年齢おかげで文句は思いとどまった。

 なるべく穏やかに、文は尋ねた。

「俺のこと知ってんの?」

「……付いてきてくれたら教えるよ」

 知らない人には(以下略)。こんな少女について行っても害はないだろう。むしろ、俺がノアに叱られる。

 文が答えをためらっていると、リリスは瞳を潤ませて文の腕を引っ張った。

「ふぇっ……ぐすっ……」

「!?わかった、わかったから!行きゃあいいんだろ!?」

「ホントに?わーい!それじゃ、迷子にならないでね」

 態度急変。いきなり、リリスは荷物の重さをも無視して駆けだした。

 尋常じゃないほどに速いリリスを追い、文は全速力で走り始めた。


                   *


「つっかまえてみてよっ、おにーぃちゃぁーん!」

「っだぁぁあぁ!待ちやがれぇぇ!!」

 最初は追いかけっこだった。だが、リリスは成人男性で吸血鬼の俺でさえかなわないほどの脚を持っていた。恐ろしいまでの速さで、およそ普通の人が見れば風にしか見えないであろう。

 

 間違いなく――あのお嬢ちゃんは『化け物』だ。


 少々先を小鹿のように駆けていくリリスを追い、文は走り続けた。

「っ……あれ……?」

 一瞬目を離した隙に、リリスは眼前から消えていた。

 ――いつの間にか暗い路地裏に入っていたらしく、文はあたりを見回した。

「どこだよココ……」

 吸血鬼だけども。けど……嫌いなものだってある。嫌で嫌で仕方がないものだってある。そんなの、どうにもしようがないじゃないか。

 リリスの姿も見当たらない。

 もう嫌だ、嫌すぎる。

 

 ――ノアぁっ……!!!


 膝を抱えてうずくまった文の肩に、ひやりと何かが触れた。

「う、うわぁぁぁああぁぁぁあぁ!?」

「ひやあぁぁぁ!?」

 二つの悲鳴がゴチンと音を立ててぶつかった。文が突然立ち上がったせいだったのだが。

 しりもちをつき、文は慌てて相手に言った。

「大丈夫か!?ごめん、俺、びっくりして……!」

「あ……いえいえ、あの、俺も勝手に声掛けちゃって……」

 暗くてよく見えないが、同じような背格好の男だった。特に警戒は必要ないと思うが。

 しりもちをついたまま、相手も照れたように笑った。

「あの、とりあえず立って……俺は大丈夫だから……」

「そうか?あ……お前、血が……」

 悲しいかな、吸血鬼の性だ。血に飢えていなくても反応してしまう。

 いつもの癖で、とっさに文は相手の手をとって指先に口づけた。

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