屈辱の質問と誘導尋問
実名を出せないのは難しいですね…。
私の名前は松岡良佑。
こんなんでもネット小説大賞受賞経験者で漫画も連載中だ。
そんな私は、水曜日に放送している、商業地区,都心部を意味する『Downtown』をコンビ名としている人の番組が大好きである。
特に名探偵津田が大好きだ。
ちなみに、この名探偵津田は1の世界の津田さんの事であり、2の世界の同姓同名の人物とは一切関係ない事を明記しておく。
実在の人物の名前は出せないからね!(私はルールを守ります!)
この人は凄いごいす――タイプミスしましたが、とにかく凄い!
雪山ペンションで才能を開花し、因習村の事件を解き、リゾートホテルでは新潟の寒さを舐めない用心深さを見せ、今回ついに時空の因果関係まで絡んだ謎まで解決した。
もう、日本が誇る名探偵といっても過言ではないだろう。
そんな1の世界の津田さんを特集した本が、2の世界で発売されると言う!
まさに次元を超越した活躍だ!
その雑誌名も頑張って伝わるように、かつ、実名を上げないように注意するなら【∀И∀И】とでも書くべきか。
名前は昔から知っている。
本屋で側を通り過ぎたとき、表紙が目に入ったこともある。
その出版社にとっては申し訳ないが、私にとってはその程度の知名度であり、見た瞬間から忘れていく存在だった。
それを、まさか買い求める日が来ようとは!!
それがまさかこんな事になろうとは――
【2025年12月26日(金)】
今日はその本の販売日。
近所の本屋に早速足を運ぶ。
どこにあるかは知らないが、まぁ、店内を歩いていればその内見つかるだろう。
――無い。
無いぞ?
流石名探偵津田さんの活躍を記した本だ。
あっという間に売り切れ完売なのか?
流石だ――
全部をしっかり見た分けでは無いので見逃したかもしれない。
ただ、今日は時間も無い。
もう間もなく入院中の母の見舞いに行かねばならないのだ。
仕方なく本屋を後にした。
なお、後に分かる事だが、その本屋にはしっかり【∀И∀И】は置いてあったのは余談である。
【2025年12月27日(土)】
昨日の本屋は規模が中規模本屋だったから無かったのだろう。
今日は、大規模本屋に探しに行った。
だが、大規模本屋を闇雲に探し回っても、無駄に疲れるだけだ。
私は人間である。
文明の利器を使わずしてどうする!?
私はスマホを取り出し、素早いフリック操作で【∀И∀И】を検索する。
もちろん【∀И∀И】で検索してもヒットしないのは明記しておく。
ちゃんとこの情報から、真の雑誌名を推察してほしい。
名探偵津田さんの様に。
それはともかく、検索結果がズラリと並ぶ。
やはり女性雑誌か。
それは何となく知っていた。
「なッ!?」
だが、問題はそんな事ではなかった。
『セッ(これ以上は18禁になるかもしれないので伏せる)で奇麗になる』
たまたま選んだ表紙にはそう書いてある。
表紙の女性もセクシーだ。
……アダルト本だったのか?
女性誌では無いのか?
あれ?
仕方なくアダルトコーナーに足を向ける私。
何か腑に落ちないが、仕方ない。
そうこうしている内に、該当コーナーにたどり着く。
……誰もいない。
だれか居ると(恥ずかしさが分散するので)探しやすいのだが……。
仕方ない!
私は両頬をパチンと叩き、捜索を開始した。
ここからは時間との勝負だ。
長時間ここに居るのは、社会的にあまり好ましくない。
レンタルビデオ店なら、区切られた区画だったが、本屋はそうではない。
堂々と勇ましく、あられもない姿の女性達が並ぶエリアだ。
長時間捜索していては、知り合いにでも見つかったら私が社会的に終わる!
名探偵津田特集の表紙は覚えている。
基本的に黒い表紙だった。
俺は高速で視線を動かし目当てのモノを探すが無い。
まさか!?
発売2日目で平置きじゃなく縦置きで、陳列されているのか!?
その縦置きの本を一冊ずつ探すが、当然無い。
ここまでくると、性欲の猛獣的な姿形だ。
背後を通過する女性の視線が背中を貫いた。
(違うんです!!)
断じて違うと言いたいが、私も男。
興味が無い訳ではないし……と、そんな事を言いたいのではない!
駄目だ!
無い!
やっぱり女性誌だろう!?
俺は女性が立ち並ぶエリアへ行き、立ち読みする女性たちの背後から本を探す。
駄目だ!
有る無いに関わらずこれは駄目だ!
完全に変態だ!!
絵面が絶望的に悪すぎる!!
俺は仕方なく店員に聞いた。
「あの、えぇと、その、【∀И∀И】という本を探しているのですが……あっ!? えぇと……姉に……」
ちなみに私に姉はいない。
女性店員はギョッとしつつ俺を見る!
当然だろう。
男が女性誌を買うなどどうかしている――「あぁ、名探偵津田さんの奴ですね!」
女性店員の顔がパッと明るくなり、俺をそのコーナーまで案内してくれた。
察しの良い店員さんで本当に助かった。
変態と思われずに済んだよ……。
案内された女性誌のコーナーには、見事、平置きに【∀И∀И】積まれているではないか!!
名探偵津田特集として!
立ち読み女性の陰で見えなかったのだ!!
俺は手を伸ばして本をとると、女性店員と一緒にレジに向かった。
「名探偵津田、面白いですよねー!」
「そ、そうですね! 面白いですよね!?」
「お姉さんも津田さんが好きなんですね?」
「……姉? あ!? はい!!」
女性店員はニヤリと笑った。
何と見事な誘導尋問よ。
これが事件だったら俺は逮捕されていただろう。
その後、母の見舞いに行き、意識不明の母に事の顛末を語って聞かせた。
流れる涙は母に対する悲しみの涙なのか――
はたまた恥ずかしい思いをした悔恨の涙なのかはわからない――
俺はまた一つ賢くなった。
何かを失った気もするが。
だが、決めた!
これを短編として発表するのが、小説家の端くれとしての矜持よ!
辱めなど知ったことか!
なお、その病院からの帰り道、最初の本屋に行くと、【∀И∀И】はしっかり置いてあったのは余談であり、そこで見つけておけば、今回の件が無かったのは余談である。
タイムマシーンで昨日の俺に教えてやりたいが、俺は1の世界の住人では無いのが悔やまれる。
何にせよ念願の本をゲットしたぜ!
皆さん【∀И∀И】は女性誌コーナーですよ!
【∀И∀И】が女性誌なのは当たり前だって?
知らなかったんだもん!!




