90話 選ぶのは自分自身
「なら、逆に根詰めて仕事するのもよくないわよ?昨日だって遅くまでLIVE配信してたじゃない。」
「それはまぁ、そうだけど・・・。なんなしても今はあんなにバリバリ戦ったりするイベントでもないから大丈夫だよ。それよりも大先生はいいの?」
「敷田さんが最後に洗浄するって言ってたからそろそろだと思うわよ?」
「洗浄?水洗いとか?」
「バイオナノマシンを剥がす為に医療ポッドを使うそうよ?昨日の時点で三枝先生が準備して、敷田さんがそれようのプログラムを走らせるらしいけど、流石に私も医者じゃないからナノマシン関係の話は分からないわね。寧ろ真利の方が詳しいんじゃないかしら。」
「元々医療器具としてポッド売ったりナノマシンの作成依頼の仲介をしてたけど、そこまで詳しくはないよ。」
そうは言いつつもなんか知識は入ってるんだよなぁ・・・。白波先生だっけ?あの人の論文に脳波による外部からのナノマシン操作なんてのもあるし、他の著名な先生達の人体ネットワークに根ざしたナノマシンの有効活用なんてのもある。
現状で言えばナノマシンの操作は医療ポッドありきで、それを介さない場合は事前にプログラムされた動作、例えばスプレーやらナノテープやらは塗布したり貼り付けたりしたら傷口に作用する。割とすごいのは保護液生成やら人口皮膚の生成、治癒速度の高速化等々、昔なら数日から一週間くらいかけて治っていた傷も半日やらで元通りになる。
ただあんまり大きな傷や骨折、自分で指紋切り取ったりしての犯罪隠蔽なんかには使えない。あくまで元々の形に戻すのがメインで昔は自分で美容整形出来るなんて眉唾な話もあったけど、結局治癒=元通りなので変化とか整形と言うものには使えないのよねぇ。
「どうも〜、華澄さんいます?」
「ええ、ここに。」
ノックされて扉が開くと敷田さんが座敷童子を連れてと言うか小脇に抱えて入ってきた。球体関節の市松人形だからだら~んとしてひと目で人形だと分かるな。ただ、結構古いもので高いんじゃないの?それ。
「多分洗浄は完璧でナノマシンの付着はないと思います。」
「そうですか。座敷童子、体調はどうですか?」
「分からねぇ。元に戻ったよ様な何かが抜け落ちたような・・・。なんにしても数日はなんも食べねぇ。」
「珍しいですね、普段は甘味を寄越せと煩いのに。」
「なんか今食べたら不幸が来る気がする。」
流石というか座敷童子だから幸福とか不幸とかが分かるのかな?と、言うか本人に降りかかる不幸が分かるとか無敵じゃない?トラブルオンラインにラックなんてステータスはないけど、他のゲームにはあるものも多い。
大抵はクリティカル率なんかに落とし込まれるけど、なんの割り振りやらアイテムも使わずにクリティカル連発出来るなら攻略とかも楽だろうな。たいては2倍ダメージとかだし。いや、イベントの方が有利?ギミック理解せずに正解を引けるし迷路風なダンジョンでも迷わなくていいし。
「そう。なら断食しておきなさい。永遠でもいいわよ?」
「食わなきゃ向こうに戻るぞ?」
「戻って何をするんですか?いづらいからコチラにいるのでしょう?素直にお腹が空いたと言えばなにかだしますか?」
「ちっ!勝手に食うからいい。ただ、甘いもん置いとけよな!」
なんだろうなぁ〜。眼の前で不思議な現象が起こっているはずなのにだら~んと敷田さんに持たれたままだから、シリアスさんやらホラーさんやらの霊圧が消えている。でもまぁ、コレで少しは動ける様になるのかな?
