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死ぬことは罪なのかい?

初めて書いてみました。つたない部分があると思いますが、生温かく見守ってやってください。

 警告です

・時折グロ描写があるかもです

・BLとさせていただきます

・誤字脱字のチェックはしていますが、間違いがありましたら解釈してお進みください。


こんなところです。おおよそ、これさえ守れば大丈夫だと思います。

 じっとりと暑く、熱中症患者が出てもおかしくないような記録的な猛暑の日であった。家畜だろうと人間だろうと、この日ばかりは室内に閉じこもっている者が多かった。

 

 無論それは、陽のあたる生物に限ることではないのだが――


「あっづい……もう駄目、死ぬ」

「うるさい。死ぬのなら外で死ね」

 クールな声と口調ではっきりと。特に隠そうとすることもなく、突き刺さるように言葉は抜けて行った。

 カランと、コップの中で氷が落ちて転がった。

「ああー、わかった。ちょっと死んで来るわ」

「行ってこい。止めんからな」

「わぁってるって。んじゃ、逝ってきまーす……」

 窓からのぞくはるかに高い空。じりじりと、身を焼くように太陽は照りつけてくる。

 軽くストレッチと伸びをし、眼がくらむような世界へと飛び込もうと体を傾けた。

 はらりと、風で本の頁がめくれた。

「っ……ひゃぁぁぁぁっほぉぉぉぉ!!!!」

「うるっさい!!」

 自分と世界の境界があいまいになっていく。飛び込んだ世界はあまりにも儚く遠い。

 ――そんなそんないい気分を一瞬でぶち壊しやがって。

「ぐぇっ!?」

「てめぇ……人の読書を邪魔しやがって……許さんぞ」

「ノア、とりあえず手ぇ離して……ほんとに死ぬから!!」

「死ぬと言ったのはてめぇだろ。さぁ、絞殺してやろう……」

「う、うわぁあああぁぁあ!?」

 悲鳴をあげながら、それでも視線は下に。

 マリンブルーだの紺色だのといった水面に白い波が当たって砕けていく。断崖絶壁と呼ぶにふさわしい今の場所からだと、落ちれば確実に死ぬ。

 「ノア」と呼ばれた青年は、にっこりと仮面のような笑みを浮かべた。

「死ね死ね死ね死ねぇ……」

「怖い怖い怖い!っつーか、首掴んでんだろっ!?」

 そう――窓辺にて、真昼間から首を絞められている。この真夏日に。

 こんなにいい日和なのに。

 ギリギリと首を絞め上げ、ノアは不敵に笑んだ。

「さァ、逝け。逝ってこい」

「ぅぐっ……やー、なんかさぁ。悲鳴上げてんのも飽きた」

「……そうか。早く逝け」

「お前は話を聞け」

「てめェの話はめんどくさい。逝け」

「はぁ……?」

「逝け」

 話は聞いていないがあくまで笑顔。それが無性に腹がたつが、やる気はそがれるし何より馬鹿力で首を絞められている自分がいる。

 不意に、パキリといい感じの音で何かが折れた。

 頬を掻き、青年はノアに向かって笑いかけた。

「首折れたんスけど。お前には聞こえない音で、パキッていった」

「なら呼吸するな。ラクに逝ってこい、読書の邪魔ものには死さえも生ぬるい」

「何その俺様論理。まぁ――死ねないんだけど」

 首を絞められようとも、首を折られようとも――死ぬことは許されない。時折、運よく死ねた奴もいるが大概は灰になるまで生き続けて惨めに死んでいく。

 ふっと、突然拘束はゆるんだ。

「なら、死にたいだの何だのと言うな。俺まで惨めになる」

「ノアが殺してくれるんならいーんだけど」

「とりあえず、折れた首を治せ。気持ち悪い」

「あー……もう治ってるかも」

 鮮やかなグラデーションのあるくせっ毛を揺らし、青年は首をコキコキと鳴らした。何事もなかったかのか、マッサージでもするかのように。

 本を持ち直し、ノアは退屈そうにそれを読み始めた。

「――(あや)。てめェ、いい加減にしておけよ」

「うん?何のこと?」

「――月夜の晩には、野犬が出るそうだ。近くの農夫どもが噂していたが、お前、まだ外に出ているのか?目撃情報が後を絶たない」

「犯罪者みたいに言うなよなー……まぁ、うん、何か悪い?」

「仮にもここの主だろう。それくらい、いい加減に自覚して――」

「わかってるわかってる。ノアの言うことに間違いはねぇから」

 わしゃわしゃと髪を掻き、「文」と呼ばれた青年はノアを背にして窓に向かった。

 さんさんと降り注ぐ太陽――それとは真逆の蝙蝠の漆黒の翼が、文の背から生えた。


              *      


 ――高い高い洋風な古城。そこに住むのは青年が二人。他の人間は極力近寄らないように配慮し、ただただ恐れていた。

 紅い目を持つ青年たち――古城に合わず常に和服で、破壊音は絶えずふもとの街まで響き渡っていた。それでも誰一人として、文句などは言わなかった。


 ――あの城に住むのは『化け物』だよ。


 誰ともなく言いだしたその噂。東洋らしくない紅い目や、尾ひれをつけて広まった不気味な噂の数々。それが、全ての根本だった。

 人が消えようとも、作物が奪われようとも。都合の悪いことはすべて、この住民たちに押しつけられた。不満などは言わずに。

「で、噂って今度は何。また行方不明?」

「いいや、逆だ」

「ぎゃあくううぅ?ちゃんと言え」

「そのままだ。人が増えた――といっても、人かどうかは不明だが」

「同種?だったらめんどいな―……」

 バサバサと翼がはためいた。人としておかしな構図で。

 ため息を軽く吐き、ノアは文の翼を引っ掻いた。

「いだぁっ!?」

「同種ならほっておけばいい。あー、眠い眠い……」

「ちょっと、待ちんさい!お前、何知ってんの?」

「別に。何も知りたくはない」

「知りたくないって、何それ。頭悪いからとかって思ってんの?」

「ああ、うん……そうだな」

「……ザクッてくるから、やめてあげて」

「知るか。ただ、少し――匂う」

「え、汗臭い?」

 あほっぽく、文は無邪気にも体を匂った。

 はぁ、と無意識にノアからため息がこぼれた。

「なんだろうな、この匂いは。だから、不要に外には出るな。特に日が落ちてから」

「まんま、俺たちの活動時間じゃん」

「だが、襲われるよりはいくらかマシだ。迎撃して殺しでもしたら、誰に迷惑をかけるかわからんからな……そうでなければ殺してやるが」

「ふぅん……」

 興味もなさそうに、文はうなづいた。

 はたと、ノアの勘が嫌な何かを告げた。

「っ、待てっ!!」

「行ってきまぁす……っ」

 まっさかさまに、世界に溶けてしまいたい。溶けて、解けて、融けたい――

 ノアの声が遠くなっていく。あえて翼はまだ使わない。地面すれすれで発動させ、大空へと舞い上がるために。こんなにいい天気なのに、どうしてノアは外に出たがらないんだろうか。引きこもってたら、体にカビでもきのこでも生えてくるんじゃないかと不安になる。

 やれやれとでも言うように、ノアは落ちていく文をしばらくの間眺めていた。

「……牙城(がじょう)の名を汚すつもりなのか、あいつは……」

 縛られはしない、ただのアホと。そう割り切ってしまえば、こんなにつらくないのに。

 疼いて止まらない衝動――いつかはなくなるのだろうと願うように思い、ノアはその長い髪を結いあげた。

 

 ――『和製吸血鬼』と。誰かが、そんなことを吐いた。

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