「大先生ごめんね、桃とか食べさせちゃって・・・。」
「いや、またくれ。あると便利だしな。」
「はぁ、まぁ、欲しいなら?今は出せないけどね。」
「ある時でいいぞ〜。」
「ではどうぞ。コレから華澄さんはどうされます?面会時間中ですけど仕事がありますよね?」
「暗に帰れと言うのは分かりますが・・・、敷田さんの権限はどの程度ですか?」
「権限?私は医者なので権限と言われても自身の分野で自身の担当する患者に対してとしか・・・。」
「なら話は早いですね。真利の外出を許可して下さい。」
「はいはい、華澄も無理を言わないの。」
「無理とかじゃなくてきっかけがないと真利は先送りするでしょう?今は配信者でいいだから出ないから、安定したら配信者で仕事してるから外にでないに。元々旅行とかは好きだけど目的のない外出ってあんまり好きじゃなかったじゃない。」
「まぁ、確かに。外をぶらつけって言われても直ぐにカフェとかに入ってたなぁ・・・、なんで知ってるの?」
「見てたら分かるわよ。」
その見てたらってどっち?互いの連絡先知ってるから付き合ってたらどこにいるなんて簡単に分かる。今はスマホ変えたからそうでもないんだろうけど、たまに街でばったり会ったりしたのは・・・。
まぁ、それはそれで普通の事か。監視されてるわけじゃなくて、誘拐やら防犯の観点からある程度の知人やらには許可してれば居場所を通知しても問題ないとしてたし。因みに会社側がコレを強制すると行政処分の対象になる。だって休みに近くにいるからと呼び出しやすくもなるからね。ただ、病欠とかなら証明は求められるかな。
「私じゃその許可は出せませんね。三枝先生がリーダーでそれを超えたいなら医院長とかですよ?どちらにせよマリちゃんの外出は慎重に!と言うのが私達の方針ですし。」
「ふむ・・・、そこに真利自身の意志は?」
「加味されますよ。病院はあくまで患者を健康にして社会復帰させる場ですからね。色々と外に出せない場合もありますけど、マリちゃんの場合は精神的にも身体的にも健康ですし。」
敷田さんはそう言うけど確かに健康ではあるんだよなぁ〜。毎朝起きても腰が痛いやらはないし、運動能力測ったときも筋肉痛は来なかった。その代わり別のオプションは増えたけどね。
「分かりました。真利、今日は帰るけどなにかあったら直ぐに連絡してね。あと、りんごはそこにおいておくから。では、敷田さん後はお願いします。」
そう言って華澄は帰っていき残されたうさちゃんりんごをポリポリ食べる。結構話し込んでしまって11時半か。外に出る出ないと言う話は本当にどうしようかなぁ・・・。事故にあてこの体になってようやく1ヶ月くらい。
う〜ん・・・、確かにきっかけがないと外に出ないと言うのは本当で、このまま引き篭もり配信で視聴者を増やして行けばいいかなぁ〜と、考えていなくもない。でもそれは逆に目標設定のなさでもあるんだよなぁ〜。視聴者を増やす=コンテンツに力を入れる=今だとゲームと言う構図になり外に出なくなるし、買い物もポチれば届けてもらえる。
「どうかしました?」
「華澄の言う事にも一利あるなぁと思いまして。いきなり町中に出るのはハードルが高いかも知れませんけど、座敷童子先生がいる所ならある程度の受け皿もある。なら、そこを経て反応を見て外に出るってプロセスを踏んだ方が摩擦軽減にはいいのかと。」
「う〜ん・・・、私達はサポートする側で被験体として強力してもらう立場だから絶対にこうしろって言う命令はだしません。まぁ、ナノマシン関連でなにかあればその限りではないですけどね。でもマリちゃんがその方が社会復帰しやすいと思うなら、確かに華澄さんの職場に行くのは間違いではないかも知れませんね。と、昼食どうします?」
「敷田さんが忙しいなら備蓄食べてここにいますよ?」
「いえいえ、後で運んできますね〜。」
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「おい華澄、本気でマリを外に出す気か?」
「ええ。そのつもりですが?」
人にとっての障害と言うものは色々なケースがある。物理的に体に障害がある事もあれば、心に闇を抱える事も精神的にまいる事も。その点、真利は特に障害と言うものを持っていない。あるのは躊躇だろう。
自身がどう受け入れられるのか?受け入れられるだけの土壌はあるのか?ないならそれをどう作っていくのか?外への憧れと言うか、元々アクティブでも合った真利が引き篭もりのままいるとは思えない。
だからこそ外に出ても大丈夫と言う保証と受け入れる人間を先に紹介しておく。それが私の職場であり木本さんであり、その上だとしても。この国にはそこそこ妖怪と呼ばれる者が多い。奇形から成り立ったものもあれば、精神体としてある者も。
先日停電したのだって精神体の方がコチラに来ようとして停電は起こったし、真利がやっていたゲームのサーバーが落ちたのもその関係だし、なんなら大規模停電が発生して事故に合ったのも・・・。
この国の法で妖怪や精神体は裁けない。それを裁くとするなら先に認めないといけないから。だから停電すれば電力会社が謝罪するし事故を起こせば起こした個人が裁かれる。現実的な話をするなら、そう言った自体が起ころうと対処出来る様にインフラは整備されたし安全基準も作られている。
人は間違いを起こす動物で、妖怪もまた間違いを起こす動物。だから間違っても大丈夫な様に操作ボタンは増やされ、1つ押し間違っても次のボタンを押す時に1つ前が間違っていれば作動しない様にして来た。でも、その間違いの連鎖は続き真利は人とも妖怪ともつかない者になった。
そう、境界に立つ者。妖怪側からすれば座敷童子の擬似的な受肉を見れば羨ましくも思い、人から見ればナノマシンで出来た体は衰えない永遠を考えさせられる。
それが本当に永遠かは分からない。でも真利のゲームデータをトラブルオンラインの運営会社に警察として参照させてもらった所、永遠を生きる等のテキストが出てくる。ゲーム内ならそれはいくらでも誇張した表現で流されるけど、現実となればそうも言ってられない。ただ既に永遠を生きるあの病院の理事もいるのだが・・・。
「テセウスの船か・・・。」
「何だそりゃ?」
「昔、なにかの拍子に真利が言ってたのよ。人として物理的にある物全てを別のなにかに置き換えたとして、そこに残るのは何かって。」
「ふ〜ん・・・、あの幼子がねぇ。」
「幼子?」
「最初は怖かった。今も怖い。でも、ガキ相手にビビればつけあがる。だからビビるのはやめて普通に振る舞う。俺はそこそこの大物だぞ?で、アイツはなんて?」
「連続して繋がってれば本人が残るそうよ?腕がなくなっても生えればそれは本人、足がなくなっても切り取られた足は足で体がある方が本人。なら、全部なくなった後に生まれ変わったら魂だけが本人で入れ物は馴染めば本人になるって。前はよくわからなかったけど、今はそれの意味が分かるわ。」
「そりゃぁ傑作だ。」
「傑作?確かに出来た話だけど精神論じゃないかしら?」
「全然?俺は俺だからここにいる。体は取り替えられるし、燃やされても痛くも痒くもない。でも忘れられるのは堪える。知ってっだろ?妖怪は悪戯好きだって。」
「ええ。そう言うたちのくせに見られるのは嫌がるわね。木本さんが顔が効くのだって狐の窓のおかげもあるし。」
「おう、見られて固定されれば引きずるからな。でもマリはその辺りかなりぶっ壊せる。だからあそこから出すのは気を付けろよ?アレはお前達が思う以上に化物だからな。って何するんだよ!」
イラッとしたので一発殴る。私が押しかけて女房の地位を得たのに、その夫を勝手に化物扱いしないで欲しい。真利は国が認め人としてある耳と尻尾の生えた狐娘なだけで、前と何1つ変わらない。
「化物は訂正しなさい。私の夫か妻です。」
「流石柊性、ヤマトタケルが比比羅木の八尋矛貰ったりして魔除けの象徴でもある名を冠してやがる。」
「そんな昔の事は知りません。私は私です。」




